眠い眠い。どうして美術の時間はこんなに眠いの。一番後ろの席でよかった。ここならうとうとしていたってバレない。よーし、寝るぞー。…あれ?なんか…私の右斜め前の南雲、こっち見てる?いやいや、まさか。あの憎たらしいくらいモテている別名、モテ雲モテ矢くんが私を見ているなんて校舎が崩れて瓦礫の山になるくらい有り得ない。きっとそう、私の後ろの壁に貼ってあるポスターを見ているんだ。
ずっとこっちを見ているのですが。もしかしてあれ、私が寝てるところ見られた?きっと酷い顔してたから気持ち悪ぃ、とでも思ってんのかな。だったら前向けよ!ぶっちゃけ、南雲くんの目付きがすごく怖い。そんなに眉間に皺を寄せて何を見ているんですか。あ、目合った。

あ、ほ

口を動かしニヤリと口元を緩める。ごめん何言ってんのか全くわからない。なんで阿呆?そんなこと言うお前がアホだろ、あーほあーほ!そんな視線を向けると伝わったのか、ガタンと音を立てて南雲くんが立ち上がった。

「このアホ面女」

あなたに言われたくないのですが。勝手に人の顔見といてそれはないだろ。だから言い返してやった。

「あんたに言われたかないわ、タラシ」

と。はん、どうだタラシ。言っておくけど私は普通の女子みたいに南雲くんにキャーキャー言ってるんじゃないんだから。すると私の席まで南雲くんが歩いてくる。こっち来んなこっち来んなこっち来んな…!そう念じた私の思いは虚しく砕ける。顎を持ち上げられ、耳元に顔を近付けられた。


「そんな俺に惚れてんだろ?」


低く囁く。鳥肌がぞわりと立ち、私は耐えられなくなった。力一杯腕を振りかぶり南雲くんの鳩尾を殴る。無防備な南雲くんはふらっとよろけた。
ぱこん、ぱこん。
良い音と共に頭に衝撃。見ると、美術の先生が教科書を丸めているのをを手に持っていた。私に一発、南雲くんに一発ずつ。結構痛い。

「お前ら、授業が終わったら職員室に来い」

次の日から私と南雲くんは付き合っていると言う噂が学年中に広まった。南雲くんは今、私の隣にいる。あれ、おかしいな。どうなってんのこれ。私たち付き合ってないよね?そう問うと、

「成り行きっつーことで良くねぇ?」

「良くない。なんで好きでもない奴なんかと…」

「俺は好きだけどな、お前のこと。寝顔可愛かったぜ」

どうやら私はたった今、この短気でタラシな男に堕ちたようだ。不意打ちとは恐ろしい。こんなにも南雲くんって格好良かったっけ?

「これからよろしくな、アホ面女」

「こちらこそ、タラシさん」



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