目が覚めて、再び、事の重大さを再確認した。

嘘だ。こんなこと絶対にあるわけがない。鶴谷さんが、鶴谷さんが俺の崇拝している同人作家だと?まじか?おいこれまじなのか?夢じゃないよな?どうなってんなこの世は。世界は狭いとはいえとこの狭さは異常だろ。イッツスモールワールド。四畳ぐらいしかねぇぞ。どうなってんだよ本当に。

いやでも、これは完全に、そうではないか。俺が見間違えるわけがない。この人の描き方とか、俺の持ってる本と見比べれば一目瞭然。くわえてスケブや、手帳に描かれた幸村の絵。南天さんのTwitterに上がってる、なんかそれらしいつぶやき。

学校の文化祭がどうのこうのとかいうのそういえばつぶやいてたなと過去を見てみると、完全にうちの学園の文化祭ポスターの下絵が上がっていることに(昨夜)気が付いた。文化祭の準備に追われていてしばらくTwitterから離れている間にこんなとんでもない物を見逃していたのか俺は。よくみるとこれ、雷蔵か三郎の部分の下絵だ。

そして決定づけたのは、あの立花先輩の台詞と、文化祭に来ていた南天さんに逢いに来たと言ってた、あの売り子さんたち。

そういえばあの売り子さん達は鶴谷さんがミスコンに出てた時、鶴谷さんの名を呼んで興奮するように写メを撮ってた。そうか、やっぱり鶴谷さんがお目当てだったのか。南天さんか。まじか。おい、まじか。

そして立花先輩のあの言葉で、全てつながった。

趣味で絵を描いてるとか言う鶴谷さん。以上に上手すぎる絵。文化祭のポスターのクオリティから、コスプレ経験ありの発言は、もう完全にイベントに参加しているということ。度重なる俺との趣味の合致。そしてその結果の、俺の手元にある薄い本。


ヤバイ。これガチじゃん。




「どうしよ……」




俺は、とんでもないことをした。まさか、神とたたえていた同人作家に、俺は、好きだと告白したのだ。知らずのうちに、俺は、この手元にある萌えの発信源に、逢っていたのか。


「やべぇ……」


興奮冷めやらず、結局昨日買った薄い本は、見ていないまま、青い袋にはいった状態で机の上に置いてある。ドラマCDにも手を付けられてない。
っていうかさっきから俺の独り言ヤバイ。誰も部屋にいないのにどうしよとかやべぇとか。キモいにも程がある。死ぬ。

とりあえず気合を入れるためにベッドから降りてリビングへ降りると、朝食がワンセットテーブルの上に置いてあった。いつもより起きるのが30分遅かったようで、もう誰も家にはいない。テレビをつけて飯を食っていると、ケータイが緑色にピカピカ光った。ぼーっとしたまま手を伸ばした。それは勘ちゃんからのLINEで、寝坊したから先に行ってていいとのこと。なんだ折角事の相談をしようと思ってたのに……。はぁぁああああ!!ありえないとは思うけど登校中に鶴谷さんに逢いませんように……!!!

緊張からかネクタイを結ぶ手がもだもだするが、もうそろそろ行かないと…。やばいなぁ、結局休みの間結局鶴谷さんから連絡一本もなかったし…どういう顔して今朝は逢えばいいんだろう…。っていうか、もし返事もらえなかったらどうしよう…。そういうのって催促するべきなんだろうか……。

「返事聞かせてほしいんですけど?」って言うべきか?

「もう一回告白させて?」とか言うべき?いや無理でしょ後者は無理でしょ。死ぬ。


成り行きに任せるか…と己をなんとか勇気づけ、家に鍵をかけ自転車に跨った。風をきりながら学校へ向かうが、いつもよりスピードが早い。落ち着け俺。どうせ鶴谷さんとは教室で嫌でも逢うんだから。落ち着け。

校門前に立つ先生は今日はいないようだった。服装検査もなくそのまま駐輪場へ。ガタンと止めた俺の自転車の横には鶴谷さんの出席番号のシールが貼られた自転車。あぁ、ヤバイ緊張してきた。もう鶴谷さん来てるとか早すぎ。どどっどどどっどddddどうしようお返事くださいって言うにしても教室じゃあれだから別の場所に移動するか屋上手前の踊り場とkでいいかなうえええええ死ぬ。


「おはよー兵助!」
「おはよう」
「あ、おはよう三郎、雷蔵」

「ねねね、結局休みの日に鶴谷さんから連絡来たの?」
「いや、来てない…」

「おっと、それは眠れぬ休みを過ごしただろうに。早く言って返事貰って来いよ」
「そうしたいのは山々だけど緊張して心臓爆発しそう」

「ははは、弱気だなぁ兵助は。大丈夫だって!どう見たって二人ともお似合いじゃないか!」
「そうそう、弱気に行ったら姫さんも自信なくしちゃうよ」

「……うん、そうだね。俺強気に行く!朝のうちに返事貰う!」


階段で双子に背を叩かれ、激励の言葉を貰った。そうだよね、俺が弱気じゃ、鶴谷さんから返事貰うなんて無理だよね!!

