「…どうしよう」

リコーダーを忘れてしまった。今日、音楽で使うリコーダー。忘れたらきっと先生に怒られてしまう。普通だったらちょっと不機嫌そうに貸してくれるのだが、今の時期はインフルエンザが流行っていると言うことで貸してもらえない。そんなリコーダー。正確に言うとアルトリコーダー。

「誰かに貸してもらったら?」

そんな友人の言葉に私は悩んだ。誰かって誰に?一番仲良い友人は同じクラスで借りれない。つーか、一番仲良いのお前だから。

「じゃあ…彼氏、とか」

「え何言ってんのアンタ。私の彼氏?」

私が聞き返すと笑顔で答える友。今はその笑顔が憎いぜ。
彼氏ね…。貸してくれるのかあいつは。でも一秒でも速くリコーダーを借りないと。もし駄目だったら違うクラスの親しい友人に借りれば良いのだ。貸してくれるかな…。

「風丸、ちょっと良い?」

「なんだ?」

「リコーダー持ってるよね?」

「ああ」

「貸してくれる?」

勇気を振り絞って言うと目の前のポニーテール男子は目を点にした。なにその反応…地味に傷付いた。

「別に良いけど。忘れたのか?」

「忘れてなかったら風丸の使ってるリコーダーを借りに来たりしないよ」

「だよな。俺も今日、音楽あるから早めに返せよ」

ひょい、とリコーダーを投げられる。私はそれをキャッチすると15度くらいのお辞儀をして自分の教室に向かった。

「あ。…どうしよう。あいつが使った後のリコーダーなんて使えない…!」

休み時間でざわざわしている教室に風丸の呟きが掻き消えた。



あれ、風丸も今日音楽あるって言ってたよね。え?私が使ったその日の内に使うの?何日か立った後じゃなくて?それって…、結構生温い間接キス?ちょ、生温いってなに?そんなことを思ったが、借りたリコーダーは使わないわけにもいかず、音楽の授業が始まった。

(いやいやいやいや、無理だってこれ。口付けれないよ!)



(091210)