やっぱりつむつむ 2
そして話しは冒頭へと戻るのであった。
例のごとく蜜夜の部屋までエスコートされた俺は、自然な流れでベッドに座らされた。もちろん蜜夜くんもすぐ隣に腰をおろしている。あまりにもデジャブすぎる状況に、きっと俺の顔は可哀想なまで蒼白になっていただろう。いやいやそんなまさかね。わずかな望みを抱く俺の想い虚しく、流れるような動作で蜜夜に押し倒された。
一瞬のうちに変わってしまった視界にハテナを飛ばすよりも先に「草太、乳首みせて」と宣う声が飛んできて、俺は恐怖におののいた。
ナニイッテルノコノヒト。
俺を見下ろして微笑む蜜夜を見上げながら思った。反射のように両腕で胸元を隠す。去ったはずの試練が、いま再び俺の乳首に訪れようとしている。あの時は守ってやることができなかった乳首を守ってやらなければ。そんな熱い意志を燃やす俺など歯牙にもかけない蜜夜は、容赦なく胸元を隠す腕をむしりとった。「ひえ…っ」思わずあがった悲鳴に蜜夜がクスリと笑う。蜜夜の右手に両手をひとまとめにされて、頭上で固定される。俺の腹の上で膝たちしている蜜夜が、妖しい笑みを、浮かべた。
なんですか、その微笑みは。かたかた震える可哀想な俺を見下ろしていた蜜夜との距離がどんどん縮まってくる。そして蜜夜は俺の耳元に口を寄せると、笑い混じりの囁きを落とした。
「観念しろ、草太」
「…ぁ、やめ、蜜夜ぁ…っ」
「なら乳首触っていい?」
「んっ、だめに、きまって…ひんっ」
人の弱点である耳裏にかかる蜜夜の吐息にあげたくもないのに息があがってしまう。触れそうで触れないその距離で言葉を囁かれるたび、そこからゾクゾクが身体中に走っていく。
やめろと言えば乳首を触らせろだなんてさっきよりもグレードアップしているおねだりをされる。もちろんそれもダメだと答えれば、耳に舌を這わされた。耳朶を這う舌の感触にどうしようもなく体が震えてしまう。
「なんで?」
「…ひっ、そこで、しゃべんな…っ」
「えー。そこってどこだよ」
耳元で蜜夜が喋るたび吐息がかかりたまらなくなる。くすくすと耳元で笑わないで欲しい。ただでさえ弱い部分なのに、その声で囁かれるのはやばい。なんだかいろいろと、やばい。いやいやと首をふって逃れようとするけれど、こんどは唇ではなく手で触れられて唇とは違う感触に体が跳ねた。耳裏を指先でさすられ、抑えきれない声が口から漏れだす。本当にもう、なんでこんなに耳が弱いんだ俺は。
「やだっ、やだってば、蜜夜っ」
まるで犬か猫を撫でるような手つきで触れてくる蜜夜に嫌だと言うけれど、受け入れられるわけもなく…蜜夜くんはどこまでも我が道を行く。
「さてさてさーて」
「?! み、蜜夜さん?!」
そんな声とともに手が離れていったかと思えば、ズボンから思いっきりシャツを引っ張り出されて驚きに目を見開く。いきなり寒くなったお腹になにごとかと蜜夜の名前を呼ぶけれど、「ん?なんだい草太くん」といい笑顔を返されるだけだった。
その笑顔が怖いのだと、俺は産まれたての子鹿のように震えた。
こんなに幼気な子鹿をいじめて心苦しくならないのか!うん!ならないよね!蜜夜くん俺をいじめるの大好きだもんね!なんだか自分で言ってて悲しくなってきた!
「あれ?もう絆創膏は貼ってないんだな」
「ひぃぃぃぃっ」
がばちょと、胸元までシャツをめくりあげられて俺は情けなくも悲鳴をあげる。スースーする。スースーします蜜夜さん!
恐怖と寒さに体を震わせる俺にかまわず「あー、でも傷跡はまだ残ってるな」だなんてのんきに人の体を観察する蜜夜。
「……んっ」
「もう痛くない?」
「い、いたくなっ、あ」
「じゃあ触ってもいいよな?」
「んっ、ん、だめにっ、きまってだろ…!」
というか、もうすでに触ってるじゃんか!
