「初めまして、で良いのかな?みょうじさん」

最初に口を開いたのは基山だった。男子からさん付けで呼ばれるのは何だか変な感じがする。背筋が自然と正されるような感じ。相変わらず南雲はこちらをじっと見ている。私の顔に何か付いているのだろうか。それとも、この服装が理由なのだろうか。多分、服装だ。

「初めまして。基山…くん」

「呼び捨てで良いよ」

ははは、と笑う基山。釣られて私も苦笑い。
南雲がやっと私から目を離す。あれ以上見てくるのであれば、逃げ出すところだった。この状況で逃げ出すのは可能かどうか分からないが。
隣の涼野はガラスのコップに口をつけている。中身を飲み干したのか、コップの中に入っている氷がからん、と音を立てた。

「みょうじさんにお願いがあるんだ」

基山がそう言うと、南雲が自分の携帯を弄りだした。メールだろうか。
待っていても基山は口を開かない。口に出すのも躊躇うようなお願いなのだろうか。痺れを切らした南雲が携帯から目を離し、真っ直ぐに私を見る。

「風介の傍にいてやってくれ」

ごとり、と涼野は手に持っていたコップを落とす。顔を見れば、眉を寄せていた。この二人から何も聞いていないのか。
私はどういうことなのか全く分からない。何故、一度も話したことのない男子の傍にいてやらなければならないのだ。

「何でですか」

「風介は人に興味を示さないんだ。俺達二人以外にね。でも、みょうじさんには興味があるらしんだ」

「待て。私はそんなこと…」

涼野が反論しようと口を開く。しかし、基山に睨まれると不機嫌そうな顔をして口をつぐむ。
この居眠り男が私に興味がある?何かの勘違いではないのか。

「ごめんなさい。一緒にはいてやれません。涼野ファンクラブの人達に悪いです」

「そう。それは残念だな」

目を伏せる基山。そして隣にいる南雲から携帯を受け取る。
南雲は席を立つと涼野の横に立って、

思いきり私の方へと涼野を押した。

いきなりのことで私は身構えていなかった。どすん、上から涼野が覆い被さる。それと同時に聞こえるシャッター音。顔を上げると基山が携帯のカメラを私達の方に向けていた。急いで身を起こすが、手遅れだった。
南雲が基山から携帯を受け取って席に座る。

「傍にいてやらないならこの写真、バラまくぜ?」

「どうする、みょうじさん?」

「おい、」

低く、唸るような声が隣から聞こえた。涼野がこめかみに青筋を浮かべて南雲を見る。南雲は浅い溜め息をつくと面倒くさそうに席から立ち上がる。
そして二人でファミレスから出ていった。

「大丈夫。直ぐに戻ってくるよ」

基山は楽しそうに笑った。



(100515)