私は写真屋。
悪く言えば盗撮屋。
我が雷門中のイケメン共をカメラに収め、乙女達にお手頃価格で売るということをしている。これが結構儲かる。でも儲かったお金は写真を撮るためのフィルムやプリント代で消えていくのだが。

「野球部の佐藤くんってある?」

「こっちが部活中。これが着替え中で、これは廊下を歩いている写真」

「ありがとう!はぁ…やっぱり佐藤くんカッコいいな…」

「いつもありがとう。毎度あり」

私は盗撮をする上で一つルールを作っている。それは、学校の敷地外で写真を撮らない。若くして犯罪者にはなりたくないのでこれは絶対に守らなければならない。
野球部、剣道部、バスケ部、テニス部、陸上部、美術部…イケメンと言われている男子達はほぼ、この相棒のカメラに収めた。
だが、まだ写真を撮っていない…いや、撮れない人物がいる。

ここ最近でサッカー部の知名度が上がった。理由はあの帝国と戦っただとか何とか。サッカー部に入部した転校生もイケメンと聞いた。その転校生の写真を欲しがる女生徒が帝国戦を境に圧倒的に増えた。撮れない人物とはその転校生だ。こちらを警戒しているのか、隙がない。


昼休み、校舎を出てすぐ横の人気のない花壇の前で相棒のカメラと睨み合っていた。

「豪なんとかって奴が撮れればな」

「…まだ盗撮なんかしてるのか」

「えっ円堂!?」

いきなり耳元で声がした。とっさに後退り、自分が今まで立っていた場所を見る。そこには暑そうに袖を捲り、いつも着けているバンダナを外した円堂がいた。これはレアだ。

「びっくりさせんなよー。あ、もうちょい睨み効かせて」

いい角度を取ってシャッターを押す。円堂とは小学校で知り合った。別に友達というものではなく、校内で合ったら軽く挨拶をする程度だ。
しばらく撮りまくっているとカメラを取り上げられた。

「ホント、飽きないよな」

「写真は私の命だからね。カメラ返して」

「ウチの部員困ってたぜ?更衣室で着替えてたらお前に写真撮られたって」

「サッカー部員は今、人気上昇中だから沢山売れるんだ。カメラ返してよ」

「挙げ句、豪炎寺も撮りたいらしいな?」

「そうそう!豪炎寺くん!そんな名前だったね。いやぁ、顔だけは覚えるのに名前が中々…だからカメラ返してってば」

円堂が手にしている私の相棒に手を伸ばす。すると伸ばした手を掴まれ、引っ張られた。その力が想像以上に強くて円堂の胸板に思いきり顔をぶつけた。慌てて離れたが手は掴まれたままだ。

「いたっ!ごめん撮ったのは謝るから…早くカメラ返して」

「ムカつく」

「は?」

「ムカつくんだよお前」

すごい形相で私を睨んでくる。そんな表情をカメラに収めたい、と思ってしまうのはいつもの癖かもしれない。

「色んな男を撮りやがって…」

「それが私の仕事だからね。円堂も人気出てきたんだよ。やるねー」

冷やかすように言うと掴まれている手に力が入った。結構痛い。不思議に思って円堂の顔を見ると眉間に思いきり皺を刻んでこちらを凝視していた。

「俺だけ撮ってればいいんだよ」

「確かに円堂は売れるけど他の人も撮らないと…」

「あのなぁ、意味分かってんのか?」

「薄々気付いてる。…本気?」

「お前みたいな変人に相手がいるだけでありがたいと思えよ」

ニヤリと笑ってカメラを私の手に握らせる。「返事はいつでも良いからなー」そう言って背を向け、校舎の中へと行ってしまった。
円堂を見送ってからグラウンドをぐるりと見渡してみた。隅の方にあの豪炎寺くんがちらりと見える。
あの人を撮らなければ。女の子達があの人の写真を待っている。

豪炎寺くんの元へと走っていくとき、校舎の方から視線を感じた。多分、いや絶対にあの人だ。




「円堂、何見てるんだ?」

「あ、風丸。いやちょっとな」

「…またあいつか。お前、結構前からだよな」

「なんだ知ってたのか」




(110706)