乳輪を指でなぞって、指先で先端をコスコスしておいて、今さら何を言っているのだこの男は。この前カサブタが取れたばかりの乳首を蜜夜の指先で触れられるたび、忘れようとしていた感覚がよみがえってくる。
羽のように触れていたかと思えば、爪先を立てられて大げさに身体が跳ね上がった。耳裏に続いて乳首も弱点であるためか、蜜夜にちょっと触られただけでどうしようもなくなってしまう。普段より蜜夜の存在を色濃く感じるのもよくない。否応無しに思考だとか、抵抗を取り上げられてしまいそうになる。身をゆだねちまえよ。と囁く悪魔の声と戦うのに必死である。
かろうじて天使が勝っている。そんな状態なのに、俺を攻めてくる蜜夜の魔の手は止まらない。
指先でコスコスしたり、爪を立てたり、指で弾いたりとフルコースばりに乳首を攻めてくる蜜夜。悲しいかな。蜜夜の手によって攻められた左の乳首はぷっくりとその身をたたせ、一切触れられていない右の乳首も刺激をもとめて疼きだす。俺の乳首よ鎮まりたまえー。と呼びかけるけれど、まったく鎮まる気配がないとはどういうことだ。
「…ん、やだっ、ぁ、やめ、ろ…っ」
「え?こんなに触ってほしそうにたってるのに?」
「ひぃあっ、やだぁ、ほしくないっ、ほしくないからぁ…!」
「嘘つきは泥棒のはじまりだぞー?」
嘘などついていない。本当の本当にやめて欲しいと思っているのに蜜夜の言う通り乳首はツンと立っているし、疼いて仕方がないしで頭がおかしくなってしまいそうだった。
「なぁ、草太」
「…あっ!」
にやにやと笑いながら蜜夜がツンツンと右の乳首をつついてくる。突然与えられた刺激に体が喜ぶように跳ねて恥ずかしくてたまらない。もどかしさがなくなって嬉しくなっている自分に気がついて、年甲斐もなく泣いてしまいたくなった。どうしてこうなっちゃったの。とあの健常な乳首が恋しくてたまらなくなる。
俺が昔を懐かしんでいるなか蜜夜はなんどかツンツンするのを繰り返すと、こんどは指先で転がしはじめた。ツンツンの次はコロコロか。そうツッコミをいれてやりたかったが、乳首をいじる蜜夜の手があまりにもテクニシャンすぎて言語回路が馬鹿になる。あっという間に芯をもって硬くなるそれに甲斐性がなさすぎるだろうと説教をしてやりたい気持ちでいっぱいになった。
「気持ちいい?」
「ん、んっ、きもちく、な…っ」
「そのわりには……下、勃ってるぞ?」
「あああっ!」
気持ちいい?だなんて聞かれて気持ちいいなんて言えるはずがない。それを言ってしまったらもう、いろいろとお終いだ。もうすでにお終いだよと言われても俺は認めないからな!俺はまだまだこれからだ。
けれど蜜夜に懸命に気づかないふりをしていた下半身の昂りを指摘されたあげく服の上から撫でられて、身体中に電撃のようなものが走りぬけた。軽く撫でられただけなのに、恐ろしいほどビクビクと腰が跳ねる。今までにない感覚に頭の中が痺れて思考がどんどん鈍っていく。
あれ?なんで俺ってここに居るんだっけ?何してるんだっけ?
だからベルトを器用に外して直接中に蜜夜の手が入り込んできても、俺は反応できずにいた。
「お。濡れてる」
「あぁ…っ!みつやっ、やめ……っ」
そんな声と共に緩やかに昂りをみせるそれを触られて、視界がパチパチと爆ぜる。そこでようやく直接蜜夜に下半身を触られているのだと気がついて静止の声をかけるも、蜜夜の不埒な手は進行をやめない。
先走りを全体に塗りこむように手を動かされ下半身から痺れが走る。自分のものじゃないみたいに勝手に体が跳ねる。はじめて他人に触られる感覚に俺の体は一切の抵抗を奪われていく。
「草太の好きな所ってどこ?」
「あぁっ、あ…やだぁ…っ」
「んー…。ココとか?」
「ひぃ…っ!やっ、だめぇ…!みつやっ、やだぁ……!」
「…そっか。草太はココが好きなんだな」
「んんっ!あ…ああッ!んっ、みつやの、ばかぁ……っ」
「そんな顔で睨まれても怖くないからな?むしろたぎる」
なんてやり取りをしている間にも、蜜夜の手が動きつづけているものだからたまらない。たぎるだなんて不名誉なことを言われて反論しようと口を開いても、出てくるのは耳を塞ぎたくなるような声ばかりだった。
認めたくないが、蜜夜の手でそこを扱かれるたび気持ち良さが広がっていく。裏筋を指先でなぞられ、先端に爪をたてられる。溢れ出す液をすり込むように手を動かされ、いつしか俺はその快感を追うことに必死になっていた。
