「おはよー」
「おはようじゃねぇんだよカス俺の顔を見てもういっぺん言ってみやがれ」

「昨日は無断欠席及び文化祭の片づけをサボってしまったことをここに深くお詫び申し上げます本日は誠にいい天気でございます真美様おはようございます」
「おはよう」

教室に入ってすぐ荷物を放り投げその場に五体投地。扉の向こうで真美が仁王立ちしていたもんだからこれはもう条件反射である。

「と、戸塚さんおはよう」
「おはようございます久々知くん」

「テメェ私と久々知くんで対応ちげぇぞ!!」
「は?」
「ゴミムシは黙ります」

怒った表情をしているのはもちろん真美だけではないわけで。教室中の連中が、共に教室に入ってきた私と久々知くんをみてため息を吐くわ頭を抱えるわ見下す目で見るわ「これだから文化祭は」を吐き捨てる奴もいた。

「で、結局文化祭実行委員同士でくっついたわけだ」

「はい」
「はい」

「あーいるいるこういうカップル!!文化祭マジックで心高ぶって付き合っちゃうようなヤツ!!こういうやつってどうせ冬越せないから大丈夫大丈夫!みんな心配しないで!!」

「やろう、ぶっころしてやる!」
「きゃぁ、じぶんごろし!」


みんなが怒っている理由。それは昨日、私と久々知くんはあのまま学校をさぼったからである。

文化祭が終わり休日も終え、次の学校の日は、午前中が文化祭の出し物の片づけ、そして昼を挟んで午後は通常授業になるわけだ。この間の時間割通りだと五限目は選択で六限目が体育だったはず。片づけの後に体育はしんどい一日だっただろうに。だが私と久々知くんはあのまま久々知邸にて一日を過ごしたのだ。お互いの誤解が解け今までのすれ違いを笑いあいながら話していると、久々知邸の時計が正午を告げる音楽を鳴らした。その時まで私たちは時間という存在を忘れていて、「もうお昼wwww」とまた腹を抱えて笑った。だが問題はその後だ。そろそろ学校行こうよと立ち上がったのだが、久々知くんは私の手を引き「今日はもう、サボっちゃおうよ」という天使の様な笑顔で悪魔の囁きをしたのだ。この少女漫画の様な展開。2カメさん撮れてる???ちゃんと引き画でね???

「私は別に構わないけど、久々知くん無遅刻無欠席とかじゃないの?」
「いやぁ、別に、いいかなぁって。どっちにしろもう遅刻でしょ?俺はもっと奈緒と一緒に居たいよ」
「勿体なきお言葉に御座います!!!!」

遅刻って確か3回で一回欠席扱いじゃなかったっけか。私はもうこれで何回遅刻してるかわかんないし何度欠席扱いになってるか解んないけど、私は久々知くんが遅刻したり休んだりしてるところを見たことがない。私の存在如きで久々知くんの人生に汚点を作ってしまった。これはもう責任とって嫁に行くしかないわ。

よ、………嫁?!?!?!?!???!!!??!ごめん気が早まりすぎた!!!!!!!!


「忘れて!?!?」
「何を!?」
「あ、いやなんでもないごめん」

てなわけで、本当にあのまま久々知邸で一日を過ごしたのであった。時折来る尾浜くんからのメールには私も久々知くんも返事を返していたし、お昼休みの時間には電話も来て、尾浜くんには全て伝えたしお礼も言った。私は終始謝られたけど、もうさっぱり気にしてない。あんな思わせぶりな態度を取った私も悪かった節がある。

お昼ご飯に久々知邸のキッチンをお借りし昼飯を作り、その後はなんだか本当に私達恋人なんでしょうかと聞きたくなるような一日を過ごした。私は制服のまま。久々知くんも制服のままだったため、久々知くんはスウェットに着替え、私も久々知くんのスウェットをお借りした。く、久々知くんの匂いがする…ハァハァと深呼吸したのは言うまでもなく。そのままゲームをして漫画を読んで、最終的には私にスケブを頼んできたりもして久々知くんとお絵かき対決をした。っていうか久々知くんの絵がヘタすぎて腹筋が爆発した。白澤とどっこいどっこいで死んだ。前々から「俺は絵心がないから」とか言ってたのは嘘じゃなかった。まさかこんなにだったとは………。ごめんね久々知くん南天はあなたの絵心ナメてた。

