一人の女だけを見て一人の人だけを愛せるようになってから出直してくれ
クラスに一人はいるよね。なんかいつも教室の隅で本を読んでるんだか絵を描いているんだかよくわかんないような暗ーい子。
いわゆるオタクってやつ?今日描いているのは何のアニメのキャラ?っていうか創作?
ま、僕には興味ないけどね。
「雷蔵、この間言ってたゲーム、もう飽きたからやろうか」
「本当!?」
「でもタダじゃやれねぇな。んー、そうだな例えばさ、」
クラスのあの根暗、苗字名前をオトしたらあのゲームやるよ。
なーんて。ハチも面倒なこと言ってくるなぁ。
どうせお前も暇なんでしょう。
彼女のことは知ってる。よくこの図書室で本を読んでは大量に借りていってる。そして短時間で返してくる。10冊借りても、一週間とかからず返す。どれくらいのペースであの量の本を読むのだろう。
苗字さんをオトしたら、ねぇ。
あのゲームもう絶版なんだよねー。オークションでも相当高いし。彼女には悪いけど、ちょっと遊ばせて貰おうかな。
「ね、苗字さん」
「…はい?」
放課後の図書室の当番は僕だけ。それに今日はもう誰もいない。彼女以外は。
「僕のこと、知ってる?」
「…そりゃ、まぁ、同じクラスですから」
「名前は?」
「不破、雷蔵さん」
「あ、さすが。やっぱり知ってたかぁ」
手にしていたのは、最近リクエストがあって入れた、ライトノベルってやつ。
あぁ、やっぱりそーゆーの興味あるんだ。
「何読んでるの?」
知ってるよ。新刊は全部目を通しているんだから。
「俺わかです」
「俺わか?」
「"俺とお前は別の次元を愛してるんだ分かり合えるわけないだろ"ってタイトルなんですけど…」
「長いね」
「そりゃ、まぁ、そういうものですから…」
凄く会話が続かない。
あー、この人オトすとか多分チョロイかもしれない。案外早くあのゲームゲットできそう。
オタクだから三次元に興味なんてない、だなんて。ハチはわかってないなー。
こういう子ほど本当は三次元の恋を求めているんだって。
「ね、名前さん」
「な、」
「別に、名前で呼んでもいいでしょ?」
「…いや、その、」
とりあえず名前から。
「僕さ、たまに此処で名前さんが本読んでるとこ、見てたんだ」
自分を見られていると思わせる。
「それでね、ずっと話をしてみたいと思ってたんだ」
目を合わせて、君に興味があると伝える。
「やっと今日話せて、嬉しい」
そういって僕が微笑んで
「もっと名前ちゃんと、話したいんだ」
手を握る。
「…名前ちゃんはさ、好きな人とか、いるの……?」
そうやって問えば、彼女は必ず、僕に興味を示す。
「いるよ。あんたみたいなチャラ男とは全然違う二次元の王子に恋してんだよ」
興味を…………あれ?
「あんたそうやって今まで何人の女騙せたと思ってんのっていうかよくそんなクソみたいな台詞で騙せてこられたもんだねこの学園の女子って顔面偏差値高いから付き合うのも一苦労かと思ってたのにそんな漫画でしか通用しないような台詞ぺらぺら並べて彼女って出来るもんなんだへぇ知らなかったわ顔面偏差値高くても頭は残念なクソ女だらけってわけかこれだから三次元の男は嫌なんだよどうせ女なんておっぱいあって穴ありゃ誰でもいいとでも思ってんだろこっちはテメェらと違って次元の違う恋をしてんだよ想っても想っても伝わらねぇし会うことすら出来ねぇんだよっていうか三次元の男に興味ないからそれもあんたみたいなチャラ男論外なの不和くんて鉢屋くんと仲いいよね雷鉢?それとも鉢雷?それとも大穴狙いで雷竹?すまないがホモ以外は帰ってくれないかな何度も言ってるけど三次元に興味はないのあんたみたいな何人もの女に触れさせた身体と恋してキスしてセックスするぐらいなら私一生独身でもいいからさりげなく手ぇ触るのも止めて誰も名前呼び許可してないんだけど隣に座っていいとも言ってないもしかして私のことなにか賭けの対象にでもしてるんだったら今のうちに止めた方がいいよ私があんたにオチるわけがないどうしてもその賭けに勝ちたいのだとしたら一人の女だけを見て一人の人だけを愛せるようになってから出直してくれるそれでも先に言い切るけど君にオチることはないから安心して今日はこれを借りていくから貸し出しカードはさっき出したでしょもうあなたにもこの部屋にも用事はありませんもう帰りますさようならまた明日」
何が起こったか、わからない。
図書室から出て行く彼女。
動けない僕。
届いたメールには
『制限時間は一週間。あのオタク女をオトせたやつは今だに0!』
ハチのやつめ、彼女のこと、知ってたのか。
これはこれは、盛り上がってまいりました。
俺とお前は別の次元を愛してるんだ分かり合えるわけないだろ
「これだから三次元は嫌いなんだよ!」
「一週間かー。ちょっと手ごわいなー。」