「おぉ。乳首もめっちゃ勃ってる」
蜜夜の言う通り、俺の乳首は触って欲しいのだと言わんばかりに立ち上がりその存在を主張していた。途絶えた刺激を求めるようにジクジクと乳首が疼く。くちゅくちゅと音をたてて触れられているそこみたいに、乳首を触って欲しいーーーそんな欲求が溢れ出し、俺はせがむように胸を突き出していた。
「あっ、んん…っ、みつやぁっ」
「…お前なぁ。胸突き出すとかエロすぎだろ」
蜜夜がなにか言っているけれど、快感にやけた頭では理解することができない。一度知ってしまった気持ち良さを求めて、滲む視界で蜜夜を見つめる。いつもと違う色気をまとった蜜夜と目が合った。熱をもった瞳に見つめられ、身体中の毛穴が開くような感覚に襲われる。見つめられている。ただそれだけなのに、体の熱が上がっていく。
快感にぼやける視界の先で蜜夜が興奮したように自分の唇を舐める。チロリと覗いた赤い舌にゾクリとする。あの赤い舌で舐められた感覚を思い出してしまって、ダメなのに、嫌なはずなのに、舐めて欲しくて仕方がなくなってしまう。
刺激が欲しい。もどかしい。あの時みたいに舐めて噛んで、蜜夜の指先でいじって欲しい。俺の理性の箍は完全に外れてしまっていた。
「……さすがに最後までヤるのは無理だよな」
「ん、ふぁ…? みつや……っ?」
「あーもー。だからそんな顔で見るなってば草太」
そんな顔とは、いったいどんな顔だろう。
ぼんやりと見つめていれば「覚悟しとけよ」と蜜夜が低く唸る。その言葉の意味を俺が飲み込むよりもはやく「…まぁ、気長にいくか」と呟いた蜜夜がにっこり笑った。その笑みにぼうっと見惚れていたら視界から蜜夜が消えた。どこにいったんだ?その答えは、熱に含まれた乳首が教えてくれた。
疼いて仕方がなかった乳首を舐められる。
尖らせた舌先でつつかれ、口の中に含まれる。かと思えば軽く歯を立てられて電撃のようなものが駆け巡った。止まっていた左手も動きを再開し、俺の体は魚のようにぴくぴく跳ねる。
舌で左右に倒すようにいじられたかと思えばぢゅっと音を立てて吸われた。蜜夜から与えられるすべての感覚が気持ちよすぎて、俺は閉じられなくなった口から情けない声ばかりあげてしまう。
「あっ、ああ……ッ、みつやっ…もっと……ッ」
「…はぁッ、……草太」
「ひぃい…っ、あんっ、やら…ッ、あぁあっ」
「はは。どっちだよそれ」
ついには自らもっととせがんでしまう始末だった。
せがんだ途端口を離した蜜夜に熱のこもった声で名前を呼ばれる。ただそれだけなのにどうしようもない興奮に襲われた。暴れだすゾクゾクが怖くて無意識のうちに逃げを打てば、逃がさないとばかりに乳首を噛まれた。
噛まれて痛いはずなのに、俺のそれは食べて欲しいとばかりに赤く熟れ、喜ぶようにとがりたっている。
どうしてこんなに気持ちいいんだろう。そんな事を熱で浮かされた頭の隅で考えていればまた蜜夜に名前を呼ばれた。どこか切羽詰まったようなその声に、どうしても体がゾクゾクしてしまう。
どこもかしこも熱くて気持ちよくてたまらない。その中でも蜜夜に扱かれている自分のものにどんどん熱が集中していくのが分かった。覚えのある感覚に自分の限界が近いのが分かる。だけどその感覚はいつもよりずっと強かった。
まさに前後不覚な状態の俺は両手が解放されたことにも気がつかない。あいた両手で蜜夜は俺のズボンと下着を足元まで下げると両膝をたたせる。下半身をさらけ出された羞恥を抱く余裕もなく、俺はされるがままだった。ぱかりと開かれた両膝の間で距離を詰めるように居住まいを正した蜜夜が熱い息を吐き出すのを、ただぼんやりと見つめる。
やんでしまった刺激に腰を揺らす俺に笑って、蜜夜は解放された俺の手をとった。そして目の前で俺の手に唇落とした蜜夜は「ちょっと、借りるな」と呟いた。
「? ……え?な、なに?あつ…っ?」
「…ン、草太…そのまま握って」
「あぁんっ、んあ…?みつや?」
とつじょ手に触れた熱い塊に頭の上でハテナが飛び交う。耳元で低く掠れた蜜夜の声に言われるがまま手を握ればなにか熱いものが手の中で脈打った。熱い。とても。その熱さで手のひらから焼けていくようだ。
「…はぁっ、草太、もう片方の手も…」
「あ、あつぅ…っ、なに?これぇっ」
