「次のおまえのセリフは『なんでヤンデレ幸村で蒼紅を描かなかったんだ』という!」
「なんでヤンデレ幸村で蒼紅を描かなかったんだ!ハッ!」

「うるせぇよ悪かったって言ってんだろ頼むからお前らいい加減に仕事しろ」

「「はい」」


快晴。クソ暑苦しい。こんにちは。奈緒の友人で本日売り子を担当しております有紀でございます。もう疲れました。

今年も無事開催されましたコミックマーケット。通称:戦場。

南天、いや奈緒は今は全く自分のブースから動いていません。何故ならスケブを頼まれその場でガサガサと描いているからである。そろそろ知り合いさんにご挨拶に回りたいと思っているらしいのだが、なかなかそうはいかないみたいだ。

奈緒はいつも通り大量の差し入れを貰ったり握手を求められたりしていた。写真だけは断ってるけど。奈緒は可愛い。普通に可愛い。写真ぐらいなんの問題と思うのだが、「見て欲しいのは本だし、私の顔は脳内で覚えててくれれば十分ですから…」と毎度断っている。


奈緒のところへ来ているお客さんは女の子が圧倒的だが、たまに男の子もいる。腐男子ってやつだ。


「男の子なのに私の妄想見て楽しい?」
「超楽しいッスよまじで南天さん大好きッスし!」
「こいつの影響でハマったんスけど、支部も見てますし実はフォロワーです」
「うっほwwwwww恥ずかしいでござるwwwwwwwwww」

奈緒は男が腐っているということに対しても偏見は持たない。いい子だ。むしろ男なのに自分の作品に興味を持ってくれていることがものすごく嬉しいらしい。


「あの!南天さん!」
「はー……あー!あなたこの間のオンリーに来てた子でしょー!?」
「はい!そうです!覚えててくれたんですか!」
「そりゃ覚えてるよー!アイスの差し入れまじで嬉しかったんだもん!あの時はありがとうねぇ!」

「いえこちらこそ素敵な日独をぉ…あ、これ差し入れですシュークリーム焼いてきまして」
「ヤンデレた本田が描きたかったんですぅ…うわまじかシュークリーム大好物ありがとうございます」

ほらね、ただのお客さんの顔も覚えてる。奈緒は本当にいい子だと思う。お客さんの女の子は奈緒の、いや南天の本を保存用と見るよう両方買った。信者なのかな。

「あの、もしよろしければ、スケブお願いしてもいいでしょうか…」
「もちろんじゃないか!誰にする?シュークリームも貰っちゃったし蒼紅じゃなくても可!!」
「え!本当ですか!じゃぁ…」


まさか私がこの子を腐らせたとき、こんな大物になるだなんて思いもしなかった。だって昔は普通の子だったのにいまや自分からホモセッ久を描くような子になってしまって。奈緒のご両親には本当に申し訳ないことをしたと思っている。

だけど奈緒もまだそんな年齢ではない。支部に作品はあげようとも今日はR18ものではない。ただイきすぎたイチャイチャを本にしただけと言っていたが、真相やいかに。

その場で会話をしながらスケブに絵を描いていく。どうやらルートを描いているみたいだ。気分がいいからかコピックでちゃちゃっと着色もして彼女に渡すと、彼女は泣いて喜んだ。信者だこりゃ。

バイバイと手を振りあのこと離れると、「疲れたでごわす」とまたパイプイスに沈んだ。


「売れ行き順調だね」
「本当に南天の人気凄いね」

「ありがとね有紀、理沙。あんたらのおかげよ」

紀子はとっととコスプレブース行っちゃうし、と苦笑いをしながらアクエリアスを口に含んだ。まぁ、こうなることは目に見えてたけどね。


「感謝する前に他のサークルさん達に挨拶行って来たら?」
「そうだよこの後もっと混むかもだよ」

「うへぇ、じゃぁちょっと行ってくるわ。暫く席外しちゃうからさー、スケブ預かって注文聞いておいて。何でも可。帰ってきたら一気に描くから。任せたぞ!」

「あいー。任せといてー!」


大量のスケブも描き終え、あとはこれらを注文した子が取りに来るだけだ。会計の方は私たちがやってるし、奈緒は挨拶に行ってきても問題は無いだろう。

大量のお菓子を持って(多分あれ差し入れ)自分のスペースから離れていく奈緒の背中を見送り、私たちはまた途切れぬ客に対応しつつ、どのタイミングで昼飯を食おうと考えはじめた。腹減った。











「じゃ、私はそろそろ」
「え!もう帰るの!今度またオフしようね!絶対だからね!連絡寄越さなかったらまじで犯しに行くからね!」
「可愛い顔してエグいこと言う!!」

超可愛い知り合いに挨拶に行ったのだが別れ際の挨拶がこれだ。ちょっとまじもう嫌になる。なんであんたこんな可愛いのにホモホモしいもの書いてるんです?何処からどうみてもぱんぴーさんですよね?私の格好?これ変装の一環だから。いやまじで。こんな場所じゃなきゃこんなオシャレしない。いつもTシャツにGパンだから。Gパンて死語?パンツ?

