目当てのアニメは録画するけどリアルタイムで見たい派だから


「苗字さん、今日俺と一緒に帰ってくれませんか」


「……誰?」

「いやだから、昨日の、」

「…?」


「…あぁ、うん、その……初めまして。久々知兵助です」

「あ、これはどうも、ご丁寧に」



図書室から出てくるところを狙って、俺は昨日の汚名をそそぐため突然こととは思ったが放課後デートを申し込んだ。

存在すら知らなかったということは、この恋を成就させるためには
まず俺「久々知兵助」という存在を苗字さんに知ってもらう必要があるということだ。

俺は動くぞ。苗字さんに好いてもらうために。
あのガチムキキャラのガチムキキャラなんかには負けない。
いや勝てないけど。でも気持ちは負けない。俺は三次元なんだから。絶対負けん。


どうやら苗字さんはまじで俺の事を知らないらしく、
昨日あんな大事件を起こしたのにもかかわらず"初めまして"という言葉に何の迷いもなく返事をした。


…初めましてじゃないんだけど……。



「で、……えっと、私?」

「そう、苗字さん」

「別に良いけど。えっと………」

「…久々知です」


良いよと言われたのに名前をまだ覚えてもらえてないというところにつっかかり素直に喜べない悲しい。


「そう、久々知くん。久々知くんって自転車?一緒に帰るのは別に行けど私学校まで歩きだよ?」

「じゃ、じゃぁ俺の後ろ乗っていいから」

「うん、じゃぁそうする。っていうか、一緒に帰ってどうすんの?」

「え…?」


どうすんの…?


一緒に帰る=デート という俺の発想はおかしいのか…?

え…!?違うのか……!?そういう発想にはならないのか…!?

これもしかして家までの道のりを一緒に歩くだけだと思ってる!?


苗字さんって鈍いの!?天然なの!?まじでこういうの興味ないの!?

普通自分を好いているっていう男からこういう申し込みあるんだからどっかに寄り道するとか考えるんじゃないの!?




苗字さんって…どうすりゃ俺の気持ち理解してくれんだろ……。




「…じゃぁ、苗字さんどっか行きたいとことか無い?」

「んー、あぁ、駅前のゲーセン。欲しかったフィギュアまだ落としてないんだよね」

「!うん、いいよ、じゃぁそこ一緒に行こう」

「うん、久々知くん、だよね。覚えた。じゃ、放課後ね」




手をヒラリと振って、俺の横を通り過ぎ、

思わず俺はその場でガッツポーズをとってしまった。



「良かったなぁ兵助ぇええ!!」

「やったよ勘ちゃん!!さっきグーパンしてごめんな!!」

「いいって気にすんなよ!!今日頑張れよ!!」

「頑張るよ!!超頑張る!!」


柱の裏に隠れていた勘ちゃんが勢い良く飛び出し、俺の背中に飛びついた。
やったよ勘ちゃん。俺やっと名前覚えてもらえるところまできたよ。

昨日の「誰だっけ」発言には衝撃を受けた。

でもそうだよな。よく考えてみたらそうなるよな。
一回も喋ったこと無いのに一目惚れってだけで告っても花咲くわけないよな。

苗字さんがオタクだってことも今朝のHRで知ったんだし、俺自身も彼女のことを何も知らなかった。

え?苗字さんがオタクでもいいのかって?

別にそんなの関係ない。オタクだろうがなんだろうが惚れてしまったものは惚れてしまったんだから。
いまさら嫌いになる理由なんて何もない!


