飼い主達の戯れ

Inukai & Takashima by 『ペットの〜』『恋する鷹〜』






 俺の友人が最近ツイッターなるものをはじめたらしい。
 今までツイッターなんて興味ないって顔していたのにどういう風の吹き回しだと尋ねた俺に友人はにやけ下がった顔でこう言った。

 「ほらぁ、俺最近ワンちゃんかいだしたじゃん?でさー、そのワンちゃんがあんまりにも可愛すぎてみんなに自慢したくなっちゃったんだよね」

 との事らしい。
 普段からしまりのない顔をさらに緩めさせる友人は、まさに色ボケした奴のそれであったが、俺は深く追求為る事なくそれは良かったなと最近ハマり出したレモンティーをすする。
 いつも飲んでいる茶葉の物とは格段に香りも味もおとる紙パックのレモンティーにすっかり舌が慣れてしまったなと、その原因になった人物を思い浮かべてなんだか胸のあたりがこそばゆくなる。氷の王子様なんて馬鹿げた名前で呼ばれるくらい俺の表情は変わらないと定評があるが、目の前に居るのは腐っても幼馴染。誰も分からない俺の表情の変化を唯一読み取れる友人は、にやけ顔から一変どこかからかうような表情を浮かべて『キャー、なんか気持ち悪い顔してるー』と無理した高い声を出して長身をくねらせる。
 その猫なで声と動作に全身に鳥肌がたつ。

 「犬飼キモいぞ」

 「あははー。キモくしてるんだから当たり前じゃん。鷹島へんなのー」

 なんて心底楽しそうに笑う捻くれ者を見て、こんな性格破綻者に捕まってしまったワンちゃんに少なからず同情の念を抱いてしまう。こんな人の嫌な顔を見るのが大好きな奴にかわれて、果たしてワンちゃんは無事に生きているのだろうか。一人っ子で自由気ままに生きてきたこいつにペットの世話なんてものが出来るのか非常に心配だ。聞けばこいつは実家ではなく、自分で稼いだ金で買ったマンションでワンちゃんと二人過ごしているらしい。もちろん実家とは違って身の回りを世話してくれるメイドもいない。ということは、だ。自分の身の回りの事どころか、ワンちゃんの世話も友人一人で、この、他人に一切の面倒を任せていた男がみているということになる。

 「……」

 無理だな。絶対に無理だろ。
 逡巡したのちそう結論づけて俺は一人頷く。
 考えるまでもなく、こいつに何かの世話をするなんて芸当出来るはずがない。そんな事長年付き合ってきた俺自身が一番よく分かっている事だ。
 でも、そう納得する一方で、疑問に思うことがあった。
 それは料理も、家事もてんでダメなはずの友人の着る服が変わらず綺麗にしわ一つない事と、以前と…いや前よりも格段に肌ツヤをました顔だ。俺の予想では実家とは違ってコンビニ弁当とか出来合いのものを食べているものとばかり思っていたが、それだとこの肌ツヤの説明がつかない。もしコンビニ弁当の方が友人の体質にあっていたというのなら、とんだジャンク体質である。

 「なぁなぁ、見てよこれ。俺のワンちゃんが作ってくれたんだ」

 「あ?…あぁ、なるほどな」

 「うまそうだろ?」

 だがそんな俺の疑問はデレ顔の友人が見せてきた画像と言葉で解消された。
 ゆるみきった顔で見せてきた友人の携帯の画面には、友人が実家で食べていたであろうものと同じくらいの品数の美味しそうな料理が所狭しと並べられている写真がうつっていた。そして恐らくこの料理を作ったのは先ほど友人が言っていた通りワンちゃんなのだろう。
 どうやら料理の出来ない友人の代わりにペットの彼がご飯を作っているらしい。ということはこのしわ一つない服も…

 「でー、こっちは俺の服にアイロンかけてくれてるワンちゃん」

 あぁ、やっぱり。俺の予想は当たっていた。
 ぶかぶかの、犬飼のものであろうシャツ一枚だけを着てアイロンかけをしているその写真を見て俺は全てを理解した。

 「お前、あの子に家事やらせてるんだな」

 「うん。あ、でも無理強いしてるわけじゃないからね?俺はいいって言ったのにワンちゃんが『俺にやらせろ』って言うんだもん」

 それはそうだろう。お前なんかに家事をまかせたら家が破壊されかねないからな。なんたってお前は『掃除機かけるー』とか言って窓ガラスを割った前科持ちだからな。という言葉は取り敢えず飲み込んでおくことにした。

 「でー、こっちが洗濯物干してるワンちゃん」

 親切さで言葉を飲み込む俺に構わず犬飼は楽しそうに画面をスライドさせる。
 見せられた画面の中には、なんでそんなに高いところにあるんだわざとだろ?と思わず言ってしまいそうになる高さに置かれた物干し竿に懸命につま先立ちで洗濯物を干す姿がうつっていた。

 「で、これが俺の膝の上でうとうとしてるワンちゃんで〜」

 次に見せられたのは眠そうに目を細めてカメラを見上げている写真だった。膝に座ってるとか言っていたが、このカメラアングル的にあれか、向かい合って膝抱っこという奴か。どんだけエンジョイしてるんだお前は。俺だってアイツを膝抱っこしてぇよちくしょう。

 「んでこれがー、俺と遊んでる時のワンちゃん!めっちゃ可愛いでしょ?」

 「…oh」

 頭の中でアイツを膝抱っこしている図を想像していればずずいっと眼前に持って来られた画像に、ついそんな外人地味たセリフが出てしまう。
 ちなみにこの『oh』は共感ではなくあまりのショッキングな出来事にもう言葉が出ません(というかお前頭大丈夫か?あぁ、大丈夫じゃなかったな)。のohだ。
 なんていうか、もうこいつ終わってやがるな、本当に。
 我ながら友人に向けて思う事ではないと思うが、見せられた画像にそう思わざる得ないのだから仕方が無い。それでもまぁ、こいつを見限ろうとは思わない自分が居るのだから、友情とはなんとも不可思議なものである。それになんだかんだ言いつつも、このぶっ飛んだ友人の側に居るのは楽しかったりするのだ。お互いどこかイカれたもの同士、波長というか馬というかきっとそういう類の何かが合っているのだろう。
 けれど、だからこそ俺はこの友人に言ってやらなければいけない。
 未だにやけ面で画像を見せつけてくる友人に一つため息をついて、俺はワンちゃんの為…というかひょんな事でこの画像を見てしまうかもしれないアイツの心労を慮って告げてやる。

 「犬飼、間違ってもその写真はツイッターにはあげるなよ?」

 「えー?なんで?」

 「なんででもだ、馬鹿」


 えー。馬鹿って言ったほうが馬鹿なんだからな。そう言って不貞腐れる友人の手の中で、あられもなく正面から友人に揺すられるワンちゃんの姿が暗くなった画面に飲み込まれていった。



 END




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