途中で連絡を取り、京子と真美と合流もして、戦利品を受け取った。どうやら1つのお目当てのサークルさんの本が品切れになってたらしい。恐ろしいコミケの威力!とりあえずお金を渡し、私は上機嫌で紙袋をブンブン振りながら自分のスペースに戻った。あ、お兄さんぶつかっちゃってすいません。

京子と真美にはもう前もって私のやつは渡してあるのだ。無料配布ももちろん。だって連絡とればあえるのにわざわざ買いに来てもらうのも悪いじゃん。

携帯を取り出し時間を確認する。どうやらあれからまわりにまわりまくって真美達とも合流して、1時間以上は経過してしまっているらしい。ヤバイそろそろ帰ろう。

「すまーん。まわりすぎた」
「お疲れさーん」
「おかえりー」

お客さんが途切れているかパイプイスに座ってお茶を飲む二人。汗だくでござるよお前ら。あのスケブ山が綺麗になくなってる。あれ、二冊だけある。

「あれ?まだ取りに来てないの?」
「いんや、新規。さっき超イケメンのお兄さん2人が来てさぁ、2人ともあんたの本買ってったよ」
「まじかよ私の出会いは?」
「知るかよwwwwwwww」

「2人ともスケブお願いしますって。こっちが蒼紅のどっちか描いて欲しいって。んでこっちは本田描いて欲しいって」
「まじかよお安い御用でござるるる」

戦利品を机の横に置き、愛用シャーペンを取り出し渡されたスケブを開いた。うお、この人すげぇ大御所の人に描いてもらってんなすげぇ。あ、この人知り合いだ。あの人の場所にも行ったのか。

私の描くスペースはもう最後の1ページだった。え、こんな貴重なところに私が描いてもいいのだろうか。

私がいない間に頼まれたスケブはこれだけらしい。それからその人はコスプレブースまでまわってから此処に来ると言ってたという話を聞く。五分ほど前の事らしい。じゃぁついさっきのことか。

じゃぁこっちのスケブの人には幸村描こうー。時間もあるだろうしボールペンで書いちゃおうー。ガッツリ色も塗っちゃおうー。会計は有紀がしてくれてるし暇だ。さすが理数系は計算速いわ。そうじゃないか。

本当に腐男子の人最近増えたよなぁ。しかも私の作品買ってってくれるだなんて嬉しい。


「そういえば今幸村描いている方のスケブ頼んでったお兄さんさぁ、バッグに豆腐のキャラのぬいぐるみつけててさぁ」

「とーふ?」
「そうそう。名前はわかんないんだけどゆるキャラみたいな感じの」
「何wそwれwwww超可愛いwwwwwwwww」
「イケメンのお兄さんが豆腐のぬいぐるみwwwwwww大好きなんですよって言ってたwwwwwwwwwwwww」
「癒されるwwwwwwまじ平成日本男児平和wwwwwwwwww」


豆腐のキャラといえば久々知くんもなんちゃらなんちゃらって豆腐のキャラのストラップ探してたな。なんだっけ。薄ピンクの。名前忘れた。

こんなやつ?とうろおぼえで余っている無料配布の裏に書くと「あー!そんなやつだった!」と指をさす。じゃぁ久々知くんが持ってたやつと同じやつだ。あれ今人気なのかな。確かにクッションとかにするのなら最適の形だけどもwwwwwww


「じゃぁ幸村にこの豆腐ちゃんのぬいぐるみ抱っこさせた絵にしようwwwwwwwww」
「うほwwww豆腐ちゃんと幸村のコラボ可愛すぎワロタwwwwwwwwwwwwww」
「ピンクのコピック取って。お兄さん喜んでくれるかしらwwwwwwwwwww」
「南天とお兄さん結婚√と聞いて」
「なにそれ素敵」

結局べちゃくちゃ喋りながら二冊を描き終えた。ふぅ目が疲れた。なんていうか、二冊とも着色まで完璧。写メとっとこ。

「あ、おしっこ行きたい」
「何!?おしっこ!?その辺でしなさい!」
「突然の紅の豚」
「あ、それ豚か全然わかんなかった」
「うわ有紀乙」
「んだとてめぇ」
「ここからトイレ遠いのよね。ちょっと行って来るー」


結局私は案の定迷子になり、30分くらいかけてトイレにたどり着いた。戻ってきたときにはさっきのスケブは二冊ともなく、15分ぐらい前にお兄さんたちは此処を離れたらしい。


「2人ともボールペンだし着色だし発狂してたよ」
「超喜んでたよ」
「私の出会いは?」
「「知らねぇよ」」
「ファック!」


こうしてコミケ一日目は無事終了した。明日もよろしくねー。


あ、紀子はローズたんのコスをして大人気だったらしい。「よかったな貧乳で」って言ったらケツ蹴られた。痛い。

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