男だし三次元の人間だし15歳越えてるよね私の許容範囲外だから気安く話しかけないで


うちのクラスと1組の体育の授業が同じ時間に行われていることは知ってた。だがつい先日、体育館の使用許可を両方のクラスが出してしまいそのまま受理されてしまい、3組と1組で急きょ合同授業を行うことになったのだ。

全くなんでこの学園の事務員はそういうとこしっかりしておかないんだろう。

まぁ1組には勘ちゃんと兵助がいるし、あいつらと合同なんて最高だ。


内容は無難にバスケ。


私と三郎と勘ちゃん、兵助とハチでチームを組んで体育館のコート半面を使い男子は大いに盛り上がった。

ビリリリと喧しい音が鳴り、試合は終了。雷蔵の最後のシュートも決まり、私たちのチームは勝利した。


「ナッシュー雷蔵!」
「いやー今のは気持ちよかった!」
「雷蔵のレイアップって百発百中だよな」
「あれは止められないのだ」


体育着で汗を拭い、次のチームと入れ替わる。壇上に座り次のチームの試合を観戦することにした。




「名前ー!ダンクー!」
「任せろー!」

急に体育館がワァッ!歓声に包まれた。耳を劈くこの声は半面側にいる女子たちの声だろう。


「女子盛り上がってんなぁ」

「おぉ、また苗字なのだ」
「あいつまじでバスケ強いからなー!」


横から聞こえる勘ちゃんと兵助の声に、私と雷蔵とハチは首をかしげた。

「兵助、苗字って?」
「あぁ、三郎達は知らないよな。苗字はうちのクラスのヤツだよ」
「中学ん時バスケ部のキャプテンだったらしくてさぁ、体育がバスケのときは女子のヒーローだよ。ほら、あれあれ」
「どれどれ?」

勘ちゃんが観客に回っている女子たちにハイタッチをして回っている女子を指差す。あいつか。


「ダンクがめちゃめちゃ上手いのだ。まぁ結構身長も高いしな」

「うん、大体三郎と同じぐらいじゃない?」

「は!?私と同じぐらいであの高さのゴールにダンクするのか!?」
「跳躍ヤバイんだよこれが!前男子と女子と混合戦やったことがあったんだけど、誰もあいつのダンク止められなかったんだよ!」


少し興奮気味に離す勘ちゃん。

信じられない。私と同じぐらいの身長で、あの高さに飛ぶのか。


「見てれば解るって!あいつのゴール、見てるだけでも気持ち良いから!」


手前で行われている男子の試合なんて視界に入ってない。今は向かいのコートでバスケをやっている女子の方に夢中だ。

赤いゼッケンを身に着けた苗字さんという人は髪をポニーテールにし、走るたびにそれが揺れる。下ろしたら背中の真ん中ぐらいまでありそう。


「名前!リバ!」
「えっ!それぐらい取ってよ!」
「えへ☆」
「絶対許さん!」


自分の陣営のシュートを拾い、物凄いスピードで敵陣営まで一気にドリブルをして向かう。
コートの真ん中にあるタイムはもう10秒をきっている。ダンク見れなさそうじゃねぇか。


「名前!もう時間ない!」
「えっ!どうするのこれ!こっから投げる!?」

「名前ー!ダンクもう一回見たいー!」
「名前ちゃんダンクー!」
「ダンクやって名前ー!!」

「よっしゃー!お安い御用ー!!」


まるでアイドルへ向ける歓声のような女子の応援がそこら中から湧き上がる。




ダンッと床を蹴り、

片手でボールを鷲掴み、

信じられないジャンプ力を発揮させる。



ガコン!と音を立て、


ボールはゴールへと吸い込まれていった。



ボールが床に落ちた瞬間、

タイマーが喧しい音を鳴らした。




「カッコイイー!!」
「名前まじヤバーイ!!」
「ナイッシュー!!」

「いえええええい名前ちゃんモテモテー!!!」



ゴールにぶら下がり片手で観衆にピースを向ける苗字。

え、何今の。


まじで?



