「で!?どうだったの!?」
「鶴谷に告ったんだろ!?」
「結果教えろ!早く!」
「ksk!!ksk!!」





「もちろん…いや…今回の告白で私は、いや、今回も……くっ……………何の成果も得られませんでしたぁぁ!!」





「「「「えぇーーー!?!??!??!」」」」


「私が無能なばかりにただいたずらに恋心を死なせ、鶴谷さんの真意を突き止めることが、できませんでしたぁぁ!!」」



メールで言われたとおり雷蔵と三郎の家に到着した。ドアを開けてすぐ中にぐいと引きこまれるように制服を掴まれた。伸びた手は八左ヱ門の手で、あれよあれよというまにリビングへ。ソファに腰を沈める勘ちゃんに、料理を運んでいた雷蔵。飲み物を注いでいた三郎。八左ヱ門に座れとテーブルの前に座らされ、期待した目で俺は四人からの一斉射撃(期待の目)を受けた。

そして報告する、ちょっと前の出来事の話。俺は告白をしたのだが、返事をもらえなかったのだと。


「考えさせてほしい……だと…」
「確かに、鶴谷さんはそう言ったのだ…」

「えぇ、僕兵助と奈緒ちゃんは良いカップルだと思ったんだけど…」
「正直、私も雷蔵と同じく鶴谷さんは兵助に気があると思ってたよ」

「中々鶴谷も酷な決断すんなぁ…」


さっきまで恐らく、俺の話で盛り上がっていたのだろう。俺がこの家に入る直前まで見えていたみんなの笑顔が、あっという間に消えた。最初は進撃ごっこをはじめただけなのだと四人は思ってたであろう。だがその後ぽつりぽつりと話し始める俺に、四人の笑顔は徐々に消えていった。段々俺の告白が良い方向へ行っていないんだということを感じ始めた四人は、可哀相な者を見る目で俺を見つめ、雷蔵の肩ポンに心が折れそうになった。はい。もう、フラれたも当然でございますとも…。


「でもさぁ、まだ諦めるのは早いよね?」
「いやぁ…」
「兵助はもうフラれた気でいるの?」

「だってこんな……………あ、そうだ…」


雷蔵に手渡された豆乳を一口飲んで、俺はコップをテーブルに置いて、再度四人に向き直った。


「タケククってどう意味だか解る?」


「タケクク?」
「そう、タケクク」
「なにそれ?」
「勘ちゃんも知らない?いや俺も知らないんだけど…」

「鶴谷が言ってたのか?」
「そう。好きですって言ったら、「タケククは?」って言われた」

「えー?なんだろうね?三郎は?」
「いやぁ、…なんだ?どういう意味だ?」


それは、俺がさっきからずっと考えていたのだ。鶴谷さんが最後に残した「タケクク」という単語について意味が全く解らなかったのだ。鶴谷さんは俺に何を求めていたんだろう。タケククってなんだ?本当になんだ?


「今度聞いてみれば?あれどういう意味だったの?って」
「えぇ、聞けるかな」
「どうせお前隣の席なんだから嫌でも話すだろ」
「まぁ…」
「それがもし何か誤解されている何かだったら解かないとな。まぁ全く意味わかんねぇけど」


勘ちゃんはジンジャエールが入ってるグラスの中の氷をカランと鳴らした。

そうだ、すっかり忘れてた。学校、あるじゃん。隣の席じゃん鶴谷さん。嫌でも話すことになるじゃん。そうか、明後日には絶対的に会話することになるのか。明後日、返事聞けるかな。まぁもう俺の頭の中じゃ完全にフラれてる心境に等しいから今更何言われても傷つかない。もう、ドンと来いって感じ。伝えることは伝えたし。ね、うん。もういいよ。なんでも来いよ。


「だけどさぁ、兵助も良く好きって伝えたよねぇ」
「ん?」

「僕だったら絶対言えないよ。文化祭実行委員って立場であんなに仲良くなれたから、もうこの関係崩したくないよーってずっと引きずると思う。で、結局自然消滅しちゃうんだと思う。あくまで僕はね。それに前までの兵助だったら見てるだけで十分みたいな感じだったし、前の兵助からじゃ考えられないよ」

