僕は暑さに弱い。北海道も暑い日はあるが、東京の茹だるような暑さには敵わない。地面はアスファルトが敷き詰められていて下の方からじりじりと熱気が来る。暑い、暑すぎる。すれ違うサラリーマン達はハンカチを片手に急ぎ足で歩いている。こんなにも暑いのにネクタイを締めるだなんて真似できない。

「吹雪くん、大丈夫?」

うん、大丈夫だよ。って言おうと思ったけど、流石にこの状況でそんなことは言えない。素直に暑すぎるかな、と苦笑しながら言った。すると僕の隣を歩いていた彼女はそこの喫茶店で涼もう、と言って笑った。







「吹雪くんってコーヒー好き?」

「どうだろう…眠気覚ましにはよく飲むよ」

そう言って、コップに口を付ける。冷たく苦いコーヒーの味が口に広がる。不味いとは思わない。向かい合い側に座っている彼女は僕の注文したアイスコーヒーをじっと見ている。…飲みたいのかな。

「飲む?」

「え?いいよ。私にはジュースがあるし。あと、あまりコーヒー好きじゃないから…」

苦笑して自分のオレンジジュースをストローで飲む。…なんか変な気分になってきた。

「交換、しない?」

あれ、何言ってるんだろう。飲み物を交換だなんて間接キスじゃないか。それにしても変な気分だ。あの苦いコーヒーの味が感じられなくなった。

「…コーヒーのあとにオレンジジュースを飲んだら美味しくないよ?」

「別に構わないよ。君のが飲みたいんだ」

一時固まってやがて僕の言った言葉を理解したのか顔が真っ赤になった。
間接キスだけじゃ足りないかもしれない。



(100627)