終わった、終わった。
軽く伸びをしながらヒロトと晴矢が待っている昇降口へと向かう。
今日は授業中にあまり寝なかったな、どうでも良いことだが。


「遅いよ風介」

「待ちくたびれたぜ」

「嘘を言うな嘘を。さっき終わったばかりだろう」

そう言い放つ。二人は笑って流して何か話し始めた。私は特に興味のない話題だったので耳は傾けなかった。

だらだらと他愛もない話をしながら三人で歩く。担任が気にくわないだとかクラスの誰々がウザいだとか。主に愚痴っているのは晴矢だ。ヒロトは相槌を打ちながらたまに自分の愚痴を話す。私を二人の話を聞いているだけだ。




「あ、ヒロト。今日はお前の奢りだからな」

「え、なにそれ聞いてないんだけど」

ファミレスの入り口にある自動ドアを通りながら晴矢がヒロトに言った。ヒロトはちょっと考えるような素振りをしてすぐにいつもの笑顔に戻った。…何か企んでいるな。

「いいよ。この俺が貧乏な君達に奢ってあげよう」

晴矢のこめかみに青筋が浮いた。




「ヒロト、勘づいてるか?」

「何をだい?」

「風介についてだよ」

「嗚呼、いつも無愛想面だけど今日は楽しそうな顔してるよね…何かあったの?」

「別に」

楽しそうな顔などした覚えはない。今日は特に楽しいと感じられるようなことはなかった。席替えをしたのはほんの少し楽しいと感じたが。別に顔に表れるほどではない。

「へー。席替えしたんだろ?」

「…何故知っている」

「お前のクラスの奴が言ってた」

「あ!それで可愛い子と席が隣になっちゃっていつの間にか好きになったとか?」

「黙れ脳内ピンク」

ヒロトを睨み付ける。こいつはこんなことしか考えていないのか。晴矢がニヤニヤし始めた。嫌な予感がする。

「なぁ、風介って好きな奴いねぇの?」

「それ俺も知りたい」

「いない。君達はいるのかい?」

問うと、二人とも笑って頷いた。
誰なのかはどうでも良い。きっと私が知らない女子なのだろう。だが、この二人には想い人がいて私にだけいないと言うのは癪にさわる。

「あれみょうじじゃね?」

晴矢が窓ガラスを指差す。
そこには表情も体も固まってこちらを見ているみょうじの姿があった。




(100501)