まぁその、説明した通りでございますよ。甘い展開なんざいっさいありゃぁしませんでしたぜ旦那。そりゃぁまぁkッキキキキキキkッキキスせがまれましたけどその後の南天発覚話でことは上手く流れていきました。っていうか、何故私が南天だということが解ったのかと聞いたところ、驚くべきことに久々知くんは仙蔵兄ちゃんの名前を出したのだった。かくかくしかじかこれこれうまうまと状況を全て説明してもらって、私の中の何かがキレた。あれほど私の正体は一人には軽々しく口にするんじゃないと言ったのに、仙蔵兄ちゃんは久々知くんが私の正体を知っているもんだと思ってバラしてしまったということなのだろう。絶対に許さない。仙蔵兄ちゃんが泣くまで殴るのやめない。

私はバッグからケータイを取り出し丁度昼休みだろうしと思って仙蔵兄ちゃんに電話をかけた。


『奈緒!具合でも悪いのか!?先ほど連絡も無に学校を休んでいると木下先生g


此処まで聞いたところで私は全力で息を吸い込み


「なんで久々知くんに私の正体バラしたの!!あれほど他人に私の正体ばらさないでいって言っておいたのに!!仙蔵兄ちゃんのせいで私の黒歴史まで久々知くんにバレることになっちゃったじゃん!!仙蔵兄ちゃんの馬鹿!意気地なし!死ね!カス!ゴミ!蛆虫!一人で立てないのを足のせいにして!足はちゃんと治ってるわ!潮江先輩に犯されちゃえ!私もう知らない!仙蔵兄ちゃんなんか知らない!!あ!あと久々知くんと付き合うことになったから!もう二度と仙蔵兄ちゃんのおうちに泊まりになんかいかないんだから!!仙蔵兄ちゃんなんか!!大嫌いだよぉおおお!!!」


叫び、震え、吠え、電話を投げ捨て、電池パックは宙を舞った。仙蔵兄ちゃんにはこれぐらい言っておかないと反省しないんだと伝えると、久々知くんは小さい声で「明日、生きてられるかな」とつぶやいた。

「手榴弾持ってくるかもしれないけど、そん時は逃げようぜ」
「久々知兵助はクールに去るぜ…」

私はそのまま、帰るまでケータイは放置。仙蔵兄ちゃんは久々知くんの電話番号を知らないから連絡は来ず。一命は取り留めた。


「っていうかまぁ、付き合うと思ってたよね正直。久々知くんとあんた、すげぇお似合いだったもん」

「ちょ///やめろよ///」
「斜線入れて喋んな気持ち悪ィな!!」

「てなわけで昨日から私と久々知くんラブラブだから。邪魔しないで」
「しねぇよクソ野郎死ねリア充爆破して四散しろ」

「ごめんね戸塚さん。男紹介しようか」
「あ、いえ、結構ですから、その憐みの目をどうかやめてください」

久々知くんのそれが中々心に響いたのか、真美は心臓を押さえてよろめいた。やめてあげてよ。

私が真美をよちちちとなだめいると、周りで私を見下していた女友達が私の肩をたたき「いい男捕まえたなお前」と涙目で言った。そういえば改めて、久々知くんはクラス内でも相当モテていたんだなぁと感じた。相手がお前なら潔く諦めるよと肩を叩いてきた女子の涙目を俺は一生忘れない。一生は言い過ぎかもしれない。3秒ぐらい。

と、いうわけで私と久々知くんはこれにてクラス公認の仲になってしまった。おそらくだけど廊下から感じた視線は他のクラスの連中から。廊下と教室を挟んだ窓から覗き込んでるやつに話しかけてるうちのクラスの奴もいたし、多分バラされてる私たちの仲。ちょっと今からラブラブだから邪魔しないで。


「おー!おはよう兵助!どうだ交際二日目のラブラブ登校は!」
「幸せすぎて筆箱忘れた」
「クソ野郎!俺のシャーペン貸してやるよ!」

「お"はま"ぐん!!!その節はお世話になりました!!」
「いやいやこちらこそ。上手くいったようでよかったよー!ちょっとやりすぎだったかなと心配したけど…」
「いえいえ尾浜くんのおかげで本音ぶっちゃけられたところもあると言いますか」

「そっか!ま!二人が幸せなら何よりだよ!」

教室に飛び込んできた素敵ドレッドは右腕で久々知くんの首を絞め、左手で私の肩を抱き寄せた。本当にフランクだ尾浜くんは。だけど尾浜くんのおかげで我々上手くいきましたから。久々知くんと揃って頭を下げると尾浜くんはテレくさそうにやめろやめろと手をひらひらさせた。私が尾浜くんを指差し「恋神様」と友人たちに言うと、女子と男子はこぞって尾浜くんに両手を打ち合わせて拝み始めた。これが世に言う尾浜教の始まりである。恋愛マスター恐るべし。

