年上だったので
Tennoji×Matumae by『午前零時半にて』
最近仲良くなった顔馴染みの天王寺さんが実は俺よりも年上だったという事実が判明した。
あまりにも物腰低く接してくるから同い年くらいだと思い込んでいたものだから、天王寺さんに年を聞いた時は軽いショックに襲われた。
でも確かにあんなにイケメンで、真似できないくらいオシャレで、高身長な人が俺と同い年だなんてありえないもんな。
どうしよう俺、同い年だと思ってたからすっごく馴れ馴れしくしちゃってたかも。
知らなかったとは言え、なめた態度を取っていたかもしれないと心配になり謝る俺に天王寺さんは安定の腰の低さで「いえ!そんな俺なんか!松前さんと知り合いになれただけでも恐れ多いので!全然大丈夫です!」と真っ赤な顔で(内容はいまいち理解出来なかったけど)言ってくれたので、まぁ、きっと大丈夫なのだろう。
けれども過去は過去。
今は今だ。
と、年下と分かった俺は自分の態度を改めようとある提案を天王寺さんに持ちかけたのだが、なぜか俺は真っ赤な顔した天王寺さんとの攻防戦を繰り広げることとなっていた。何故だ。
「俺に対して敬語は使わなくていいってだけなのに、なんでそんなに全力で拒否するんですか天王寺さん」
そう。ある提案とは、年下である俺に敬語は使わなくていい。というシンプルかつ縦社会に厳しい日本人なら簡単に承諾できそうな内容のものだった。
そのはずなのに、なぜか天王寺さんは頑なに首を縦に振らずに真っ赤な顔で高速横振りをするばかりなのだ。あまりにも激しく首を横に振るものだから、いつもはゆるくセットされている髪の毛が見事にぐしゃぐしゃになってしまっていた。というか、そんなに首を振っていたら頭がクラクラしてしまうだろうに、大丈夫かな天王寺さん。
「そんな!そんな!恐れ多いです!今でさえ奇跡みたいなのに、これ以上は贅沢出来ないです!」
「なんで敬語使わないことが贅沢になるんですか。…ていうか贅沢って言うなら拒否らないで下さいよ」
「ご、ごめんなさい!」
「……」
ダメだ。どうやら首を横に振りすぎて頭の思考回路がどこかおかしくなってるみたいだ。
と勝手に天王寺さんの謎の言動にそう無理矢理理由付けて、追い込まれた小動物のようにプルプル震えながら首を振り続ける天王寺さんに最終兵器を出すことにした。
「…あーあ。もっと仲良くなりたいって思ってたのは俺だけなのかなぁ」
「っ!」
出来るだけ沈んだ声を出してこぼしたセリフにそれまでが嘘のように天王寺さんの動きがピタリと止まる。
「天王寺さんには、もっと仲のいい友達みたいに接して欲しいのになぁ」
「?!」
チラリ。盗み見た天王寺さんは池のコイみたいに何度も口をパクパクとさせていた。その顔は可哀想なほど真っ赤に染まり、さすがにちょっといじめ過ぎたかと口を開いた俺に被せるように天王寺さんはもはや叫ぶみたいに声を上げた。
「っ、た、尚志!…くん」
敬語どころか色々とすっ飛ばしてのまさかの下の名前呼びに、今度は俺の口が何度もパクパクする番となった。呼び捨てには出来きずにくん呼びを付け足しているところが実に天王寺さんらしい。
というか天王寺さん、自分が俺の名前呼んじゃったのに気付いて今にも死んじゃいそうな顔して頭抱えてるんだけど大丈夫かな。この人いつの日か羞恥死してしまうんじゃないかと、割と本気で心配だ。
それにしても…見事に耳まで真っ赤だな天王寺さん。
まぁ、でも。
「いや、もう、てか、なんでいきなり名前呼びなの…。色々と飛ばし過ぎでしょ天王寺さん」
「お、俺もそう思う」
「……」
「……」
俺も彼と同じく耳まで赤くしているからお互い様か。と火照る顔に苦笑う。
それにしてもこんなに沈黙が恥ずかしいと思ったのははじめてだ。ていうか、俺も俺で友人にはじめて下の名前で呼ばれただけなのにどうしてこんなにそわそわと落ち着かない気分になっているのだろうか。こんな事、いちいち照れる事柄でもないだろうに。…もしかして天王寺さんの照れが俺にも伝染したのかな。
あぁ、そうだ。きっとそうだ。
だってこんなにも体全体で照れを表現してくる人なんてそう居ないから、つられて照れちゃっただけ。うんうん。そうに違いない。
なんて自分に言い聞かせ、引かぬ熱に顔を火照らせたまま、これまた付き合い出したカップルのように照れ合いながらやり取りを続ける俺達。
「と、とりあえず、そのまま名前呼びは続行で、敬語もなしだからね…司さん」
「!! は…う、うん!」
そんな、二人して赤い顔をして笑う彼と俺との距離が少しだけ縮んだ、午後十二時半の事。
ーーーーーーー
松前尚志:大概の事には動じないけど、不意打ちに弱い。名前をよく「なおし」と読み間違えられるけど本当は「たかし」です。
天王寺司:松前さんの事が大好きすぎる年上ヘタレ。どうしてこうなった。というくらいヘタレに開花。でもやる時はやる男。のはず。
END
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