先輩、先輩。 と、声が聞こえる。 風が強く吹く。くしゃくしゃになる髪の毛を手で押さえ、私は振り返る。 「待ってよ、先輩」 宇都宮虎丸。サッカー好きの私の後輩だ。 宇都宮はへらりと笑って私の隣に立つ。身長高くなったな…。声も低くなったし、顔立ちも大人っぽくなった。 「卒業おめでとうございます」 改まった様子で言う宇都宮。それを見ているとなんだかくすぐったく感じた。 中学高校が同じで私になついてくれた後輩。いつも笑顔で優しくて、たまに美味しいお弁当を作ってくれる。 「今までありがとう、宇都宮くん」 「くん、だなんて恥ずかしいですよ」 「そう?」 そうですよ。と言うと宇都宮は私の両肩を掴み、目線を合わせた。すう、と深呼吸を一つして口を開く。 「先輩、伝えたいことがあるんです」 「愛の告白なら聞き飽きてるけど」 「そうじゃないです。…俺、」 驚くほど彼の瞳はまっすぐ私を見ていた。 「俺、先輩と同じ大学に行きます!」 …中学校も高校もそして大学も一緒だなんて、他人からは完全にただのバカップルに見えてしまうのではないか。反対しようと口を開こうとしたが、先に宇都宮が言葉を続けた。 「先輩が振り向いてくれるまで一緒にいます」 落ち着いた声でゆっくりと言った。 また、風が吹く。不覚にも目に砂が入ってしまった。目から砂を取ろうと下を向いたとき、 「大丈夫ですか?」 宇都宮が私の両頬を手で掬い上げ、瞼に指を滑らせる。目尻を少し擦られて頬から名残惜しそうに手が離れる。どうやら砂を取ってくれたようだ。 「私も宇都宮に伝えたいことがある、」 「先輩?」 「…虎丸。私は既に貴方に振り向いています」 骨が軋むほど強く抱き締められた。 (100322) |