今にも息が詰まりそうなのに涼野は隣で机に顔を伏せている。マイペースな奴め。シャープペンでも刺してやりたい。
ふと、涼野が本当に寝ているか確かめようと思い、小声で呼んでみる。

「涼野、起きて」

「…」

「起きないとシャープペンで頭皮を抉るよ」

「…」

「涼野。本当に寝てる?」

「…」

何も反応無し。爆睡中だ。
教室の時計に目をやれば、席についてからまだ数分しか経っていない。教室にいる生徒からは絶え間なく視線が向けられる。そして時折聞こえてくる囁き。

「あの涼野君がみょうじさんと一緒に登校なんて…」

「手も繋いでたらしいよ」

「うそ、信じらんない」

「つか、みょうじさん美人じゃないじゃん。涼野君とは全然釣り合わないし」

「だよねー。ムカつく」

これで放課後の呼び出しは決まった。






「それは災難だったね…」

昼休み。遅刻ギリギリで登校してきた友人に昨日と今朝あったこと全てを話した。
涼野はというと、南雲に呼ばれて先ほど席を立ったばかりだ。気のせいか、南雲と目が合ったときニヤリと笑われたような…。

「放課後とか気を付けなよ?」

「他人事だと思って…!」

あはは、と笑う友人。でも、これは遠回しに励ましてくれている。
私は気を取り直して弁当箱を開ける。うん、今日も美味しそうだ。

「みょうじさん、ちょっと」

教室のドア付近に3、4人の派手系女子がいた。その中のリーダー的な人物が私に手招きしている。…嗚呼、確か涼野ファンクラブの…。
食べかけの弁当箱を急いで片付け、席を立つ。

「何かされたら一発ぐらい殴ってきなさい。私が許す」

友人が女子達を睨みながら言った。その言葉に苦笑しながら私はドアへと向かった。



(100811)