ピンポーン、とチャイムが響く。

いやだ、出たくない。そう思いながらルーレットを回す。出た数は4。何々、養子をもらう…?ちょ、車の運転席と助手席以外全部子供で埋まったんだけど。

ピンポーン、また鳴る。

絶対に出たくない。嫌だ嫌だ嫌だ。あいつだ絶対あいつだ。あいつしかいない。
しかし私は子供を作りすぎではないのか。

ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン、

流石に耐えきれなくなった私は全速力で玄関へと走った。そしてドアを勢いよく開ける。
がんっ、と鈍い音。見れば、額を手で押さえている銀髪がいた。

「貴様…」

「こんにちは涼野くん。今、人生ゲームやってて忙しいの。また学校でね」

急いでドアを閉めた、つもりだったのだが、涼野がドアを私と逆方向に引いていて閉まらない。

「待て。私に言うべきことがあるだろう」
「何も言うことなんてないよ。チャイム何回も鳴らしやがって。流石にあれは怖かったよ」

「お前が出ないのが悪い」

「え、なんなの私のせい?」

ギギギギギ、とドアが悲鳴を上げる。私も涼野も力を抜かない。だが、一応女である私にも限界はある。そろそろ手の感覚がなくなってきた。

「諦めなよ。お前の力では私に勝てない」

涼野がそう言った後、私の手はドアノブから離れた。





「喉が乾いた。紅茶を淹れろ」

ずかずかと家に上がり、我が物顔でソファーに座る。しかも茶を出せとの命令。何しに来たんだこの男。
浅く溜め息を吐きながらキッチンの戸棚を開き、ティーバッグを手にとる。アールグレイでいいかな。

「今日は私に何か用でも?」

「特にはない。それにしても子供作りすぎじゃないのかお前」

テーブルに広げてある人生ゲームのボードをしげしげ眺める涼野。
別に子供がいたって良いじゃないか。悪いことではないのだから。湯を沸かしながら涼野にそう言った。

「教育費とかしつけとか大変だぞ」

「ゲームなんだからそこまで気にしなくても良いんじゃない?」

「まぁ、しかし。私との子供なら素晴らしい子に育つ筈だ」
ちょっと待て。何を言い出すんだこの美人め。美人にも言って良いことと悪いことぐらいあるのだ。そのくらい弁えて欲しい。

「おい、聞いているのか」

「はいはい聞いてますよ。砂糖入れる?」

「あぁ、頼む」

カップにティーバッグを入れ、沸かしたお湯を注ぐ。アールグレイの上品な香りが漂う。それに釣られたかのように涼野がゆっくりとキッチンに歩いてきた。
すると突然、冷蔵庫を開ける。

「…何してるの」

「小腹が空いた」

本当にこの男は何をしに来たのだろうか。考えれば考える程、分からない。

「今ここでお前を食べてやろうか」

「どっちの意味で?」

そう聞き返すと涼野は薄く笑った。



(100321)