今日の放課後、体育館裏で待ってるわ。必ず来るように。


どうしよう、呼び出しだなんて産まれて初めてだ。足が震えて、上手く呼吸が出来ない。気のせいか鳥肌が立ってきた。
私は今、恐怖を感じている。
たかが、ファンクラブの女子に。
自分の席に戻っても残りの弁当を食べる気にはなれなかった。食べる気力がなかった。

「大丈夫?放課後、一緒に行こうか?」

「いや大丈夫。危なくなったら連絡するから」

「本当に?」

友人が心配そうな顔で私の顔を覗き込む。と、同時に昼休み終了のチャイムが鳴った。
暫くして、涼野が戻ってきた。涼しい顔をして自分の席に座る居眠り野郎を私は睨み付けた。しかし、ふと思い止まる。涼野は悪くないのではないか、と。全ての元凶は基山なのではないのか、と。そう思うと違うクラスで私と涼野を高みの見物にしているであろう基山に腹が立つ。

女子の呼び出しへの恐怖と基山に対する怒りが自分の中でぐしゃぐしゃに混ざって、午後の授業はほとんど頭に入ってこなかった。



只今、放課後。これから私の運命が決まる。
私は自分の鞄を教室に置いたままにし、携帯を制服のポケットに入れ、体育館裏というベタな場所へと足を運んだ。

目的の場所に到着し、恐る恐る体育館の裏を覗くと、そこには5、6人の女子が立っていた。昼休みに会ったときより増えている。彼女達の滲み出させているオーラは当てられるだけで倒れそうな嫉妬で、黒く渦巻いている。

「あの、すみません…みょうじです」

反射的に声が小さくなるのを必死で堪え、自分の名前を言う。すると彼女達は待ってましたと言わんばかりに貼り付けた笑みを浮かべる。昼休みに私を呼び出したリーダー的な女子が一歩、前に進み出た。

「…みょうじさん、だったかしら?初めまして、私がファンクラブ会長よ。単刀直入に言わせてもらうけど、あなた一体、涼野くんの何なの?」

ファンクラブ会長さんは育ちが良いのか言葉遣いは綺麗だった。しかし、その表情は苛立ちを隠しきれておらず、眉間には皺が寄っていた。

「何なの…と言われましても、何でもないとしか答えれません」

「嘘吐かないで。何でもないわけ無いでしょう?あなたの様な凡人が、涼野くんに近付くなんて…」

「凡人で悪かったですね、この能無し」

見下されながら凡人と言われたのにはカチンときた。会長さんに言い返したら、傍に立っていたギャル系女子が掴み掛かってきた。…何系でもいるみたいだ、このグループは。

「どの口がそんなこと言ってんの?会長が優しく言ってくれてんのに生意気。あんたみたいな奴に涼野くんは釣り合わないっつーの」

「横から入り込んできて何ですか?私は会長さんと話してるんです。あなたは関係無いでしょ引っ込め、」

「んだとっ…?人が優しくしてやれば…」

そういえば、このギャル、どこかの部活の運動神経抜群のギャルだった気がする。私が立ち向かったって敵う相手ではない。
会長さんはと言えば、ギャルにOKサインを出していた。この令嬢め。
ギャルが身構える。私は逃げようとは思わなかった。ここまで話が通じなくて一方的な人と直面したのは初めてだった。

「あんたの恥ずかしい写真、バラ撒いてやるから」

後ろに控えていた女子達が各々、ハサミや縄を手に持つ。それを見た私は今から何をされるのか安易に想像できた。ここでやっと、頭の中でサイレンが鳴り響く。だが、もう遅かった。ギャルが私を力一杯に蹴り、地面に倒れされる。地面に叩き付けられた私は身体中が痛くてすぐには起き上がれない。その隙を付いて女子達の手が私の体を這う。ハサミでスカートをズタズタに切られ、両手を縄で拘束される。声を上げようにも怖くて声が出ない。
絶望的な気分だった。何故、何にも関係がないのにこんなことをされなくてはいけないのか。…あ、一緒に登校したからか。そう、全ての元凶は基山。あのクソイケメン野郎、絶対に呪ってやる。
きゃははは、と甲高い笑い声が嫌と言うほど耳に残る。


「何をしている」


一瞬にして甲高い笑い声が私の耳から消えた。



(101209)