「泥だらけだな…歩けるか?」

「まぁ、一応」

この辺りで有名の高級分譲マンションに私はいた。…何故こうなってしまったのか。隣では私を背中から下ろしてくれた涼野が玄関のドアに鍵を差し込んでいる。部活中でも家の鍵を持ち歩いているのだろうか。用心な奴だ。

「上がれ」

短く言って、先にスタスタと廊下を歩いていく。私はそんな彼の後を警戒しながら着いていく。
明らかにおかしい。あの、涼野風介が私みたいなただのクラスメートを家に上げるとは。確かに、ファンクラブの人達から暴行まがいのことはされていたが。普通は保健室に連れていくべきではないのか。
そしてどうしても涼野に聞きたいことがある。


「涼野」

「なんだ」

「見た?」

リビングでお茶の準備をしている涼野の動きがピタリ、と止まる。この反応だと、どうやら見たらしい。私の下着を。

「別に見たくて見たわけではない。あんな状況だったら見ない方がおかしい」

「…そう。少し気になっただけだから。忘れてくれて結構」

私が言うと涼野はやかんを火にかけ、廊下へと消えて行った。
何をして良いのか分からず立ち尽くしていると暫くして彼は戻ってきた。気のせいか手が濡れている。

「今、風呂を入れてる。入れ」

「…は?」

「泥だらけだろう。入れ」

はい、と答えるしかなかった。
私は涼野が醸し出しているオーラに負け、渋々と案内された風呂場へと向かった。

奴は何をしたいのだろう。
そしてこのスカートはどうしようか。



(110405)