言われるがままもう片方の手も持っていく。そしてさっきみたいに手のひらに触れるものを握れば目の前にある蜜夜の顔が色っぽく歪む。その表情にドキドキする。蜜夜は壮絶に、色っぽかった。そんな蜜夜に見惚れつつ、なにと質問しておきながら俺はその正体に気がついていた。同じ男なのだ。その熱の正体に嫌でも気がついてしまう。
チラリと手元を見やれば想像通りの光景が広がっていて口の中に唾液が溢れ出した。
「草太。一緒に握って」
「あつ…ッ!やらっ、これ、だめ……っ!」
「だめじゃなくて、気持ちいい、の間違いだろ?」
「や、あぁん…っ、こすれてっ、こすれてる、からぁっ」
「あたりまえだろ、擦ってるんだから」
眼下に広がる光景。
勃起した俺のものに、蜜夜のものがあてられていた。寛がれたズボンから取り出された蜜夜のものを握らされていたのだ。はじめて触る人のものの感触。不思議と嫌悪は感じず、俺と同じように勃ちあがっているそれに興奮さえ覚えていた。
口の中に溢れ出す唾液を飲み込む俺に蜜夜が命令を下す。
その命令に、俺の体は驚くほど従順に従ってしまう。
両の手で自分のと蜜夜のものを握りこむ。にちゃりと音をたてて触れ合ったそこから灼熱が産まれて、それだけでもイってしまいそうになる。それなのに蜜夜は俺が両手で握り込んだ瞬間、俺の手の上に自分の手を重ねて上下に動かし出した。
それだけでは飽き足らず、乳首にも舌を這わせてくる蜜夜に俺はもう息も絶え絶えだ。
いつのまにか蜜夜に手をおさえられていなくても上下に手を動かして快感を追っていた。
だらしなく両足を開いて、浅ましくも両手を動かして、いったい俺はなにをやっているんだろうか。
「…はっ、ン、草太…その調子」
「あッ、んんっ……みつや、みつやぁ…ッ」
だけど気持ち良さそうな吐息をこぼす蜜夜をみると扱く手に力が入ってしまう。どんどんこすりあげるスピードが増していく。腰が勝手に揺れる。気持ち良さをたえるように蜜夜が眉を寄せる。エロい。気持ちいい。
もう、なにもかもが、気持ちよかった。
「もうイきそうか…?」
「んっ、んっ、イく…、イっちゃ……っ」
聞かれて何度も頷く。当初抱いていた羞恥はどこかにいっていた。
馬鹿みたいにイきたいと繰り返して、蜜夜を見上げた。サラサラの髪の毛が汗で額にはりついているのをみて胸がキュンとする。俺の体はいたるところで異常をきたしているようだ。
「ほら草太。乳首もいじってやるからイけよ」
「やら…っ!ちくびっ、だめぇっ」
「大丈夫。草太は出来る子だ」
「できないっ、できない、からぁ…っ」
できる。できない。問答を繰り広げている間にも蜜夜の手が伸びてくる。その手を払いのけようにも、俺の両手はいまだ二人分のものを扱くのに忙しくて使えない。
蜜夜の手はどんどん近づいてくる。なのにやっぱり俺の両手はそこから離れない。気持ちのいいことを途中でやめられるほど、俺の意思は強くなかった。
そしてついに蜜夜の手が俺の乳首にたどり着く。
「草太」
「…っ、あ、あああ………ッ!」
低い声で名前を呼ばれたと同時に両方の乳首を思いっきりつねられて、ついに俺は白濁としたものを吐き出してしまった。
まぶたの裏で光が爆ぜて、足の指先がピーンと伸びる。のけぞる俺の首元に蜜夜が顔をうずめる。そして一瞬遅れで「…ンっ」と声を漏らすと、同じようにドロリとしたものを吐き出した。しばらく首元で息を整えていた蜜夜が上半身を起き上がらせる。俺はと言えば、強すぎる快感に呆然としていた。力の抜けた両手の中には、まだ俺と蜜夜のものがおさまったままだった。
太ももがビクビクと震える。
呼吸がままならなくて浅く息をする俺を蜜夜が見下ろす。恐ろしいほどの色気をまとった男の姿に、出したばかりのものが震えたような気がした。
「ちゃんとイけたな」
なんて笑う蜜夜に「ばかやろう」と言ってやりたかったけれど、疲れはててしまった俺はそのまま眠るように意識をなくしたのであった。
「って、おい。このエロい格好のまま寝るのかよ」
だから俺は知らない。
俺が意識をなくした後、蜜夜が苦笑混じりにそうつぶやいていたのを。
「……好きだぜ、草太」
甘くとろける表情で俺の名前を呼んでそんなことを囁いて俺にキスをしていたなんて、その時の俺は知る由もないのであった。
END
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