ぼんやり生徒会室から窓の外をよく眺めていた。
定刻のミーティングが始まる前、少し早めに来た時や、仕事があってひとりでいる時。
ミーティング中の律の席からはいつも窓から空しか見えない。
窓際に近づくと見える眼下には、風に揺れる木と、質素な花壇があった。


高嶺の花と路傍の花


放課後、律はまたミーティングの時間より少し早めに会室へ着いた。
まだ会長や先輩は来ていない。誰かこの辛気臭い生徒会室の空気の入れ替えでもしていたのだろうか。いつもの窓が開いていて、優しい午後の日差しが差し込んでいる。
すると、勢い良く風がざあっと室内に吹き込んで、瞬く間にプリントを1枚外へさらって行った。
長机上を見ると、今日のミーティングレジュメが書かれた紙が風で数枚散らばっていた。律は慌ててまた飛び立ちそうなプリントを捕まえてすぐに窓を閉めた。荷物を置いて、飛ばされた自分の分にされるであろうプリントを回収すべく急いで会室を出た。

階段を下り廊下を進むと、外の渡り廊下に出る。渡り廊下から土足で数歩外に出るとそこには花壇があり、花の上にプリントが乗っていた。丁度律が会室からよく眺めていた窓の真下だ。
すぐにまたどこかに飛びそうだし、上から誰かに見られたら面倒くさい。急いで花壇に駆け寄る。

「あ!踏まないで!」

ぐに、というゴムホースの感覚が土踏まずに伝わってから律は慌てて片足を上げた。
すぐに小さな悲鳴が後ろから聞こえる。
踏まれた事により水圧で勢い良くホースが外れたようで、しゃがみこんだ女子生徒がひとり水浸しになっていた。

「ご、ごめん!大丈夫ですか」
「大丈夫です、あ」
「本当に?びしょ濡れだ。すぐ保健室行って、風邪をひく。着替えは」
「だだだ大丈夫ですんで、」

ぎゅ、と彼女は自分の身体を抱きしめて焦ったように俯いた。寒いのか?と思い律は自分の学ランを脱いで彼女の肩にかける。

「あ、ありがとうございます・・・えっとあのいつもあの窓から見下ろしてる人、ですよね?」

あの窓、と言い彼女は真上の窓を見上げて指さした。
つられて見上げてから彼女に視線を戻す。律にはその女子生徒に見覚えがなかった。

「君は?」
「ただの緑化委員です、この花壇に水をやってました」
・・・見たこと無いが、律は手を差し伸べる。
「立てる?保健室行こう、体操着があれば持っていく」
差し出された手に驚いてから、恐る恐る彼女は律の手を取った。柔らかく温かい手だ。
「ありがとうございます、いつも手入れをしている花壇を見てくれてた人とこんな形ですが話ができて、嬉しいです」
「え」
俯きがちに微笑んだ彼女の顔に律は見覚えが合った。眼下で質素に咲く花壇の花だ。

手を引いて廊下を進む。彼女の横顔を眺めているとうっすら下着が透けているのに気づき、慌てて目を逸らした。




小話:秘密の花園に続きます




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