「男久々知兵助物語は今此処から始まるのか…!」

「ど、どど、どうすりゃいいんだろ、ゲーセン行こうって言われたんだけど。フィ、フィギュアが」

「ゲーセン!?お前クレーンゲーム得意だったじゃねぇか!何でもとってやれよ!」

「活躍するときがついにきた…!!」

「地味だけどな!」

「うるせぇ!!」


勘ちゃんの腹に一発きめると、勘ちゃんはグフゥと情けない声を上げて丸まった。

ウワァァァアアどうしようどうしようもうこの後の授業全部サボりたい。ずっと駐輪場で苗字さんのこと待ってたい。ツラい。













「あ、よかったまだいた。おーい」





突然、階段の下から、さっきこの場を立ち去ったはずの苗字さんの声がした。
ビックリして廊下を這うように勘ちゃんがまた柱の裏に隠れ、俺は階段を上がってくる苗字さんに目を向けた。


「ど、うしたの」

「ごめん、今日放課後無理っぽい」

「え」

「用事あったんだったわ」

「あ、そ、そうか。それじゃ、仕方ない」







「うん、今日アンパンマンの日だった」



























「……は?」




俺と別の小さい声で「は?」と聞こえたのは、多分勘ちゃんの声。



「いやだから、今日金曜日じゃん。アンパンマン見ないと。今日私のナガネギマン様が出るから。
目当てのアニメは録画するけどリアルタイムで見たい派だから」





………ハァ!?!?

なんなの!?苗字、えっ!?そ、…え!?!?それまじで言ってるの!?!?


アンパンマン>>>>俺なの!?

どういうことなの!?


いや、いやいや、いやいやいや!!

苗字さん確かにオタクだってことを今朝知ったけど!!かなりのアニオタだって知ったけど!!

あ、アンパンマン!?

それ見たさに俺とのデート断るわけ!?





言い方悪いけど、正気か!?!?








「…あ、あぁ、そ、そうなんだ」



ごめんねーと手をあわせる苗字さん可愛いけどいまいちこの状況が全く理解できないんですけど。


…アニメに、負けるのか俺は…。

しかも……ナガネギマンて……………誰だよ………。

















「だからさぁ、明日って暇?私明日だったら一日何もないんだけど」







「……え」

「だから、明日。土曜日。休み。バイト休みで何もないから。今日の埋め合わせ、明日でどう?」



「……い、行く」

「そっか。よかった。じゃぁ今日はごめんね。あ、これ私のアドレス。もし明日ダメになったら連絡ちょうだい。じゃぁね」



またさっきと同じように、手を振って苗字さんは階段を下っていった。

ノートの切れ端であろう紙に書かれていたのは、苗字さんのフルネームとメールアドレス。



「へ、兵助…!」

「……」

「兵助!?」




いきなり一日デートみたいです。


俺は今死ねる。




「……勘ちゃん、これは…夢か…?」

「ゆ、夢じゃねぇ!夢じゃねぇから!」

「…ちょっとここから飛び降りてみる」

「やめろ!ここ五階だぞ!死にたいのか!」


きっと彼女からしてみれば今日の誘いを断ったとこにたいしての謝罪の意を込めた誘いだったのだろうが、
俺からしてみたら天にも昇る気持ちにさせる爆弾発言だった。

だって、今日の放課後だけのつもりだったのに、まさか、明日、一日って。


「勘ちゃん…」

「なんだ…」

「…俺死ぬ」

「生きろ!そなたは美しい!!」


歩く気力すら失せた俺はその場に座り込んで喜びを噛み締めた。



あぁ、ダメだ。俺もうダメだ。

メールアドレス渡されただけなのにこんなに手が震えるなんて。


もうだいぶ末期だわ。


今日もまた二次元という存在に負けたけど、

いつか勝てる日がく………






…来る、の、だろうか…。





















俺とお前は別の次元を愛してるんだ分かり合えるわけないだろ













「…」

「兵助?どうした?」

「今メール送ったら…『どちら様でしょうか』って来た…」

「そりゃお前向こうはお前のアドレス知らないんだからそういう反応するだろ」


「いや、名前入れたんだけど」

「…」










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ワタライ 様に捧ぐ


すでに完結済みの作品の番外編をリクエストされるとは!!!!
こんなクソシリーズのご愛読まことにありがとうございます!!!

てなわけで、久々知編の番外編として次の日の光景を書かせていただきました!!

当然ですが名前ちゃんは自分が興味あることしか覚えないアホの子なので
久々知くんにはコスプレとかしてもらわない限り興味わきませんね!!!!

彼細マッチョですし!!!!


リクエストありがとうございました!!!!
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