ごめんなさいタイプじゃないんですっていうかあなた誰ですか?
「俺、苗字さんが好きなんです!俺と、…俺と付き合ってください!」
「ごめんなさいタイプじゃないんですっていうかあなた誰ですか?」
「ぎゃーっはっはっはっはっはっはっ!!ひーっ!!ひっ、あーっはっはっはっ!!」
「ぶっ殺す!!!!」
「痛ェ!!兵助てめぇなにしやがる!!」
「勘ちゃんが俺を指差して爆笑するからだろうが!!」
「これが笑わずにいられるかよ!!だってお前!お、お前!告った相手が!自分のこと、し、知らないなんて…ぐっ、!…はーっはっはっはっ!!!」
撃沈した。まさか、ずっと恋焦がれていた苗字さんが、まさか、まさか、
…俺の存在を知らなかっただなんて………。
「で?お姫さんは他になんて言ってお前フったんだ?」
「……"タイプじゃないんです"って言われたのだ…」
「…ッ、!はっはっはっはっ!!王子と言われた兵助がタイプじゃない!くっ、…はっはっはっはっ!!そいつは凄い高望みのお姫さんだなぁおい!!」
「よし顔貸せ」
終始笑い続ける勘ちゃんの頬にグーパンを食らわせる。倒れこむ勘ちゃんにビビり周りの席のやつらが俺と勘ちゃんのいる席からそっと距離をとった。
予想外だった。まさか彼女が俺のことを知らないだなんて。
確かに俺はそこそこモテると自分でも解ってるよ。女ってものに困ってるわけじゃない。
それに一応俺はこの学年では名前は知られている方だと自負していた。学年一位の勘ちゃんに続いて成績良いし、これでも体育とかでいいとこ見せてるし…。
いや、まぁ、隣のクラスだからっていうのもあるけど…。だからって…。
知らないってことはないだろう………!!
「ひーっひっひっ!でも、顔見てみたいなお前をフったその苗字ちゃんって子」
「まだ来てないよ。いつも朝はHR直前ぐらいに来るのだ」
「へぇ、よく見てるな」
「…見ちゃうんだよ」
廊下側の席なら尚更目に入る。
そもそも俺が苗字さんに惚れたのは、本当に一目惚れだった。
ただ廊下をすれ違ったとき、笑い声が聞こえてふと顔を向けただけ。本当に、それだけだったのに、全然苗字さんの顔が頭から離れなくなってしまった。
彼女について詳しいことは何も知らないし、クラスが隣ってことしかしらない。
残念なことに2組にそこそこ親しいと言えるほどの友人はいない。彼女のことを聞くことなんて出来るわけがない。
苗字さんについて知っているのは、朝HR直前になって学校へ来ることと、委員会も無いのに何かをしながら下校時間まで教室に残っていること。
いつも遅くまでなにしてんだろ。
なんで朝いつもギリギリに来るんだろ。
絡んだことも無いのに、いつの間にか苗字のことしか考えられなくなって、
昨日、ついに自ら遅くまで居残り、
放課後、隣の教室まで行って思いを告げたのだ。
そして、このザマである。
………だからこそ、…これはツラいのだ……。
時計を見ると、あと5分でHR始まりを告げるチャイムが鳴る。
そろそろ来るはずのだ。
「おーはよー!!!!!!!!!!!!!」
ほら、いつもの苗字さんの声だ。
机に突っ伏していた顔をガバりと上げると、廊下に苗字さんがいた。
「お?彼女が苗字ちゃんか?」
「…そうだよ」
元気良く廊下の端から走ってくる。
が、
「ねぇ昨日の回見た!?見たよね!?!?!?なんでガチムキキャラ様はあんなにカッコいいんです!?!?まじもうあのガチムキキャラ様の筋肉に抱きしめられたい!!っていうか舐めたい!!ガチムキキャラ様の筋肉を全身舐め回したいですね!?!?!?
ガチムキキャラ様に抱かれるならもう足腰再起不能になってもいいわっていうかあの筋肉に抱かれて死にたい腹上死したいまじ本望!!!ヘッドロックとかされて死にたい!!!できればバックドロップで死にたい綺麗に技決められたい!!なんていうかもう昨日の神回だったわ作画チームはあのスタッフさんだったしぬるぬる動くし!!!ガチムキキャラ様のための回だったわ!!!迷わずブルーレイにうつしたったわ永久保存版だわ!!!!!!ガチムキキャラ様私はここです早く結婚してくださあああああああああい!!!!!」
苗字さんの、
呪文のような言葉の羅列が耳に入り、
何も理解できないでただただ聞いていた。
ガチムキキャラ様って、誰。
「まじ今朝の名前予想通りにキモイんですけどwwwwwwwwww」
「まだ朝ですよーーーーーー?????」
「ガチムキキャラの腹上死とか成仏できねぇwwwwwwww」
「風紀委員会の立花先輩こっちです」
「テメェらまじぶっ殺wwwwwwwwwww」
友達であろう人と喋りながら、苗字さんの声はチャイムにかき消され、
隣の教室へと吸い込まれていった。
「……あれが、苗字、ちゃん?」
「…うん…?」
突然のことに、勘ちゃんも動揺を隠せていないような様子で、廊下の方を見つめていた。
チャイムが鳴り終わり、丁度いいタイミングで木下先生が入ってきた。
勘ちゃんもそれに気付き、隣の席についた。その直後勘ちゃんが「あ!」と声を上げた。
「どうした尾浜ー?」
「い、いえ、先生、すいません問題ないです」
勘ちゃんは慌てたようにカバンからケータイを取り出し、机の中で何かを必死に打っていた。
その後、「兵助、」と小さく声をかけ、制服の裾に隠すように勘ちゃんはケータイを俺に渡した。
何だと思い受け取ると、画面に映るのは「ガチムキキャラ」と書かれている、謎のアニメキャラクター。
「多分さっき苗字ちゃんが言ってたの、このアニメのキャラだと思うわ…」
「え」
「俺も一回だけ見たことあるんだけど……。苗字ちゃんがこいつ大好きっていうなら、…お前勝ち目ないぞ……」
画面に映っていたのは、筋肉ムッキムキの謎の、キャラクター「ガチムキキャラ」。
「諦めろ、兵助」
うん、この筋肉は無理だわ勝てないわ。
俺とお前は別の次元を愛してるんだ分かり合えるわけないだろ
「……グスッ…」
「きwのwしwたwせwんwせーwwwwww兵助が泣いちゃったんで保健室行って来ていいですかーwwwwwwwwwwwwww」
「な、なに!?どうしたんだ!?」
「叶わぬ恋にぶち当たったみたいでーーーーすwwwwwwww」
「勘ちゃん絶対許さねぇ!!!!表出ろ!!!!!!」
「あぁ!?てめぇの八つ当たりに付き合ってやるほど俺も暇wじwゃwねwぇwんwだwよwwwwwwwwwwwww」
「殺す!!」
「や、やめろ二人とも!!!落ち着け!!!!」