拳を握った。超能力で自分を殴ればどうなるのか、とふと思った。
律はベッドに横たわってからしばらく自分を殴ろうか、殴らまいか悩んでいたが結局バカバカしくなって拳を解いた。


届かない花


昼間の彼女の顔を思い出す。廊下で話しかけられる距離に居たし、明らかに律を彼女は見ていた。
この間のお礼がしたい、と律に言っていたから内容はそれだろう。
しかし何故か生徒会長の前と、廊下の真ん中で彼女と会話をしたくなかった。
律は一瞬目の合った彼女から目を逸し、真っ直ぐ神室の後に続いた。
彼女がはっとして俯いたのを横目で見ながら。

心の中で律は彼女の肩を握り、「ごめん、今日も放課後きみの花壇の前に行くから、その時に聞くよ。
だから今はちょっと待ってて。」と言ったつもりだった。
それはしかし律の心の中のみの話で、彼女にテレパシーのように届くことは叶うことのない願いだ。
放課後は雨だった。花は暗い空の下雨に打たれ、手入れをする主のいない悲しみに俯いていた。


こういう気持ちが先に行き過ぎたとき、律はどうしたらいいのか全くわからなかった。
感情を殺して生きているつもりはない。が、どうにも彼女の前だと普段の自分のままではいられなくなる。
お礼がしたい、お礼ってなんだ。むしろ彼女をびしょ濡れにした自分が詫びをいれるべきだ。
そしてもうお礼ならもうもらっているのに、とあの日にもらった紫の花を見た。
その束のような花は、最初にもらった時よりも少し萎れてきたように見える。

その現実から目を逸らすようにゴロンと寝返りをうつ。
もう一度心の中で律は彼女の肩を握って、彼女と目線を合わせた。
目を逸らされ、ふっと手を振り払われる
律の手は空を切った


律は気付いた。
もう一度、彼女に笑いかけてほしいと。
気付いてから後悔した。
人は生きにくいものだと。

もう一度ギュッとこぶしを作ったが、ゆるくほどいた
そして優しく、優しく少しだけ泣いた





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