『今年のコミケはどうする?』
「俺あの日程じゃ用事と重なってるから初日しか行けないのだ」
『本当?僕も初日しか都合あわないんだー』
「そっか。じゃぁ今年は一日だけだな」
好きな絵師さんのサイトを見ながら、雷蔵とskypeをすること1時間半。
実は不破雷蔵も俺ほどではないが腐男子生活を充実させている。どれぐらいかというと俺と毎年コミケに行く程にはしてる。高校に入ってから二人暮しを始めた同居人の鉢屋三郎はそうでもないけど。
三郎はジャンプ系列を読むぐらい。雷蔵は完全にアニメも見るしゲームもするし、フィギュアも買えば同人も買う。R18物にはちょっと抵抗があるみたいだが、あと一歩踏み込めばもっと楽しいのに。まぁ無理強いはしないが。
勘ちゃんも八左ェ門も三郎と同じような感じだろう。
共通の濃い話題でここまで盛り上がれるのは雷蔵だけだ。
そもそも俺がここまで腐り始めたのは親戚の姉のせいである。親戚の姉はオタクをこじらせレイヤーとして活動をしている。そこから興味を持ったわけではないけど、俺を可愛がってくれていたその親戚の姉は俺に漫画を見せ同人誌というものを見せてきて、無理矢理こっちの世界に引き込んできたのだ。
ハマってしまった俺も悪いのだけど。
まさか俺がBLの本を自ら買うような人間になるとは、何年前かの俺では想像できなかっただろう。
「ハァ…」
いまや手遅れなほどに腐男子こじらせてこのザマだ。いや、元々アニメや漫画は好きだったし、楽しいからいいんだけど…
『何?まーた鶴谷さんについてのタメ息?』
諦めなよ、と完全に他人事のような言い方をしてくる雷蔵。
問題はここにある。
腐男子をこじらせてしまったせいで、三次元へ恋が上手くできない。この趣味がばれたらどうしようという不安で頭が一杯なのだ。
「そんな言い方しなくてもいいだろう雷蔵」
『ハハッ、だって兵助がこんなに三次元に夢中になることないしさ』
「お前なぁ…」
『叶わぬ恋だっていっただけじゃないか』
「それが余計な一言だっていってんだよ!」
ノートパソコンの両脇をダン!と思いっきり叩く。
解ってるよ。一般人である鶴谷さんにこんな気持ち抱いてたって叶わないっていうのは解ってるよ。何度か諦めようとは思ったさ。住む世界が全然違うんだーっ!って。
でもどうしてかいつも目が追ってしまうんだ。耳が声を拾ってしまうんだ。
自分でもわかるほどに溺れてしまっている。
喋ったことも無いのに…。
親友のこいつらしか知らない俺のこの素顔。
いつも学校では優秀を装ってるけどあんなの化けの皮だ。家でもきっちり勉強して本読んでなんてしてられない。してるわけがない。
家じゃ取り溜めてたアニメ見て支部あさってサイトめぐって即売会の情報を手に入れることに必死だ。
「ハァ………まじ鶴谷さんと一度でいいから話したい…」
『兵助さぁ、病気だね』
「なんとでも言ってくれ」
『例えばさぁ、明日一日鶴谷さんとお喋りできる権あげるから豆腐一ヶ月禁止ね、って言われたらどうするの』
「雷蔵は俺をどうしたいわけ?」
『そこで豆腐を即決しないあたり、そうとう鶴谷さんに夢中なんだねー』
「……あぁ、そうだよ大好きだよ」
俺は別にホモじゃない。ただBLが好きなだけ。普通に女の子は好きだ。いや、誰でもいいってわけじゃないけど。
『鶴谷さんが腐女子だったら最高だったのにね』
やめろよそんなありもしない話。悲しくなるだけだ。
「ハァアァァ……」
『兵助溜息つくならマイクから離れてくれない?ボー!ってなっちゃってうるさいんだけど』
「お前さぁ、ちょっとは恋してツラそうな親友に優しい声かけるとかないわけ?」
『自分から何もアクション起こさないようなやつにかける言葉なんてないよ』
「キツイなぁ…」
『安価でもすれば?』
「それ死ねって聞こえる」
アクションなんて起こせるわけ無いだろ。
別に俺はコミュ障を患ってるわけではない。普通にクラスのやつとも話すし、必要とあれば女子とも話せる。
だが鶴谷さんは別だ。話すきっかけもないし、話したところで話題も無い。つまりは全く絡んだことが無いのだ。それなのにこんな気持ち抱くなんて。もう俺はどうすればいいんだろ。
『そういえば、支部あさってたんだけど結構なうp主さんがもうコミケ参加決定してる情報出し始めてたよ』
「本当か?今年も楽しみだ」
『今年はなんとかコスプレブースまで行きたいねぇ』
「去年はいろいろあったし大変だったのだ」
『とりあえず独日もの10冊はゲットしたい』
「蒼紅とシズイザもの手に入れるまであの会場から離れない」
コミケの後は目当てのオンリーもある。
今年の夏は忙しいのだ。
あ、南天さん1000users入りしてる。
この人このジャンル本当に強いなぁ。
「あ!南天さんが蒼紅で参加するらしい!」
『えー!よかったじゃん!』
「生きてて良かった」
『大袈裟wwwwwww』