横顔を盗み見る。この人はさすが霊能力者なだけあるのか、感が鋭い。
「ん?俺の顔に何かついてるか?」
「!いえ、なにも」

ほらやっぱり!ひやりとこわばった背中を彼に向けながら、おもむろに部屋を見渡す。
霊幻先生の事務所にビルの空調調節で出入りして早二週間が経ち、私の仕事も終わりに近づいてきた。というか既に終わっている。前回私が印鑑が必要な資料をわざと忘れてきたため、その分引きのばされ本日に最終日がずれ込んだだけだ。

ここに来るのもこれで最後だ。
私には霊感がないし、生まれて今まで心霊現象などに困ったことなどなかった。
またこの人に会いたくなったら、誰かに恨みでも買ってこようかな、なんてバカなことを考えていると顔を上げた霊幻先生が私を見た。

「ほら、サインとハンコ押したぞ。」
「ありがとうございます、二週間お騒がせしました。また何かありましたらこのビルの管理者、または当社にご連絡下さい。」
「おう、とりあえずこれで来年の夏はエアコン使い放題だな」

ハハ、と笑ってから霊幻先生はスッと笑顔を消した。

「ところで、アンタ…ツいてるぜ」
「えっ…?」

うそ・・・

「なんてな。」
「は、はあ・・・」

ひやりとした。やはりこの人はさすが霊能力者なだけあるのか、感が鋭い。
ちょっとでも誰かの恨みでも買おうと思った自分を戒めた。
そして、ちょっとでも別れが惜しいと思った自分の気持ちを肌の表面から胸の奥底に押し込めた。

「少しでも背後が不安になったら、いつでもこの相談所へ」

切れ長の二重の瞳が弧を描く。目が離せない。
この目に吸い込まれそうになってからだ。この人が気になって仕方がなくなったのは。

「……はいではまた…、お伺いします…おじゃま、しました…」



「師匠、なにナンパしてるんですか」
「えっ?」
「げッ!モブ」





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