円堂から手渡されたユニフォームを受け取り部室で素早く着替える。部員は全員練習中で更衣室に誰かが入ってくることは有り得ないのだが、念の為。


部室を出て円堂の方に足を運ぶ。円堂は私の姿を確認すると爽やかに笑った。

「苗字!今日は助っ人に来てくれてサンキューな」

「別にいいよ。サッカー楽しいし、女の子可愛いし」

「お前はいつもそればっかりだよな!練習中にナンパするなよ?」

「分かってるって」

円堂と私の会話が聞こえたのか、吹雪が少し離れた所で肩を震わせている。あいつ、絶対笑いを堪えている。
吹雪に後で何かしてやろうと考え、ふとギャラリーの方を見た。そこで一つ疑問が浮かぶ。

「あ、気になったんだけどさ…何であの女の子達は俺がサッカー部の助っ人に来るって知ってるんだ?」

「俺が話した」

「は?」

「だから、俺が話した。苗字って女子から人気だろ?あいつらに言えば苗字来てくれるかなーって思って」

ご丁寧にどうも。
それではまるで、私がただの女好きではないか。でも実際、そうなのだから反論はできないのだが。

微妙な心境でいると風丸が円堂を呼んだ。どうやら今日は、他校との急な練習試合があるらしい。だから私が呼ばれた。私が来るとギャラリーが増え、盛り上がるらしい。嬉しいが、それを利用されていると思うと円堂が計算でやっているようにしか思えない。やはり彼は腹黒い。

「鬼道、対戦相手はどこの奴?」

ベンチで吹雪と話をしていた鬼道に話し掛けた。彼は眉を寄せると浅くため息を吐いた。

「エイリア学園だ。正直言って、変な奴しかいない」

「鬼道も変だけどな」

「…何か言ったか?」

ゴーグルの奥の瞳が細められた。軽い冗談で言ったつもりなのだが。
私は危機を感じてどうしようかと考えた。だが、考えていたらそれだけ無駄だ。とっさに手が動いた。

「悪かった。そんなつもりで言ったんじゃないんだ。鬼道は個性的でとても良いと思う。頭は良いし、綺麗だし…」

そう言って鬼道の顎を持ち上げた。
鬼道は目を見開いて私を見ている。とりあえず顔でも近付けておこうかと思い、鬼道との距離を縮めた時だった。

「名前、それ以上は駄目」

「いだっ!」

吹雪の声が降ってきて、思い切り頭を叩かれた。痛くて涙が出そうだ。
はっとして鬼道を見れば顔が青くなっている。これはトラウマを植え付けたかもしれない。

「ごめん!あまりにも肌が綺麗だったから」

「はは…。いや、気にするな。俺は何ともない…ただ、他の奴にそういうのはするなよ」

少しふらつきながら鬼道は離れて行った。悪いことをしてしまったかもしれない。でも、鬼道の肌は本当に綺麗だった。そこら辺の女の子顔負けなくらいに。

「ねぇ、名前。僕は別に構わないんだよ?君が男と女両方が好きでも。でも、周りの人たちはどうかな?」

吹雪の言葉が私に突き刺さる。見渡せば、風丸は明らかに不機嫌だし、豪炎寺はいつも以上に無表情だ。後輩たちは気まずそうに視線を泳がせている。そして女の子達は…
きゃあきゃあと黄色い声を上げ、騒いでいた。なんだ、そういうのもいけるクチなのか。あの子達は。

「ち、違うからな!?俺は決してそういうのじゃ…。鬼道の肌が女の子みたいに綺麗だったんだよ!」

私の言葉に皆は「ああ」と納得したように頷いた。私は他人に相当な女好きとして印象を与えているようだ。あの豪炎寺まで納得したような顔をしている。

吹雪が慰めるように私の肩を叩いた。全く、慰めにはなっていないが。



(110103)