この世の女全員がお前みたいなチャラ男に惚れると思ったら大間違いだ


まただ。またあいつは私の視界に入って来る。
またヤツの声が耳に入ってくる。

10分間の休み時間を、どうしてコイツは私の教室で過ごすのだろうか。

私はさっき使っていた教科書を机の中に乱暴に詰め込み、トイレに向かった。隣の席の竹谷とデカイ声で会話をしている。

ヤツの名前は尾浜勘右衛門。

あの風貌からは全く想像できないだろうがこの学年一の成績をおさめているのだ。何故、何故一番頭がいいのがあの久々知王子ではないのか疑問である。

そして、学年一の、女たらしだ。

ヤツの武勇伝は数知れず。一週間で14人の女と付き合ったとか(両手に花は日常茶飯事)、女の教師に手を出したとか(何故か教師はクビになったが、何故か尾浜は無傷だった)。

女の話以外じゃ、ここら辺の高校の不良との喧嘩も日常茶飯事だという話をよく耳にする。

ああ成績が良くて女にもモテモテで喧嘩も強けりゃそら人生超楽しいでしょうね!!!



でもねぇ!!!あんたの笑い声うるさいんよね!?!?!?ちょっと自重してくれんかね!?!?!?!?



なんでクラス違うのに休み時間のたびにこの教室に入ってくんだよ!そう思いトイレのドアを思いっきり蹴り開けると、我等が漫研の友人ども×2がホモ本読んでいやがった。お前等ここ便所やぞ!そんな本持ってくるんじゃねぇよ!


「苗字やん、なんでそんなご立腹なん」
「お前そのエセ関西弁やめろよ関西人に謝れ」
「かなわんわー」
「くたばれwwwwww」

「苗字どしたの何でそんな荒れてるの?」
「尾浜が来た」
「また尾浜くんかー。あんた尾浜くんくるとすぐ便所来るよねー」
「何であんた尾浜のことそこまで嫌いなの?」
「いや嫌いなんじゃなくて生理的にダメなの」
「もしかして:嫌い」


そう、私はチャラ男が嫌いなのだ。女をとっかえひっかえするようなヤツらが非常に苦手なのである。別に私が今までもてあそばれた経験があるというわけではない。チャラ男が教室に入り、女どもは色めき立ち、騒ぎ、静かにしたいと思っているほかの連中のことを考えない。なんて迷惑!チャラ男撲滅委員会を作って欲しいと立花先輩に願ったが断られたときは凹んだ。まぁ立花先輩だってチャラ男予備軍だけどね!

まぁどいつがチャラ男だとか、捉え方は人それぞれだけど、それでも私は苦手、と思っているから極力関わらないように生きてきた。

だが、尾浜勘右衛門という男はどっからどう見てもチャラ男だ。こげ茶色に染まった髪をドレッドにし、謎のバンダナ、何個開いてるかわからないピアス、何個ついているのか解らないブレスレット。ポケットからベルトに繋がっているチェーンも、指輪も、ネックレスも、無駄に開いたワイシャツも。何もかもが私の苦手分野にジャストミートである。何なのあいつのあの信じられないアクセサリーの量は宗教的なものなの異国の文化なの。

そしてそれほどではないが、竹谷もまた然り。

っていうか、尾浜をはじめとするあのチャラ男集団が嫌いである。

尾浜と鉢屋と不破と竹谷。久々知くんはあいつらと仲良いけど何故あんな王子オーラが出ているのか。彼は友達の選択を間違えたのだろうかそうだろうなかわいそうに南無。



こんなチャラ男たち二次元にしかいないと思っていた私は、初めて会ったときに鳥肌がたった。

教室で話すときは必ず女を侍らす。何処のホストだ貴様。

しかし万人向けの笑みと巧みな話術とは裏腹に、そのままペースに乗せられ付き合ってしまえば、これは食われて捨てられるフラグ。一度食べたらすぐにポイッ!近寄る女はそれを覚悟して近寄っているのだろうか。まったく持って近寄る意味が解らん。


授業開始のチャイムが鳴り、漫研と別れを告げ、と教室に戻ると、尾浜勘右衛門はまだいた。っていうかオイ、私の椅子に座るってんじゃねぇ!誰の許可とってそこ座ってんだブッコロ!!

ドアを開けた瞬間「ゲッ」て言ったら、尾浜と目があった気がした。
その後すぐに尾浜は立ち上がり、私の横をすり抜けて教室を出て行った。聞かれてなかった。よかった、と考えながら席に着き(ケツのぬくもりがキモイ)、次の授業の教科書を取り出していると、

「なぁ苗字」

うわぁ声かけられた黙れ。

「なんスか」
「え、怒ってる?」
「いえ、別に」
「さっき勘ちゃん見てゲッて言ってたろ」
「ゑ」
「聞いてたみたいだぞ。あいつ誰だって聞いてきた」
「オワタ」
「ただのオタクだって言っておいた」
「おい」
「冗談だよ。あんまり仲良くないからって言っておいた」
「ありがとうございますそしてありがとうございます」
「これを機会に仲良くならねぇ?」
「結構です」
「冷たい…」

スネたように机に突っ伏してしまった。寝るなよ、授業中だぞ。

あぁ、竹谷のようないいやつだったらチャラ男でも許せんだけどな。












「暇だ。どこかのリア充が物理的な意味で爆発しないものか」
「ちょwww何そのダイナミック殺人事件wwwwwwwwwwww」

放課後、夕日がぎりぎり差し込んでいる一階隅の美術室。美術部という名の漫画研究部。今日も元気に活動しているであります。


「あ、やべ、教室に忘れ物した」
「なんだと。まさか私に渡すはずの漫画じゃあるまいな」
「ジャストミィイイイイイッツ!!」
「ぶち殺すぞwwwwwwww」
「多分机の中。6時間目まったく聞かないで机の下で読んでたから」
「ちょwwwwおまwww6時間目の教師涙目wwwwwwww」
「すまない隊長!教室に行ってくるであります!」
「部のことはまかせろぉ!私にかまわず先にいけー!」
「はいはいワロスワロス」
「のってやったのこっちだぞ氏ね」