「おはよー!ねぇ勘右衛門からきいたよ!二人とも付き合い始めたんだって!?」
「やっと兵助に春がきたか。何年冬を過ごしてきたんだか…。よかったな兵助」
「おほー朝からここまでイチャつかれるとイラッとするもんがあるなぁ!!」

「本当、おかげさまでやっと俺にも春が来たって感じ」
「良かったねぇ兵助!僕も三郎もハチも応援しててよかったよぉ!」

「兵助と鶴谷さんが早退したって聞いて、雷蔵ずっと心配してたからな」
「げっ、本当鉢屋くん。不破くんごめんね心配かけて〜…」
「気にしない気にしない!いやーよかった!」



「おはようさっそくだけど八左ヱ門何も言わずに俺に一発殴られてくれないか」
「は!?!?!??ちょっと待ってなんで!?!??!」



続いて不破くん鉢屋くん竹谷くんが登校して教室に入ってきた。それもつかの間。不破くんと鉢屋くんと挨拶を交わしたその瞬間、久々知くんは流れ作業の様にスムーズな動きで竹谷くんの胸ぐらを掴んで黒板に叩きつけた。登校早々友人に真顔で胸ぐらを掴まれた竹谷くんは本気で状況が読み込めていないらしく、必死に抵抗し久々知くんの握り拳をおさめようとしていた。だけど私はそれを止める事ができなかった。それは、久々知くんの竹谷くんに対する怒りというものを全て聞いたからだ。事の始まりは席替えした時。私が久々知くんと竹谷くんは別のクラスなのに仲良いね!的な話をふったときだという。私はその時ホモ的な意味で聞いたはずなのだが、どうやら久々知くんにはそれが私が竹谷くんを好きだから探りを入れてるんじゃないかという方向でとらえていたらしい。最悪である。っていうかこれは完全に私の聞き方というか態度が悪かっただけなのに、久々知くんはこの瞬間竹谷くんを敵視するようになってしまったらしい。俺のせいでホモが一つ消えていた。すまん。そしてその後、バンド練習中に二人で視聴覚室に行ってしまったこと(荷物持つのを手伝っただけ)や、私が腐っていると発覚した後もあった色々。二人で帰っている所を目撃されていたり(ただのバイト帰りに偶然店に来た竹谷くんに送ってもらっただけ)、私と仙蔵兄ちゃんが一緒に帰っている所を竹谷くんに見られ、あろうことか竹谷くんはそれを久々知くんに二人は付き合ってるという最低最悪の誤報を流したこと。これだけは私も絶対許せない。などなど、度重なる竹谷くんの思わせぶりな行動、そして誤報のせいで、久々知くんの脳内、そして心はボロボロになっていたという。極めつけの私が竹谷くんと二人で話しているときの告白をにおわせるシーンの目撃。あれは完全に私が悪いはずなのに竹谷悪フィルターのかかった久々知くんに、私を責めるという選択肢など無いに等しい感じだった。

それをひっくるめて、竹谷くん、悪いけど、久々知くんに一発殴られてもらっていいでしょうか。

「骨は拾うよ竹谷くん」
「鶴谷も止めて!」

「奈緒もこういってるし、殴られてくれ」
「お、落ち着け兵助!俺は別に何も悪い事なんか…!」

「お前のせいで俺と奈緒の仲は遠ざかりに遠ざかっていった。お前を殴るのにこれ以上の理由がいるか?」
「いるいるいるいるいるいるいる!!ちょ、誰か助けて!!」

涙目で教室中を見回したが、誰もがにっこり笑ってそれを止めることなどしなかった。この教室に、竹谷くんの味方などいない。

「大人しく殴られろハチ」
「三郎の言うとおりだよ。此処で殴られなきゃお前一生兵助に呪われるよ」
「一発で済むなら安いもんだろ」

「誰か俺の味方ァアアアアアアアアア!!!」

「俺がエースでお前がティーチの設定な」
「殺しにかかってんじゃねぇか!!!」


竹谷くんの抵抗もむなしく、バナロ島の決戦よろしく殺し合いの空気になりはじめたその時、廊下を駆け抜ける一つの足音。バンッ!と勢いよく開いた扉には、京子たその姿があった。顔を真っ青にして教室に飛び込んできた彼女の姿を見て、久々知くんの拳は竹谷くんの鼻寸前でピタリと止まった。


