「瞳子さん」 ソファーに座る私の隣でコーヒーを飲む瞳子さんに話し掛けた。 「何かしら?」 知的で美しい、彼女にはその言葉が似合う。同じ女である私も惚れ惚れしてしまうほどだ。 瞳子さんはコーヒーカップをテーブルに置くと、まっすぐに私を見た。 「それ、美味しい?」 「苦いけど美味しいわ。あなたも飲む?」 優しく頭を撫で、カップを私に手渡す。カップはコーヒーの熱で暖まっていて掌で包み込むように持つと指先からじんわりと暖かくなる。それがなんだか安心できた。 瞳子さんと一緒にいるとき、何だか妙な気持ちになる。胸が締め付けられるような、心臓を誰かが握り潰そうとしているようなそんな感じ。息もできない。 「瞳子さん。私、苦しいの」 「どうして?」 「…わからない」 「私も苦しいわ。あなたといると」 そう言って瞳子さんは私の背中に腕を回し、抱き締めた。私の手からカップが離れ、ごとりと音を立て、フローリングにカップが落ちた。 ふわり、と瞳子さんから優しいコーヒーの香りがした。 (100404) |