「花沢くん、ごめんね」

大雨に降られ家の鍵を落として、花沢くんに捨て犬を拾われるように部屋に入れてもらってしまった。
着替えもお風呂も借りてしまって、挙句の果てにベッドまで借りてしまった。
家主の花沢くんは、僕はソファーで寝るよと後ろ手に手を振りながら自分の寝室を後にした。かっこいい。

どうしてこんなことになっちゃったんだ…と人のベッドに横たわる
ほのかに花沢くんのにおいがした。真っ白ですべすべな肌触りの良いシーツの上にうつ伏せになる。気持ちいい。
思えば私のこのシャツも花沢くんのだし、このベッドも花沢くんのものだ。
そのうえこの枕も、ふわふわのタオルケットも花沢くんのものだ。
私は花沢くんに囲まれていた。途端にぶわっと汗がにじみ出る。
ここはあの学年一のモテモテ男、花沢輝気の家なのだ。
私は慌てて飛び起きた。友達の数人が、彼の熱狂的ファンである。
こうしちゃいられない!!

「花沢くん!!ごめん!私帰る!!」
リビングのドアをおもいっきり開けた音にびっくりしたのか花沢くんはソファーから飛び起きた。
「え!ちょ、ちょっと待って!外まだ雨じゃないか!それに、鍵はあるの?」
「…そうだった…実家に帰る…いや、終電ないや…ネットカフェにでも泊まる!」
「落ち着いて、洗濯した着替えもまだ乾いてないよ」
「う…」
「一体突然どうしたの…僕のおもてなしがそんなに気に食わなかった?」
「そんなことないよ、ほんとにありがたいんだけど、ありがたすぎて恐縮してこうなんか…
突然恥ずかしくなったっていう…か…」
恥ずかしくなったって言葉にしたら余計に恥ずかしくなって、彼から目をそらした。
花沢くんは暗い部屋で少しだけ笑った。
「それはよかった。じゃあ一晩僕の家に居ても問題は無いんだよ。僕は一向にかまわないんだから」

ドアノブにかけた手を花沢くんに引っ張られて、そのままソファーに倒された。

「は、花沢くん!わ、わたし帰るって、」
「とっくに気づいてたんでしょ?」
「え?」
「僕が気に入った人しか部屋に入れないってね」




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