「大丈夫か?」

上の方から聞き慣れた声が聞こえる。慌てて顔をあげると、心配そうな顔をしている風丸。私は彼に抱きついているような体勢だ。
素早く離れ、振り返ればにっこり笑っている円堂。何か嫌な予感がする。

「悪いな風丸。捕まえてくれて助かった」

「ああ、別に良いんだ。もしかして…こいつが何かしたか?」

私が一体何をすると言うんだ。しかも円堂を相手に。確かに逃げたのは悪いと思っている。…少しだけだが。
だが、足が自慢のサッカー部員が帰宅部の私を追い掛けてきたことの方がよっぽど悪い。よって私は悪くない。

「自分は悪くないとか思うなよ女好き。俺達はただお前と話がしたかっただけなんだ」

「待て円堂。最初と言っていることが違う気がするが…」

「ちょっと黙ってろ豪炎寺」

何故考えていたことがバレたんだ。これだから嫌なんだ、円堂と一緒にいることが。全てを見透かされているようでヒヤヒヤする。そしてなんだか豪炎寺が可哀想だ。
鬼道は腕を組んだまま立っていて動かない。

「逃げたのは謝る。俺もう帰っていいですか」

「まぁそんなに急ぐなよ。皆いるからお前ん家でもお邪魔するか」

「…ちょっとそれは」

口ごもると円堂の目の色が変わった。円堂の目が私に言っている…
答えはイエスかはい、だ。
私はあっけなく負けた。



「苗字、今日家に親はいるのか?」

鬼道が気付いたように問いかける。

「いるよ。帰りはいつも遅いけど」

「そうか」

急にしんみりとした空気になった。何が悲しくて男4人とぞろぞろ歩かねばならないのか。しかもこのしんみりとした雰囲気で。息苦しい、とてつもなく息苦しい。
耐えられなくなって隣で歩いている風丸に小声で話しかける。

「風丸、どうにかならないのか」

「無理だな。頑張れよバレないように」

「無責任なこと言うなよ。家に押し掛けられて干してある下着とか見られたらどうする」

「……母親のだって誤魔化せば良いだろ」

「なんだよ今の間。想像したな?」

「してない」

「した。絶対にした。生憎、俺の母さんはあんな下着つけない」

「それ以上何も話すな」

そっぽを向かれてしまった。…可愛い奴め。
ふと視線を感じ、その方を見る。鬼道がこちらを凝視していた。目が合ってもお構い無しにじっと見ている。何か顔に付いているのだろうか。

「どうした?なんかついてる?」

「いや違う。…前、俺が質問したときのことを覚えているか?」

そういえばエイリアと練習試合したときにお前は誰だと聞かれたっけな。あの時、鬼道が笑いながら言った一言が今でも気になる。

「童貞の話か?」

「どんな会話してんだよ…」

風丸が肩を落としながら呆れる。そんな彼と私を鬼道は眉をひそめながら比べ見た。


「お前は女なんじゃないのか」


一瞬にして場の空気が凍る。
幸い、円堂と豪炎寺には聞こえてなかったようだ。二人ともサッカーの話で盛り上がっている。
私はすぐ否定しようと口を開きかけた。しかし、風丸の方が早かった。

「はははは!鬼道何言ってるんだよ!こんな男の欲望の塊みたいな奴が女だなんて有り得ないだろ」

「なぁ…風丸、鬼道。俺ってそんなに女顔か?俺より風丸の方が女顔じゃね?」

「お前は人の気にしていることをっ…」

風丸の顔が赤くなる。多分、怒っているのだろう。それにしても風丸の女顔といったら…円堂が羨ましい。女より綺麗な男が幼馴染みだなんて。これじゃ彼女もできない筈だ。なんて考えていると鬼道が小さく笑った。そして一言。

「聞いてみただけだ。なかなか面白いな」

私と風丸は言葉が出なかった。



(110613)