はじめてのハロウィン訪問
ハロウィン小説 in 2015 「trick or treat」
「…わ、わっつ?」
やたらめったらいい発音で言われたセリフに返せたのは、ネイティヴとは程遠いものだった。
一応語学を専攻で学んでいるのにこの発音はないだろう。と思いつつ目の前に広がる光景に思考を持っていかれる。噂通り高い身長から見下ろされ、俺は見上げる。いつも遠目でしか見たことがなかったけど、本当に整った顔してるんだなぁ。声も初めて聞いたけど、めっちゃいい声だな。さっきもいい声と発音よすぎて一瞬本場の人かと思っちゃったもん。でもたしか帰国子女だと誰かが言っていたような気がする。それならばこの流暢さも納得だ。
じゃなくて。
それよりも考えるべきことがあるだろうが。といまだに状況がつかめず思考が定まらない頭で整理しようとするけれど、やっぱりうまくいかった。
発音いいな。じゃなくて。身長高いな。じゃなくて。めっちゃイケメンだな。じゃなくて。じゃなくて、じゃなくて、じゃなくて。…あぁ、ダメだ。うまく頭が働かない。
「trick or treat」
「ほ、ほわーい?」
どうして今俺の目の前には、大学一のイケメン城間くんがドラキュラ猫耳コスで立ちはだかっているのだろうか。
俺の通う大学には、城間泰貴というとてつもない顔の整ったやつがいる。
会ったことはないが、とにかく色んな噂が飛びかう人物であった。実際に会ったことがないのでそのうわさが嘘か真か知る術はなかったけど、たしかに遠目で見てもわかるほどのイケメン具合だった。なんだろう、オーラ?というものが他の人とは違うのだ。城間の周りだけいやにキラキラしているというか、否応無しに目を惹かれてしまう。
もちろんそんな男なので、たいへん女子におモテになる。それはもうモテすぎて逆に引いてしまうほど。城間とすれ違うたび頬を染める女の子たちをみると自分とは住む世界が違うのだなぁと妬みを通り越して感心した。まるで人を魅了するために産まれてきたような男だと常々思っていた。実家は大手企業の経営一家だとか、帰国子女で向こうの国にご令嬢の許婚がいるとか、海外ゆずりのオープンさで女も男も食いまくりだとか、それなのに特定の相手は作らないのだとか、なんか、その他もろもろ尾ひれ背びれをたくさんつけた城間の噂は学内で溢れかえっていた。
まるで学内アイドルだ。まぁ、実際に城間はアイドル並みの人気を誇っていたのでみんなの注目が集まるのも仕方がないのだろう。城間の一挙手一投足にいつもみんなが目を光らせている。城間が持つものをみんなが欲しがり、それがその時の流行となるほど彼のもつ影響力は大きかった。
でも、たしかに、これは、つい指針にしてしまいたくなるのがよく分かる。
いまだ力強い目力で見下ろされながら俺は我が身をもって理解した。うん。なんていうか……半端ない、オーラが。
まず同じ日本人とは思えないくらい目鼻立ちがはっきりしている。切れ長の瞳の目力とか凄まじすぎて蛇に睨まれた蛙状態になってしまう。あ、左目の目尻に泣きぼくろ発見。それがまたアクセントとなって、やけにエロさをかもしだしていた。なんだ、こいつは歩く卑猥物か。そんなことを思ってしまうのは俺のせいじゃない。必要以上に色気を振りまく城間が悪いのだ。だれだ、この歩く卑猥物のような存在をこの世に産み出したのは…とよく分からない憤りがわいてきた。
手足も長いなと遠目ながら思っていたけど、間近で見ると「が、外国の方ですか?」と聞いてしまいたくなるほど高身長手長手足さである。帰国子女って、語学力だけでなく肉体まであちら寄りになるのかな。
「えーっと、城間くん?」
次から次から頭の中にいろんなことが浮かんでくるけど、とりあえずは現状確認をしてみよう。と言うことで城間の名前を引け腰で呼んでみれば「なんだ?」と首を傾げられた。猫耳を装着したうえでの首傾げは相手が違えば生唾ものなのだろうが、いかせん付けているのは同じ性をもつ城間である。女の子たちなら黄色い悲鳴をあげて失神しそうだが、そのあざとさは俺には効かないぜ。
