「友達が迎えに来たわよ」

私は耳を疑った。友人が朝からわざわざ私の家まで迎えに来ることは絶対にない。だとすれば誰なのだろう。私は母に誰が来たのか尋ねた。

「かっこいい男の子よ。まさか彼氏?」

そんなまさか。
母に彼氏ではないときっぱり言ったあと、鞄を持って玄関へと向かう。迎えに来た人物は大体予想がつく。靴を履きながらため息をついた。

昨日のあの出来事は夢ではなかった。私の学校生活は終わったも同然だ。今日からファンクラブの人達から冷たい視線を浴びることを想像すると鳥肌が立つ。
私は沈んだ心を引きずりながらドアノブに手をかけた。

「…涼野」

「………」

ドアを開けると涼野が立ったまま、静かな寝息をたてていた。立ちながら寝るとは器用な奴だ。

「涼野」

もう一度名前を呼んでみる。しかし、反応は無し。このまま置いて行こうかと考え始めたとき、ゆっくりと涼野の瞼が上がった。

「遅い」

低く機嫌が悪そうな声で唸るように言う。遅いとはどういうことだ。私は朝から涼野が来るとは思ってもいなかったのだ。多少遅くても文句は言わないのが普通ではないのか。そう言おうと思ったが、何されるのか分からないので一応、謝った。

「…さっさと行くぞ」

くるり、と私に背を向けて歩き出す涼野。正直、学校行きたくないな…。女子に何と言われるのだろう、何をされるのだろう。呼び出しは確実だ。




「涼野は基山達にあんな事言われて何とも思わないの?」

「あいつらに弱みを握られているからな」

それはごもっともだ。
あの写真がバラまかれたら私の人生はその瞬間で完全に終わる。きっと涼野もそんな心境なのだろう。好きでもない女子を押し倒している写真なんか…、自分で言っていてなんだか悲しくなってきた。これ以上、写真のことは考えないようにしよう。
できるだけ、傍にいれば良いのだ。振りをすれば何とか切り抜けられるかもしれない。いやでも、相手はあの基山だ。そう簡単に騙せるわけない。

「みょうじ、」

不意に名前を呼ばれ涼野の方を向く。彼は無表情のまま、躊躇いもなくこう言った。

「私はお前に好意など微塵もない」

こんな奴とどうやって一緒にいろと言うんですか基山さん。



(100620)