「エマージェンシー!!喧嘩している場合ではないですぞ久々知殿!竹谷殿!」
「京子たそ今日もおさげがかわゆしすな。なにをそんなに慌てるか」

「おは奈緒!緊急事態緊急事態!この教室の入口という入口を封鎖せよ!!ててっててtっててt敵が攻め混んでくるぞ!!」


「敵!?CP9!?凶王軍!?」

「そんなのよりもっと厄介な連中!!はよ扉全部締めんかい!!」


京子がそう言い入口を指差すと、よく訓練されたクラスの連中は窓を閉め、前と後ろの扉を閉めた。さっきまで騒がしかった教室があっという間に静まり返り、教室は完全封鎖状態になった。京子たその言う敵、とは。

「…きょ、京子……誰が来るって…?」


「爆弾持った、た、た、た、た、立花風紀委員たち……!!」


その名を聞き、久々知くんの顔色は豆腐よりももっと真っ白になるほど血の気が引いていた。恐れていた存在がついに攻めこんでk






「開けろ」







「ヒェッ…!」

閉められたはずの扉の向こうから聞こえた前代未聞の低い声。この声のトーンはあれだ。私が小学生だった時にクラスの男子にいじめられて泣いて時に教室に乗り込んできたトーンと同じだ。私の記憶では、あの時男子は半殺しになったはず…。く、久々知くんが殺される……!!


「二年一組、扉を開けろと言っているのか聞こえんのか」


「あ、開けるな…!絶対開けるなよ…!kkっくくくう久々知くんがこ、殺される…!」

「小平太」
「おう!」

「アッー!聞いちゃいけない名前が聞こえた!全員退避ィ!!」

聞えてはいけない人間の名前が呼ばれたので扉を押さえる連中を遠ざけさせたのだが、時は既に遅く、錠がされていたはずの扉は教室内に倒れこんできた。横が駄目なら蹴り壊す。学園暴君は扉の開け方すらも知らないと言う事か。倒れこんできた教室の扉の下敷きになった男子達の命やいかに。そんな事もお構いなしに逆光を浴び悪の総統のようなオーラを放ちながら戸を踏みつけ教室の中に入ってきたのは、昨日私が電話越しに嫌い宣言をした、仙蔵兄ちゃんその人だった。手には予算会議の修羅場にしか使わないはずの手榴弾(入手ルート極秘)。クラスメイトはその姿を見てか、避難訓練よろしく机の下に身を隠した。っていうか、よく見ると竹刀を持つ潮江先輩や、手の骨を鳴らすこへ兄ちゃんに留兄ちゃん。無駄に笑顔な伊作兄ちゃんや超笑顔の長次さんがいた。まずい。集まっちゃいけない連中が廊下に集結してやがる…!!

久々知くんも竹谷くんを掴んでいた胸ぐらを離して怯えまくっている。その隙に逃げた竹谷くんも、仙蔵兄ちゃんが蹴り飛ばした教卓の直撃によりあの世に旅立ってしまった。

「久々知兵助」
「は、い」
「貴様が、貴様如きが奈緒と交際など。冗談だな?だが、4月1日まで程遠いぞ?ん?これは一体どういった冗談だ?」
「あ、いや、その、」
「貴様はなかなか優秀な人材だった。是非我が風紀委員にも招き入れたいと思っていたのだが、これは一体、どういう意味だ?」

蛇に睨まれた蛙。鷹の前の雀。猫の前の鼠。先ほどまで竹谷くんを威嚇していた勢いは何処へいったのか。だが無理もない。蛙だって蛇に睨まれれば誰だって泣きたくなる。それに虎の威を借る狐ではない。狐は狐だが、化け狐。逆らっては、いけない。

「奈緒、お前もお前だ。昨日の電話の内容を撤回しろ。さすればこの男を殺さんこともない」
「仙蔵兄ちゃんやめんか!久々知くん脅さないで!」
「目を覚ませ奈緒!私以上に良い男が何処にいる!」
「ここ!マダガスカル!」
「いい加減にしないと怒るぞ!」
「もう怒ってる怒ってる!っていうか自分良い男とか言ってる時点でもう無理!仙蔵兄ちゃんこそもういい加減に私離れして…………久々知くん?」

とんだシスコンが教室に入って来たもんだ。話の収拾がさらにつかなくなる。そう思っていたのだが、言い争う私と仙蔵に兄ちゃんの間に割って入ってきたのは、あろうことか久々知くん。意を決したような顔で間に入ってきた久々知くんは仙蔵兄ちゃんの前に立った。やだ王子様かっこいい。私のために争わないでって叫ぶ用意はできてるから安心して。