(やっぱり本物の城間くんなのか)
あざと攻撃は効かないけど、この突然の訪問攻撃はクリーンヒットだ。俺の幻覚かな、とありもしない可能性にすがってみたかったけれどまごう事なく目の前にいるのは本物の城間くんだった。
その完璧なまでのプロポーションをもってハロウィンの定番ドラキュラコス(なぜか猫耳付き)を着こなした城間くん。それはもう饒舌しがたいくらい似合っているけど、なんでそんな格好をして俺の家のインターフォンを鳴らしたのかな。不思議っ子っていう噂は無かったはずなんだけど。
「えーっと、なんで城間くんがここにいるのかな?」
「ハロウィンだから」
「……あ!あー!ハロウィンだからかー!ハロウィンだからドラキュラの格好してるのかー!」
即答である。
真顔で即答されてしまった。片時も俺から視線を外さない城間の目はいたって真剣だ。だからこそ俺の頭の中はより混乱する。たしかにそれは正論なのだが、俺が求めている答えではない。だけどあまりにも当たり前のように城間が返してくるものだから、俺もよく分からない返しをしてしまった。思った以上に俺自身の混乱は深いみたいだ。
かわらず頭の中でははてなマークが大乱舞である。
城間も俺も、いったい何を言っているんだろう。
俺はこんなに混乱をきたしているというのに、城間は俺のセリフにどこか満足気な表情を浮かべてコクリと頷いた。なんですかその満ち足りた表情は。隙間なくイケメンじゃないですか。わずかに持ち上がった口角のおかげで現れた鋭い犬歯に、俺は城間くんのコスプレに対する本気を見たような気がした。
「……んー。でも、どうしてドラキュラの格好してウチに?」
というかなんで我が家を知ってるの城間くん。
当然の疑問を口にして、城間を見上げる。出来心で城間の真似をして首を傾げてみたらとってもガン見された。クワッと目がかっ開かれついビビってしまう。どうしたのさ城間くん。と焦っていたらふいっと顔を背けられそんなに俺の首傾げは見るに堪えないものだったのかとやるせない気持ちになる。やはり平凡は平凡らしく、あざとさなんかとは無縁に生きていけということですね。
まさかこんな所で教訓を得るとは思わなかった。
「…実は俺も、ここに住んでるんだ」
「え?マジで?!何階?」
「四階…」
「城間くん下の階に住んでたの?!」
声を上げる俺に城間は顔を逸らしたままコクリと頷いた。
そんなまさか。あの学園アイドルとも言える城間くんが俺と同じマンションに住んでいたなんて…。そんな噂聞いてないぞ。
「もしかして下の階からここまでその格好できたの?!」
「あぁ」
「城間くん意外とチャレンジャーなんだね!」
「そうか?ハロウィンだから誰も気にしないだろうと思って。現に小さい子たちも仮装してたし」
「いや。そうだけど、そうじゃないっていうか。そもそも小さい子のと城間くんのとは次元が異なるというか、なんというか」
「? 俺もあの子たちも同じ次元に存在しているぞ?」
「うん!そうなんだけどね!」
不思議そうに言われたらもうそう返すことしか出来なかった。話したことがなかったから知らなかったけど、もしかしたら城間くんはすこし天然が入ってるのかもしれない。もしくは羞恥心がないのか、己の容姿に頓着がないかのどちらか。他の誰かと一緒ならまだしも一人この格好で外に出れる城間の格の違いを見せつけられた気分である。
と、そんな時である。開いた扉の向こうから誰かが近づいてくる気配がした。誰かがよく分からない歌をうたいながら近づいてくる。なんでそんなに陽気なの?今日がハロウィンだから?聞こえてくる陽気な歌声の音がどんどん大きくなっていく。このままではあと数分もしないうちにブッキングしてしまうだろう。いや、別にばったり出くわしても問題はないんだけど、なんか俺が恥ずかしいのでそれは避けたかった。
となれば俺のやるべきことは一つである。