「……」


確かに、前までの俺だったら鶴谷さんは見ているだけで十分みたいなところあった。話す事すらできなかったし。きっかけはなんだったっけな。あぁ、ストラップを拾ってもらったところからだ。夏休み入る直前の日に、俺は長い歳月片想いしていたあの子と初めて喋った。一言二言だったけど、それでも俺はそれだけで幸せな気分になってた。それがどうだ。今じゃ文化祭実行委員という立場で二人でいろいろ頑張ってた。更には文化祭では二人で店を回ったし、鶴谷さんは俺らをモデルにポスターを書いてくれた。バンドも応援してくれたし、俺は鶴谷さんのためにミスコンで動いた。前だったら、こんなでしゃばったマネできなかった。……少しは、成長してんだろうなぁ…。

成長してても、このザマじゃどうしようもねぇんだけど…。


「言いてぇことは言ったんだろ!だったらもうクヨクヨすんなよ!」
「八左ヱ門の言うとおりだ。もう後はことが良い方向へ向かうことを期待すんだな」

「良し!飲むか!今日は文化祭の打ち上げだ!雷蔵酒は!?」
「もちろんあるよー!!」


未成年の家の冷蔵庫から酒が出てくるっていうのがもうどうかと思うけど、まぁこいつらよく飲むしな。仕方ないよな。


「………よし!!!飲む!!!!雷蔵酒くれ!!!!」

「よしきた!!兵助玉砕パーティーしよう!」
「おい」

ぶしゅりと鳴らした缶ビール。俺は乾杯もせずに、一気にそれを飲み干した。






























忘れてた。俺酒苦手なんだった。



ズキンズキンと痛む頭。気付いたら窓の外はもう太陽がほぼ真上に上がっているレベルには明るかった。時計はもう10時。やべぇ。寝すぎた。それからこの胃もたれ具合、多分飲みすぎた。あと酒癖も出てる。勘ちゃんに抱き着いてるってことは、俺相当酔っぱらったんだろうなぁ。………頭痛ェ…。

「雷蔵、雷蔵、起きてくれ」

そういえば今日俺店に予約してたやつ取りに行かなきゃいけないんだった。10時とかもう開店してんじゃん。


「んー………あ、兵助おはよう」
「すまん、俺昨日暴れた?」
「あー、おはよう…なんだ、覚えてないの……」
「いつも通り全部飛んでる」

「勘ちゃんとキスしそうになって三郎が手刀で止めた」
「アッー」


横で倒れていた雷蔵をゆすり起こすと、雷蔵は涎をふき取りながらゆっくりと目覚めた。勝手にキッチンに入り冷蔵庫を開け、俺は水を拝借した。勝手知ったる他人の家ってな。

「兵助今日用事はー?」
「店行かないと。ドラマCD取りに行ってくる。あと薄い本」
「あぁ南天さんのだっけぇ……今度僕にも貸してねぇ…」

「…雷蔵、眠いなら寝ていいよ。俺勝手に帰るから」

「……ごめん、寝るわ…」


雷蔵はそういうと、バタンと倒れるように元の体勢に戻ってさっそくいびきをかきはじめた。あのベビーフェイスからは考えられないレベルの雄々しいいびきだ。ぐぇっと聞こえた小さい三郎の声。恐らく三郎は倒れた雷蔵の下敷きとなったのだろう。まぁ別に、助けないけど。

とりあえず水を飲み胃を落ち着かせ、俺は制服に着替えた。昨日のままなので焼肉臭い。ぐぇ。こりゃ帰ったらファブリーズだな。

じゃぁ帰るねと小さくつぶやいては見たが、皆一切反応することはなく、部屋の中にはいびきだけが響いていた。うるせぇ。LINEで一斉に先に帰るねと送り、俺は雷蔵三郎城を後にした。一旦家に帰って着替えよう。制服はちょっと嫌だな。