「な!な!あいつのバスケやばいんだって!!」
「つい目を奪われるのだ」

男子の何人かも今のゴールを見ていたらしく、「苗字やばいよな」「苗字のいるチーム無双すぎだろ」「もうあいつとバスケやりたくねぇ!」という声が其処彼処から聞こえてきた。


結んでいた髪を下ろし、友人らしき女子から眼鏡を受け取りドサリと床へ座り込んだ。

あ、あいつ見たことあるぞ。

えっ!?あ、あいつだったの!?


「え、あいつって、…えっ!?」
「あ、見たことはあるのか?」
「見たことあるわ!お前らのクラスの、一番前の廊下側の席のヤツだろ!?」

あの席だから遊びに行くと嫌でも目に入る。

「そー!一見地味だけどバスケになると豹変すんだよ!」
「多分眼鏡外して髪も上げてたから三郎も解んなかっただけなのだ」


ギャップやばいよなーとまたも興奮気味に離す勘ちゃん。








「…嘘だろ。ヤバイ、苗字さん、ヤバイ。ギャップヤバイ。…ドストライクだわ…!」







口元を押さえて、誰にも聞こえないぐらいの声で思わず呟いた。


まさに一目惚れ。



私ギャップに弱いのか。今始めて知ったわ。





授業終了のチャイムが鳴り、体育館履きを脱ぎ教室へ向かう。今私の頭の中苗字さんのことでいっぱいだ。次の授業が数学とかまじでどうでもいい。苗字さんやばい。





「いやー、だけどあの苗字がオタクでショタコンとはなー」



「…え?」


体育館履きを手に取ると、勘ちゃんが爆弾を落下させた。



「三次元の男には興味ないんだってさ」

「……え?」

「三次元は女子と15歳以下の男子以外は興味全くないんだって」
「よく覚えてないけど『おショタの天使なんとかちゃんぶち犯したいツライ』って嘆いてたの聞いたのだ」
「こっちのギャップもすげぇよなぁ」




オタクは別にどうでもいいとしよう。え、ショタって………。

え?しかも、三次元に、興味、……ない?




「おい苗字!見てたぞさっきのダンク!」
「なんだ尾浜か触んな殺すぞ」

勘ちゃんが苗字さんの背中をバシリと叩いて声をかける。が、苗字はそんな勘ちゃんの手を捻り上げるように拒絶した。


「痛てててて!!相変わらず俺のこと嫌いだな!ちょっとは三次元にも興味持てよ!」
「持ったところでお前男だし15歳越えてんだろどっちにしろ許容範囲外だから去れ」
「なぁもういい加減に俺と付き合ってよー」
「まじでぶっ殺すぞチャラ男風情が調子に乗ってんじゃねぇよ」
「本当に冷てぇな!!」


ふと、目が合う。え、どうしよう。何か、話た方がいいのだろうか。


「え、っと、あの、…シュート、凄かった、ね」

なんでどもってんだ私。



「どうもありがとう」


バスケしているときの笑顔は何処へ行ったんだ。と聞きたいぐらいの真顔で礼を言われた。


「三郎がお前のダンクしてる姿に惚れたって!」
「な!おい勘ちゃん!」

肩をグイと引っ張られ、勘ちゃんが余計な一言をかけた。

どう反応するのか、と思ったのだが、




「どうもありがとう。でも鉢屋くんも男だし三次元の人間だし15歳越えてるよね私の許容範囲外だから気安く話しかけないで」




思わず、体育館履きを床に落とした。





苗字さんは「早く教室戻ろうー!」と声をかけてきた友人であろう人に、

「あー、中等部の今福くんまじ可愛いストライクだわ一晩中この手で啼かしたい」と呟いて去っていった。












こうして私の恋は想いを告げることもなく終えた。





























俺とお前は別の次元を愛してるんだ分かり合えるわけないだろ























「あれ、三郎もしかしてガチで惚れた?」

「諦めた方がいいのだ、相手があの苗字じゃ」

「"女泣かせの鉢屋"がこのザマか三郎!」

「今回は相手が悪すぎると思うよ」



「…お前らなぁ……ちょっとは応援するとか」



「無理だよ」
「無理なのだ」
「無理だろ」
「無理じゃない?」

「お前らなぁ!!!」
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