「とりあえず城間くんこっち!」
「あ、あぁ」
状況は分かったようで分からないけどひとまず置いておこう。恐れ多いとは思いつつ城間の腕をつかんで玄関の中に引き入れる。おとなしく腕を引かれる城間が玄関内に入ったのを確認してドアを閉めた。ふぅ。これで誰かに見られる危険はなくなった。
謎の達成感に一息つくも、大元の問題が解決したわけではない。むしろここからが本命本元本番だ。
「津守…」
「なに、…って、うわぁ!城間くん近い!」
「玄関が狭いから仕方ない」
頭上から名前を呼ばれたので振り返れば予想以上に近くにいる城間にびっくりしてしまう。目の前に広がるドラキュラコスの胸元にたじろげば、玄関が狭いと正論を返されてしまった。たしかに狭いけど、下手すれば抱きしめられちゃいそうなこの距離はさすがに近すぎではなかろうか。
というか城間くん男なのにとってもいい香りがした。香水とはまたちがう自然な香りになぜかドキリとしてしまう。イケメンはその香りでさえ他人を魅了してしまうのか……恐ろしい子だ。
「と、とりあえずあがって話そうか」
なんだかこの距離の近さはいただけないし、俺男の子なのに変な気分になっちゃいそうだし。イケメンとの密着は危ないとサンダルを脱いで玄関に上がる俺に続いて、城間も「…お邪魔します」と靴を脱いで上がる。一度かがんで靴を揃える城間の礼儀正しさに俺はおののいた。やだこの子、めっちゃ礼儀正しいよ。顔も良くて頭も良くて声も良くて礼儀正しいとか、どれだけのスペックを持ち合わせる気なの城間くん。
なのになんで一人ドラキュラの仮装なんてしてるの城間くん。
城間くんの謎は深まるばかりである。
「えーっと、まぁ、よければ座って」
「すまない」
「そうだ。なにか飲む?って言っても麦茶しかないけど」
「いや。おかまいなく」
「あ。そう?」
「今日はお茶が目的じゃないからな」
キリリと言い放つ彼に「じゃあ何が目的なんですか」と言ってしまいたい。俺の部屋に城間くんドラキュラバージョンがやってきたその目的を。
いや、ハロウィンで仮装しているんだから起こり得る現象としては推測できるのだが、いかんせん理解が出来ないのだ。ねぇねぇ、なんで面識のない俺のところにやってきたの城間くん。一番の疑問は、やはりそれである。
「ところで城間くんはどうして我が家にいらっしゃったのでしょうか」
「イタズラしにきた」
「とりっくおあとりーと…?」
「そうだ」
力強く頷く城間くん。
ふむ。どうやら城間くんは俺にハロウィンの風習に従ってイタズラしにきたようだ。わざわざ仮装してまでハロウィンを満喫しようとするタイプとは知らなかったよ。そうか。城間くんはハロウィンが大好きなんだね。
じゃなくて。
「でもなんで俺?俺と城間くんって、面識なかったよね…?」
仮に百歩譲って城間くんがハロウィン大好きだとしよう。でも、だからと言って彼が俺の家にやってくる意味が分からない。同じマンションに住んでいるみたいだけど俺はそのことを今の今まで知らなかったし、大学でも城間とは面識がまったくない。だって俺みたいな奴からしたら城間は雲の上の存在みたいなものだ。噂と遠目にみる城間しか俺は知らないし、彼に至っては俺のこと自体知らないはずだ。
それなのに城間は我が家にやってきて、当たり前のように俺の名前を呼んだ。学部も違うのに、どうして俺なんかの名前を彼が知っているんだろう。とっても不思議だ。
「面識はないけど、愛はある」
「……え?」
「津守」
ドラキュラの格好してるのに猫耳をつけているのも不思議だよなぁ。質問したあとに考えていたら名前を呼ばれて両手を大きな手で握られた。なんだか聞き逃してはいけないことを言われたような気がするが、それよりもいきなり握られた手に意識をもっていかれる。
温かい。城間の手は作り物めいた見た目とはちがってとても温かかった。そのぬくもりに、今更ながら城間も俺と同じ血の通った人間であるのだと思い至る。あまりにも噂が常人離れしていたせいでどこか城間の存在を幻のように感じていたから、この発見は結構な衝撃を俺にもたらした。