自転車に跨り、あの十字路にたどり着いて、俺は昨日の出来事を思い出し思わず電柱に突っ込むところだった。あぶねぇ。真顔で電柱に突っ込む休日の制服姿の男子生徒とか完全に不審者じゃねぇか。俺通報される。

家に帰り一度シャワーを浴びてから私服に着替えた。着替えながら、俺は明日、鶴谷さんにどんな顔して逢えばいいのだろうということを考えてた。

まだ返事は貰ってない。だけど、普通に接していいのだろうか。「返事聞きたいんだけど」とか、催促していいのだろうか…。むしろ、鶴谷さん、なかったことにしてきたらどうしよう。さらっと普通に接してきたら、俺多分どうしていいか解んないで打ち上げバーナビー状態になるかもしれない。うわぁぁぁあああああとか言って飛び出すかもしれない。言いたいことは言ったから後悔はないはずなのに、返事を貰えていないと言うだけでこんなにも落ち着かないもんなのか。あと「タケクク」って言葉の意味も聞いてないし…。あれ本当にどういう意味なんだろう。


母さんがテーブルに置いておいてくれた朝食をゆっくりと食いながら、タケククでぐぐって見たけど、此れと言って出てくるものはなにもなかった。どういう意味だったんだろうなぁ。


そもそも、鶴谷さんは俺の事をどういう目で見ていてくれただろうか。恋愛対象じゃないとしても、少なくても「友人」として俺の事を見ていてくれただろうか…。仲良くなった気がするとかお茶したときに調子に乗って俺そんな発言してたけど、鶴谷さん、あれ迷惑とか思ってたらどうしよう……。



………あれ?…俺、ちょっと調子に乗りすぎた………………?



「すいません、予約してたんですけど、」
「はーい、お伺いいたします」


え?俺、ちょっと調子に乗りすぎたのか…?鶴谷さんの気持ち、全然理解できてなかった……!?!??!???!?


「お待たせいたしました、こちらでお間違いないですか?」
「はい、ありがとうございます」


少しは俺に気を持ってくれてるだろうかとか…身の程知らずすぎたかな……。






……―っ!おい、おい!」

「っ!あれ、立花先輩?」
「やはり久々知じゃないか。ほう、私服で逢うのは初めてだな」

「こんにちは。お出かけですか?」
「いや、私は文化祭のポスター回収だ」
「あぁ、お疲れ様です」

駅前の店に入るため、駅前のコンビニ前に自転車を止めておいた。帰るため駐輪場へ向かったのだが、その道中、肩を掴まれた。振り返るとそこには、おしゃれな格好をされた学園の先輩が。立花風紀委員長だ。休日に逢うのは初めてだ。……おっしゃれだなぁ…。

あっちに文次郎がいると親指で背後をクイと指差す立花先輩。先輩の向こうにおられたのは壁に貼られていたポスターを特殊な何かで剥がそうとしている潮江先輩のお姿。あぁ、パシられてんのか。


「なんだ暗い顔をしよって。こっちまで陰気が移りそうだ。もっとシャキっとせんか」
「いやぁ、ちょっと色々ありまして」

「まるで私の可愛い奈緒のようだ」
「……鶴谷、さん?」



「奈緒を困らせる下衆な男がいたらしい。誰だかは知らんが見つけた瞬間殺してやるがな」




俺でーーーーーーーーーーす!!!


それ恐らく俺でーーーーーーーーーーーーーーーす!!!!!

鶴谷さんを昨晩から困らせているのは俺なんですよせんぱーーーーーーーーーーーーーーーーーいぃいいい!!!!!




「…鶴谷さん、モテるんスね」

「馬鹿な男だ。奈緒には『パソコンのデータは全て消して同人誌からグッズまで全て焼却して無き物にするよだから付き合ってくれ』と告白するのが一番効果的なのだと知らぬ男だ。奈緒のことを何も解っていないという証拠だ。良い結果には動かんさ」




先に言ってくださいよそういうのーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!