運がいいのか悪いのか、私の教室は美術部と同じ1階だ(図書室は5階。この学校私を殺す気か)。扉を出て右に曲がり、廊下を真っ直ぐ、一番奥の教室がそうだ。

あそこまで行くのに息切れする私は病気だろうか。ただの運動不足だろうか。


やっとついた教室は前のドアが半開きになっていた。鍵がかかっていない?誰かまだいるのだろうk


「ねぇー勘ちゃん。もう一回キスして?」

なんだとー!うちのクラスから甘ったるい台詞が聞こえて来よるぅうう!

あ!?勘ちゃん!?もしかして尾浜勘右衛門か!?なんでテメェうちのクラスにいるんだクソ出て行け!!

「えー、だって今だって俺からしてあげたじゃん。やだよー」
「いじわる…」
「そのいじわるにちゅーしたのは誰?」
「ごめんなさい。私です…」
「はい、いい子」


ちょ、何このトキメキメモリアル実写バージョンwwwwwwwwwwww甘ったるすぎてゲロ吐きそうなんだけどグホォwwwwwwwwwwwwwwwwwww



その後存分にちゅっちゅしたあと、じゃぁね、と女の人の声が聞こえたので、私はまずいと思い、急いで逆走してトイレに隠れた。なんで今日私こんなに走り回らなきゃいけないの辛い。

トイレの窓を女の人が横切った。あぁ、あの子ウチのクラスのかわい子ちゃんだ。だからウチのクラスイチャイチャしてたんだなんて迷惑なんだろうけしからん。
私は本来の目的である教室に忘れ物を取りに帰るため、教室に入った。

だが、まだ、尾浜はいた。

全身の産毛という産毛が立ち上がったのがわかった。ヤツは教卓に座ってこっちを見たため、前のドアから入った私はバッチリ目が合ってしまった。また「ゲッ」とか言いそうになったが、教室には二人きり、無音、ここで声を出したら私は死亡フラグ乱立だと思ってなんとかのどの奥で声をとどめた。

そのまま尾浜を無視して自分の机に向かい、しゃがんで机の中を覗き込んだが、目的の本が発見できなかった。あれ、さっき教科書と一緒にロッカーの中にしまっちゃったっけ?そう思いロッカーに向かった。世界史と古典講読の教科書の間に、その本は挟まっていた。まじ読みっぱなしだわクソ不覚wwwwwwwwwwww


よかったと思い振り向いたそのとき、

心臓が口から飛び出るかと思った。


っていうか多分飛び出た。





尾浜勘右衛門が、真後ろにいた。



近い。それはもう近い。驚きすぎてガタガタッ!とロッカーに背をぶつけ本を落とした。何!いつ背後についたの!現代の忍なの!


「…苗字さん?」

「人違いです」
「嘘、ロッカーに名前書いてあるよ」

知ってるなら聞くなよ!なんなんだよお前!


「今日俺に向かって、ゲッ、て言ってきた人」
「オゥフ」
「オタクさん?」
「そういう聞き方やめてください」
「四足歩行の方のオタクさん?」
「生態系まで!」

こいつ┌(┌^o^)┐のこと言ってやがる!



「俺のこと嫌いなの?」

またそんな返しづらいことを

「はい」

返しづらくなーい☆



「え、なんで?」
「…チャラチャラしている人、苦手なので…」

「ふーん。苗字さん今彼氏は?」
「は?」
「だあかあらあ、彼氏。恋人とかいるの?」
「いるように見えます?」
「見えない」
「デスヨネー」

「じゃぁさ、俺と遊んでみる?」

「は?」
「だからさ、二次元じゃなくて、三次元の恋してみない?」

「…は、え、ちょ、待、!」

本を持ってるほうの手を引かれ身体が密着。もう片方の尾浜の手は、私の背後の壁へ。

あ、これあれだ。壁ドンってやつだ。


壁ドンってやつだ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



「苗字さん結構髪の毛ふわふわしてんだね。いっそのこと思いっきりパーマかけてみたら?そんでもって化粧もしてみたらいいのに。グロスは、そうだなー、オレンジ系が似合うと思う。あとはその眼鏡外してコンタクトにしたほうが、」

そこまで言われ、眼鏡を外されかけたとき、

握りしめたこぶしを、

渾身の力を込めて、


尾浜勘右衛門の左頬へと飛ばした。



私の行動が予想外だったのか、尾浜は倒れこんで頬を押さえ、目を白黒させてこっちを見た。
私も予想外の行動である。


「いっ、た…!」

「この世の女全員がお前みたいなチャラ男に惚れると思ったら大間違いだあああああ!チャラ男なんざお断りじゃボケエエェェエエ!」



細マッチョは総受け派なんだよぉ!と捨て台詞を残し、私は漫画を持って部室へ戻った。












部室にて全てを話し、

明日の学校に私に友達は独りもいないということを覚悟し、私は家に帰った。
















俺とお前は別の次元を愛してるんだ分かり合えるわけないだろ


「あれ、勘ちゃんなにそれまた喧嘩したの?
「いや兵助、これ、愛の鉄拳」
「へぇ。恋でもしたの?」
「恋しちゃった」
「えっ」
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