( 3 )
「おいこらてめえ。鍵くらいかけとけや」
10日ぶりに見るあいつの顔。
あいつのアパートまで来たはいいが、応答がなかったら帰ろう、と思っていたが、応答はないものの鍵が開いていたのだ。
おいおいおいおい、不用心だろうがよ、と勝手知ったる家なのだ、中へと入ることにした。死なれてても困るし。
中に入ってから第一発見者はもっとごめんだということに気付いたが、布団の中ですやすやと寝ているバカをみつけ怒りがこみ上げ、10日ぶりだというのに布団を剥ぐのと同時に怒鳴りつけた。
それが冒頭のセリフである。
そうなのだ。ようするに鍵さえ掛かっていたらこんな思いはせずに済んだのだ、ということにしておく。
「あー……?は?なんでいんの」
「なんで、ってお前が10日も音信不通だからだろーが!」
「いや、それでなんでお前がそんなん気にすんの」
「はあ?お前せっかく俺がさー、きてやったのにそれはねーだろ」
「……頼んでねーし」
「てめえ」
「お前俺が嫌いなんだろ。ほっとけばいいじゃん」
「そりゃ、そーだけど」
「……帰れよ」
「ちょ、待てって」
「帰れって。いいじゃん。ひとりでも。音信不通でも。そうじゃん、ひとりなら誰もいなくなんないし悲しくなんないし死にたくなんない」
「……おい、」
「でも結局死んだりできねーよ。死ぬのとかまじこえーし。でも誰かが死ぬのみんなら俺がさっさと死んだほうがいーのかとか思うけど死なれたくないやつをつくんなきゃいいんだよな。だからさお前さ、まじ、もう勘弁してくんね。お前を2回も失うとか正直きつい」
「……………」
「だから、もうかかわってくんな。俺はもうかかわんないから」
そんな風に虚ろな顔をしてこいつは言った。顔は、表情は無気力なくせに、やけに言葉は強かった。
「……お前は、それでいいわけ」
「それをお前が言うか?」
「だって、」
「だってじゃねーよ。いいとかいくないとかじゃなくてそーすんだよ。わかったらでてけよ」
「やだ」
「やだって、」
「やなもんはやなんだよ。俺だってよくわかってねーよ、でもさ、お前が部屋でひとりでいんのとか、だからってこれから先もしかして誰かと一緒になんのとかどっちもやなんだよ。だったら俺が隣にいるしかねーじゃん」
「…………は、」
「…………ちがうな。俺がお前の隣に居たいんだわ」
「……いーのかよ……こんなんだぞ」
「いーよ」
そう言いながら顔を歪めるこいつを抱きしめた。ぎゅうぎゅう抱きついてやった。
そしたらこいつもぎゅうぎゅう抱きついてきた。泣きそうだ。泣かねぇけど。
「な、なるべく絵文字使う……メール……」
「いーよ。なんか逆にあわないよ」
「ばっかじゃねーの」
「うっせ」
右肩がじんわりと濡れるのを感じながら、俺はこいつの肩を濡らさないように必死だった。
end
back