先にいってくだされば恐らく今日から俺と鶴谷さん恋人関係になれてたかもしれないんですよーーーーーーーーーーー!!!!!!!!

そういうのなんで先に教えてくれなかったんですかーーーーーーーーーー!!!!!!!




「そう、ですか……」

「ところで、ポスターいるか?これ、お前らがモデルなのだろう?」
「あ、貰ってもいいですか!?」

「かまわん。学園の新品はさっき伊作たちが欲しいと言って、恐らく数が少なくなるだろう。これでよければ持って行け。残念ながらこれらはもう捨てるしかないのでな」


なんなら人数分持って行けと、立花先輩は剥がしておいたポスターの束を俺に寄越した。あいつらと俺のとで6枚でいいか。あいつらも欲しいって言ってたし、とっておいてやろう。うわぁ、久々知くんやっさしー。

ありがとうございますと手を伸ばしポスターを受け取り、俺はくるくると慣れた手つきでポスターを丸めていった。


「………?」

「?なんですか?」
「すまん、ちょっといいか?」
「は……え!?ちょ、ちょっと!!」


立花先輩は、ポスターを丸めている俺の腕にぶら下がっている青い袋を指差した。

なんだと思っているのもつかの間、立花先輩はあろうことか、俺の持っているビニール袋を奪い取り中身を覗き込んだあああああああああああああああああああそれホモ本なんですけどやめてくださいなんで立花先輩そんなのに興味持ってるんですか興味ないでしょうホモとか最悪だこんな秘密を立花先輩みたいな人にバレるだなんて最悪だなんてこったこれ持ったまま立花先輩と立ち話してしまった俺死ね立花氏と立ち話ってかやかましいわ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
























「………なんだ久々知、貴様奈緒のことを知っていたのか」

















「……はい?」




「あいつの正体を知っているものはそう多くないとは聞いていいたが、お前もその一人だったか。それは知らなかった。お前中々奈緒と中がいいんだな」
「……え?」

「仲良くしてやってくれ。まぁ、奈緒のその正体を知って逃げていくものは私の権限で退学まで追い込むがな」
「…ちょ、ちょっと待ってください、なんの話で」





なんだ?なんの話だ?鶴谷さんの正体?

袋の中、何が入ってた?ドラマCDと、薄い本だけだぞ?






鶴谷さんの、正体?







「おい仙蔵、あっち終わったぞ」
「あぁご苦労。なら此処は終わりだな。次の場所へ行こう」
「おう久々知いたのか…。お前、俺はあの時の勝負は忘れんぞ!!」
「あ、え、あの、」

「行くぞ文次郎。じゃぁな久々知」



コツコツと足を音を鳴らして、立花先輩と潮江先輩は、駅構内から消えて行った。次の場所へポスターをはがしに行かれたのか。





………いや、ちょっとまて。立花先輩は今、なんとおっしゃった?


鶴谷さんの正体?鶴谷さんの正体ってなんのことだ?







俺は再び、腕に引っかかってるビニール袋を覗き込んだ。中に入っているのはドラマCDと、ホモ本だけ。


俺の好きな絵師さんの、薄い本。








……薄い、本。









俺はゆっくり、手に握られていた、立花先輩から頂いたポスターを開いた。



鶴谷さんが描いた、俺たちの絵。






そして再び、薄い本を見た。


ポスターを見る。薄い本を見る。



絵柄が。















…………絵柄が……。



















鶴谷さん、と、俺は、恐ろしく、趣味があう……。

たまに、お絵かきするとか、言ってた……。













「…!?!???!!?」














俺は、今、ボルトもびっくりするレベルの速度で自転車をこいでいる。向かった先は家。

飛び込むように家に入り、ポスターを壁に貼り付け、本棚から、南天さんの薄い本を取り出して並べた。






極めつけに、夏コミで書いてもらった、スケブも。












そういえばあの女の子たちは、

南天さんに逢いに来たと言っていた。


































「え、」

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