じゃぁねと別れて、俺と双子は別の教室の前にたどり着いた。廊下から教室を覗くと、教室は見事に文化祭の残骸がぐちゃぐちゃに散らばっていた。そうか、今日は午前中大掃除すんだった。すっかり忘れてた。軍手でも持って来ればよかったなぁ。


「おはようございます久々知くん」
「おはよう浅水さん。あ、ねぇ、鶴谷さん、って、もう来てる?」
「奈緒?奈緒なら先ほど、竹谷くんと何処かへいかれましたが?」
「……八左ヱ門と?」

「詳しいことは解りませぬが、何やら荷物を持ってあっちの方へ」


廊下から教室を見ていると横から浅水さんの声。そして告げられた今の鶴谷さんの居場所。

鶴谷さんが八左ヱ門と?二人で?……一体なんの話しているんだろう…。


「ごめんね、ありがとう」
「お気になさらず」


荷物を持ったまま、俺は浅水さんが指差す方向へ歩き出した。階段前にいた友人に八左ヱ門を知らないかと聞くと、階段上がってったよと上を指差した。



………階段?だって、ここ上がったら屋上だろ…?踊り場で話してるのか…?一体何の








「…あのさ、話さえぎるようで悪いんだけど、俺知ってんだ。鶴谷、兵助に告られたんだろ?」
「ファッ!?!?!??!?」



「!??!?!?」


階段曲がり角で、手すりにつかまり壁に背をつけて、聞こえて来た二人の会話に耳を傾けた。この声、鶴谷さんと八左ヱ門だ。

っていうか何余計な事話してんだ八左ヱ門んんんんんんんん!!!!テメェ余計な事言ったら承知しねえからな!!!!


くっそ…!盗み聞きしているようで心苦しいけど……!気になる好奇心は押さえられない……っ!



「ごめんな、俺らそれ全部知ってんだ。相談とかされてたからさ」
「あ、や、まぁ、そうですよねうん、友達なら知ってますよね」

「ごめんな。んでさ、まだ返事貰ってないことも聞いたんだけど……その話っていうのは、兵助に返事返す前に俺に言わなきゃいけない事?じゃなかったら、先にあいつに返事返してやってほしいんだけど……って、俺がいう事でもないと思うんだけど…」



ああああああああああああああああああああああ八左ヱ門イイヤツすぎて泣きそう!!!そうですお返事欲しいです!!ちょっと急ぎ気味で欲しいです!!!なんならこの場で乗り込んでいったろうかぐらいには欲しいんですよおおおおおお!!!













「いや!その、これだけは、久々知くんへお返事を返す前に!た、竹谷くんに伝えておきたかったことなので!!!」











………あ、なんか、


悪い方向に、事が進んでいる気がする。





駄目だ。


この先は、聞いちゃいけない気がする。












「あー、あのね、」
「うん」


聞いちゃいけない。


「……その、私、久々知くんにそう、言われて…」
「うん」



聞きたくない。



「それから、こんなこと、竹谷くんに言うの…さ、最低な女かもしれないけど…」
「うん…」




どうして俺に







「ず、ずっと前から、その…私、た、竹谷くんのこと……」
「う、ん」







言ってくれなかったんだろう。










最後まで聞くことが出来なくて、俺は一気に階段を駆け下りた。


なんだ、やっぱり鶴谷さんは、八左ヱ門の事が好きだったんじゃないか。バカみたいに一人で思い上がって、本当に俺、バカみたい。

少しでも、惚れてくれたかななんて思って、頭おかしかったんじゃねぇのかな。

そうだよ、最初から、鶴谷さんは八左ヱ門の事が好きかもしれないと思っていたじゃないか。

なにを今更傷ついてんだよ俺は。


一度は諦めた恋だったじゃないか。

一度は叶わないと思った恋だったじゃないか。



長かったけど、あぁやっぱり、初恋とは実らない物なのだなと、俺は実感した。






「いってぇ!!何処見て………兵助…?」

「勘ちゃん、ごめ、」
「……おいどうした?忘れ物か?…何かあったか?」


下を向いていたからか、誰かに衝突してしまった。ぶつかった相手の声は、恐らく、勘ちゃん。


「おい、どうしたんだよ……なんで泣いて、」
「勘ちゃん俺…っ、フラれちゃった……」


情けないなぁ、こんなんで涙流すなんて。俺も涙腺弱くなったもんだなぁ。


「ふら、え…?」

「言ってくれればいいのに…っ!八左ヱ門の事、好きだからって、…!それなら、そうとっ、俺に先に…!言って、くれればいいのにっ…!」
「……どういうことだよ…」

「……さっき、鶴谷さん、八左ヱ門に、……告ってて、」
「は!?」


「…っ、ごめん、俺、今日、もう帰るわ…!」


「お、おい兵助!!」


あぁ俺ってば最低だ。八左ヱ門を好きなのは鶴谷さんの気持ちなのに。俺の気持ちが伝わらなかったってだけで、今俺、鶴谷さんの悪口言いそうになってた。

好きな人の悪口言うなんて、俺は、なんて最低な人間なんだろう。


勘ちゃんの制止を振り切り、再び自転車に跨った。行きよりも早いスピードで自転車は風をきり、流れて落ちそうな涙を止めていてくれた。





家に帰って、鍵を閉めて、









「……〜〜っ!」









誰もいない家で、膝を抱え、涙を流した。

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