今日は、人生でとてもとても大切な日。そしてとてもとても嬉しくて幸せな日。
だから朝から自然と一人で笑ってしまう。両親もそんな私を見て幸せそうに笑っていた。

選びに選んだドレスに身を包み、化粧をしてもらう。この姿はまだ新郎には見せていない。私もまだ新郎の正装は見ていない。お互い今日まで正装を見るのを我慢した。見るのがとても待ち遠しい。

「立向居くん、来たわよ」

母が私にそう言って更衣室から出ていった。その途端に激しく鳴り出す心臓。緊張する。
ゆっくりとドアが開く。隙間から見える茶色の髪。
立向居は私に目を合わせると直ぐにそっぽを向いた。そっぽを向きたいのは私の方だ。

「せっ先輩、すごく綺麗です!」

やっと立向居が声を発する。それが面白くて頬が緩む。だが、引っ掛かる点がある。こればかりは今日でやめさせなければいけない。

「先輩じゃないでしょ、もう。名前で呼んで?」

「あっ、えっと、その…名前、先輩」

「なんで躊躇うの。しかも呼べてない」

そう言って睨むと、睨み返された。しかし、立向居はすぐにいつもの笑顔になった。怒らせちゃったかなと少し反省していると、

「じゃあ、敬語も無しで良いんだよね?あ、俺のことはちゃんと勇気って呼んで。名前?」

ぞわり、と鳥肌が立つ。それと同時に違和感。敬語じゃない立向…勇気はなんだか変に感じる。それと同時に抱きつきたい衝動に駆られた。
私はドレスに皺ができるのを覚悟して思いっきり抱きつく。

「ああもう!この歳になっても後輩として立向居にときめいている自分がいる!」

「ちょ、何言ってんですか先輩!」

もう一生、先輩と呼ばれても構わない。そう思ってしまう私は手遅れなのだろうか。



(100514)