「お菓子はいらないからイタズラさせてくれ」
「…………はい?」
なんということだ。一つ目の衝撃が落ち着く前に衝撃の第二波…だと。
ただでさえ両手を包み込むぬくもりに思考がまとまらないのに、射抜くように見つめられてますます考えが遠のいていく。今までこんなにまっすぐ見つめられたことがなくて、恥ずかしさから顔に熱が集まっていくのを止められない。その一部始終も見られているのかと思うとなんだかもう、居た堪れなさすぎる。
なんで自分の部屋なのにこんなにもそわそわしなきゃいけないんだよ。納得いかぬ。
というか、城間の視線を正面から受け止めるのがキツすぎます。ゲームを始めたばかりでいきなりラスボスと戦うくらいの無理ゲーだ。なので思いっきり顔をそらして視線から逃れようとするけど、今度は横顔にぐさぐさ視線がささってきて逃げ道はどこにもないのだと悟った。
「その代わり津守も俺にイタズラしていいぞ」
「んんん?」
どうしよう。城間くんがなにを言っているのか理解できないぞ。
冗談…にしては真顔すぎる。いたって真剣そうだ。いや、でも、もしかしたら俺が知らないだけでもしかしたらこれは城間くんのふざけている顔かもしれない。
なんて思えれば良かったのに、俺を射抜く瞳がそれを許してくれなかった。そうだよね。こんなに真剣な目をしているのに冗談なんてことあるわけないよね。
色んなことが腑に落ちないけど、ちらりと横目で城間に視線を向けて聞いてみる。
「なんで、イタズラされたいの?」
「ハロウィンだし、これを機に津守とお近づきになろうと思って」
「え?」
「だから津守の好きな猫耳もつけてみた」
予想外の解答に顔ごと城間くんにむけたらどこか誇らしそうな顔をしていた。
なんでそんなに誇らしそうなの?というか、誰から聞いたのその情報。城間くんが我が家にやってきてから驚きの連発である。今日一日で今月分の驚きを体感したような気分だ。
ローテブルをはさんでドラキュラの格好をした美男子に手を握られる平凡な俺とか、シュールすぎるだろう。
なんで猫耳を装着しているのかの謎は解けたけど、人を猫耳好きの変態さんみたいに言わないでほしい。俺が好きなのはそんな局部的なものではなくて、動物の猫本体なの。
断じて猫耳を人体につけて楽しむ趣味はない。たぶん。
「そ、そうなんだ。それは、ありがとう?」
「いや。津守にイタズラしてもらえるためならなんてことない」
「そ、そっか」
「あぁ。…だから、イタズラしてもいいか?」
「え?えーっと、それは、うーん…」
「…駄目か?」
「?!」
俺はこのとき城間くんの動くはずのない猫耳がしょもんと垂れ下がるのをみた。ような錯覚をおぼえてしまうほど心理的にやられてしまった。
その顔で、その表情は反則だと思います。
神様はとんだダークホースを俺のところによこしてくださったぜこんにゃろう。俺より図体も顔もいいのに、なんで俺なんかにそんな必死な顔をするのさ城間くん。俺は君にそんな顔をしてもらえるような人間じゃないし、そもそも俺たちの間に面識はなかったじゃないか。
君は学園のアイドルで、俺はそんな君を遠くから見るだけの傍観者。なのにどうして俺が無類の猫好きだからって猫耳をつけてまで俺の家にハロウィンしにきちゃったの。
「俺は、津守と仲良くなりたいんだ」
今にも泣きだしてしまいそうな弱々しい顔で城間くんが言う。俺の手を握る男らしい手が緊張からか震えていて、俺はもうこの手をどうすればいいのか分からなかった。初対面だけど、今にも泣きだしそうで震えてる城間くんを無下にできるほど俺のハートは冷えきっていない。だからと言って「イタズラしていいよ」とも気軽に言うこともできないし。そもそも仲良くなりたくてイタズラしに来るって、見かけによらずけっこうぶっ飛んだ思考の持ち主なんだね城間くんって。
