基山のプレーは凄い。 無意識に口が開いてしまうほどだった。無駄のない動き、正確なパス。どれも凄い。立向居と興奮しながら観ていると、響監督が選手交代の合図を出した。キーパーの円堂を立向居に、ディフェンダーの風丸を私に。 交代する風丸とハイタッチをしてフィールドに入った。後ろを見れば立向居がグローブを着けているところだった。 「頑張ろうな、立向居!」 「はい!先輩も頑張ってください」 そう言って、にこりと笑う。 久々にするサッカーに武者震いした。風丸のように速くはないが、ちゃんと守ることは出来る。大丈夫だ、やれる。 深呼吸を一つして姿勢を正す。 直後、試合再開のホイッスルが鳴った。 ボールは雷門からだったが、黄色い瞳をした赤髪がカットし、すり抜けるようにフォワードとミッドフィルダーをかわした。そして私の前で急に足を止めた。 「おう、お前か」 「どうも。試合する気あんの?」 「ったりめーだろ。おら、ボール取ってみろ」 「…喜んで」 売られた挑発は買うしかない。ん?なんか違うような…。 赤髪は涼しい顔をして私が動くのを待っている。素早く足を出し、ボールを取ろうとしたが駄目だった。その後も追い込んでいくが中々取れない。段々焦りを感じてきた。すると赤髪の後ろにちらりと人影が見えた。目をやると吹雪が赤髪の真後ろにいる。 「南雲くん、試合中に敵をナンパとかタラシだね」 吹雪は楽しそうに声を弾ませ、器用に足を使い、ボールを取った。それは一瞬の出来事で、赤髪は悔しそうに舌打ちをすると疾走する吹雪を追った。相手チームからは赤髪に対する罵倒が飛び交う。遊ぶな晴矢!頭のチューリップ引き抜くぞチューリップ!だからお前は単細胞なんだ!等々。ほとんど同じ人物が言っているようだった。仲の悪いチームメイトがいるのだろうか。 「苗字!ナンパするなって言っただろ!」 ベンチから円堂の声が飛ぶ。…なんだよアイツちゃんと一部始終見とけよ。私は内心ため息を吐いた。相手チームのゴール付近では吹雪が豪炎寺にパスを回している。ディフェンダーである私は上がる気にならなかったのでベンチにいる円堂に向かって叫んだ。 「俺はしたんじゃない、されたんだ!」 「してたろ!正直に言え!風丸も泣いてるぞ!なぁ?風丸」 「…そんな子に育てた覚えはない」 「お母さん!?」 意味のない掛け合いをしていると響監督が制止した。仮にも今は試合中。仲間内でギャーギャー騒いでいる場合ではない。 私はこちらへと上がってくるエイリアを確認してボールをカットしに駆け出した。 無事に試合が終了し、吉良さんに声をかけようと思った。しかし、彼女は既にグラウンドにはいなかった。どうやら先にバスへ乗ったらしい。 「こんな筈じゃ…」 「…残念、だったね…」 「おい笑うな吹雪。畜生!お前なんか女湯で溺死すればいい!」 踵を返し、ある人物を探す。 彼とは前々から個人的に話したいと思っていた。興味もあった。まだ近くにいる筈だ。 あそこで笑いを堪えている吹雪には後でチェーンメールをたくさん送り付けてやろう。 (110322) |