「た、立花先輩」
「なんだ」

一触即発。教室がハラハラドキドキしてる中、久々知が発した言葉は



「妹さんを僕にください!!!」

「なんだと貴様ァアアア!!!」


「くwwwくwwwちwwwwくwwwwんwwwwwww」



仙蔵兄ちゃんにとってただの着火剤そのものだった。窮鼠猫を噛むとはまさにこのこと。さっきまで怯えてた久々知くんはいずこ。勢いよくそう叫んだ。一方私は恥ずかしがるどころか予想外の台詞に腹を抱え、仙蔵兄ちゃんは怒り狂い久々知くんの胸ぐらを掴んで発狂した。あぁこれはますます収拾がつかない。馬鹿な兄貴をもつとこうも大変だと改めて気づかされた。

「誰が貴様なんぞに奈緒を渡すか!」
「交際を認めてくださいお兄さん!!」
「誰が貴様の兄さんだ!!いい加減にしろ殺すぞ久々知兵助!!」
「俺だってやるときはややややっややあyyっややりますよ!!」

これ以上此処に居ては、きっと取り返しのつかないところまで話はいってしまう。この状況から何とか脱出しようと私は腹を抱えながら久々知くんの腕を引っ張り教室を飛び出した。まだ幸いHRの鐘が鳴るには時間がある。走って走って階段を上りたどり着いたのは屋上手前の踊り場。この時間屋上への扉は解放されてない。追ってきた潮江先輩たちの足音も聞こえないし、どうやら無事に撒けたようだ。息をきらして座り込んでは、私と久々知くんは馬鹿みたいに笑いあった。

「さっきのwwww久々知くんwwww馬鹿じゃないのwwwwww」
「いやなんか口をついて出ちゃったwwwww」
「仙蔵兄ちゃんがwwwwwwはww般若にwwwwww」
「本気で殺されるかとwwwwおwもwっwたwwwww」

久々知くんは額に手を当て、私は腹を抱えて、ただひたすら笑っていた。馬鹿みたいだ。こんなんでほんとうに付き合っているのかと聞きたいぐらいには、馬鹿みたい。楽しい。ただただ、楽しい。

「でも、これで立花先輩たちにはちゃんと知ってもらえたでしょ?俺と奈緒が付き合ってるって事実」
「いやまぁそうだけどwwwww」
「敵が増えたけど…」
「大丈夫あれは私がなんとかするから」

言って聞くような連中じゃないと言うことはわかってるけど、言って聞かせねばいつまでたっても私と久々知くんの仲を認めてもらえないかもしれない。いやべつに両親でもないんだから認めてもらう必要なんてこれっぽっちもないんだろうけど。でも、まぁ、一応ね。


「クラス中にも知れてしまったわけだし、これからもっと楽しくなるよ」
「これから?」

「修学旅行とか?」
「!体育祭とか!」
「そうそう。そんで最後には…」

「卒業式!」

「笑顔で先輩たち見送ってやろうwwwwwwww」
「うはwwwwwくそ楽しみwwwwwwwww」

「それに、俺の誕生日はデートしてくれるんでしょ?」
「するする!そうだよどこ行きたい!?」

まだまだ学生生活は残ってる。そのうち、二人で楽しめるものもたくさんある。擦れ違いばっかしてたっぽいけど、まだまだ取り戻せるイベントは目白押しだ。多分久々知くんと一緒ならなんだって楽しい。もちろん真美も京子も、尾浜くんも鉢屋くんも不破くんも(竹谷くんも)、友達と一緒なら、なんだって楽しい!


「でもその前にさ」
「うん?」

「そろそろ俺の事名前で呼ぶの、頑張ってみない?」


そう言われ、私はゆっくり今朝を振り返ってみた。一回も久々知くんのこと名前で呼んでないかも。


「…兵助」
「はい」

「いや、やっぱテレるよね」
「まぁこれから一歩ずつね」


友達から恋人になって、名前の呼び方はそう簡単には直せないとはいいつつ、もう久々知くんは私の事を名前で呼ぶことになれているようだった。おそらく脳内でいつも奈緒って呼んでたからって言ってた時は思わず笑った。



「ほんじゃまぁ、教室帰ろ、兵助」

「そうだね奈緒。もう先輩たちもいないだろうし」



まぁ、これからこれから。一歩ずつ一歩ずつね。




「あ、奈緒」
「うん?」





「教室戻る前に、少女マンガ的な展開っぽいこの一連の流れのオチとして、ここでキスさせてください」

「くぁwせdfrtgふじこlp;@7!!!!!!!!!」





「お先真っ暗過ぎやしない!?」

「接吻はまだもう少し先にとっとこうや!ね!?」





心の準備ぐらいさせてくださいや!!!!!ね?!?ね!?!?

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