予想外の一面がありすぎてちょっと俺混乱しちゃう。
「津守、嫌ならそう言ってくれ」
「城間くん…」
「俺は津守と仲良くなりたいけど、津守の嫌がることはしたくないんだ」
「城間くん…」
「津守に嫌われたら俺は生きていけない」
「じょ、城間くん?」
い、生きていけないとはどういう意味ですか?というかいきなりお宅訪問されたら嫌とかそういう次元の話しじゃないと思うよ。という考えを俺は口にすることができなかった。それしかインプットされていないかのように、ただ城間の名前を繰り返す。
城間くんの見事な眉毛がハの字になっている。夜空みたいに綺麗な瞳には似合わない沈痛な色が浮かんでいて、こんな表情を彼にさせていることが知られたらミンチにされそうだ。だけどいまここには俺と城間しかいない。その空間の中で城間は俺と仲良くなりたいと言い、嫌われたくないと瞳を揺らしている。
手はずっと握られたままで離される気配はない。その手から伝わる彼の震えに俺はなんだかなぁと笑ってしまう。どうして城間みたいな人が俺なんかと仲良くなりたいのか分からないし、学園のアイドルとお近づきになるのは恐れ多いし、ドラキュラの格好も似合ってるし、俺に気に入られようと猫耳つけてくるし、なんで城間くんがそんなに必死なのか分からないけど。
(どうしてか嫌な気がしないんだよな…)
そうなのだ。全く嫌な気がしないのである、城間くんの訪問エトセトラに。むしろ誇らしいな。なんて思ってしまう自分がいる。
いつも噂とか遠目で見るしかなかった超有名人な城間くん。そんな人に仲良くなりたいと言われて悪い気なんてしないだろう。…あぁ、これも城間くんの魅力が成せる技なのかな。
ハロウィンの日に突然我が家にやってきた来訪者。
律儀に仮装までして訪ねてきた彼は俺と仲良くなりたいがためにイタズラをしにやって来たという。さすがハロウィンだ。こんな予想外のことも起こり得るなんて。
「津守。俺はお前にイタズラしてもいいだろうか」
これはハロウィンの奇跡だろうか。なんて今の現状に名前をつけていたら、いぜん不安そうな瞳をした城間くんの問いかけが鼓膜を揺らす。
たぶん、これで俺が嫌だと答えたら城間くんはこの部屋から出ていってしまうだろう。確信はないけれど、そんな予感がする。さっきみたいに動くはずのない猫耳をしょんもり垂らしてしまうのだろうか。なんだかそんな城間くんの姿は見たくないなと思ってしまう俺は、手を握られたままその瞳を見つめてへらりと笑う。
「えっと…イタズラの前に、お話ししませんか城間くん」
「津守…!」
「うわ!城間くん!お話し!まずはお話しだから!」
「愛してるしぐれ…!」
「愛?!ていうか名前で呼ぶな!」
「しぐれ!好きだ!結婚しよう!」
「せいじくんかよ!」
俺の渾身のツッコミをスルーして、いきなり抱きついてきた城間くんは感極まったように耳元で「好きだ」「愛してる」と繰り返している。
その喜びように「あれ?もしかして俺選択肢間違えた?」と冷や汗を垂らすも時すでに遅し。
「仲良くなろう。しぐれ」
「だからなま…んっ」
重ねられた唇と、口の中で動き回る熱い舌。
なんだこれ。なんだこれ。ナンダコレ。
抵抗もできずされるがままの俺の口の中で暴れるだけ暴れてようやっと離れていったその先には、捕食者みたいな顔した城間くんが目の前にいた。見せつけるみたいに自分の唇を舌で舐める城間くんがエッチすぎて少しだけ変な気分になってしまう。
ぼうっと城間をみつめる俺の口元から垂れる唾液をその赤い舌で舐めあげた城間は、美女を誑かすドラキュラそのものみたいに艶然と微笑んだ。
「しぐれ、trick or treat」
「わ、わっつはぷんど」
城間くんのいう「イタズラ」がエッチな意味でのイタズラだと気づくのは、エロティカルに微笑み返され軽やかに運ばれたベッドの中でだった。
END
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