「ザケルガ!!!…………お?」


ブラゴと戦う夢から目覚めると、体は金縛りにあったように全く動かなかった。なんで私がブラゴとタイマンはってたんだろ。

視界に入るのはゴミのように横たわり雄々しくいびきをかく男が五人。はて、一人たりないぞと視点だけを動かしてみると、真後ろから聞こえる静かな寝息。これはあれだな。恐らく私は、真後ろで寝ている仙蔵兄ちゃんに抱きしめられているという形なのだな。

テーブルの上に散らかるお菓子と料理。飲み残されたジュースとお酒。まぁまぁ風紀委員が酒なんかのんで、バレたら停学くらうぞ。

いやいや、大丈夫仙蔵兄ちゃん、可愛い妹は黙っててあげるよ。



カシャッ



寝顔一枚でな。


「売るなら一枚500円だ」
「起きてる…!」

「いや、その音で起きた。おはよう奈緒」
「おはようなぎ。クーラーつけっぱなしだけどいいの?」
「かまわん。消したら消したで小平太が暑がるからな」

ぐいと背伸びをしてる立花仙蔵のあくび姿なんて学園で見られるわけがない。これは親戚の特権だ。デュフフ。黙ってればイケメンなんだけどなぁ。なんで黙らないかなぁ。
かなり低温になっている部屋の中。仙蔵兄ちゃんはどっちかというと寒がりなので、こんな時期なのに毛布をかぶっていた。ぶっちゃけちょっと暑いけど仙蔵兄ちゃん自信が低体温だからプラマイゼロ。まぁそれゆえに必然的にくっついていたのだろう。寝ていた自分死ね。セクハラされ放題じゃねぇか。腰に回る手を力いっぱいパシッ!と叩くと一瞬目を瞑る仙蔵兄ちゃんの眉間に皺が寄った。ザマミロくそ兄貴めイケメンなんだよ自重しろ。

「なにこれこの部屋汚い。誰も起きないの?」
「起こさなければ起きんさ。バカどもが、授業中もこんな調子だ」
「だろうね。私午後から有紀たちとお茶だから出かけるんだけど、」
「何、なら朝食を出そう。ちょっと待ってろ」
「あ、いいよそれぐらい、私作るから」

「なんだとそれではまるで夫婦みたいではないか」
「寝言は寝て言え」

バサリと毛布を蹴りあげベッドから脱出。昨夜仙蔵兄ちゃんに借りたサイズの大きいスウェットの裾を引きずりそうになりながら、私は部屋を出て階段を降りた。親戚の家だし、期末期間中とかは仙蔵兄ちゃんちに泊まり込みで勉強を教えてもらっていたりするから、勝手知ったる他人の家。仙蔵兄ちゃんはおばさん似で、かなり几帳面な人である。足りぬ調味料などはない。欲しいものは必ずそろってる。すばらしい。


「よし、パンにしよ。コーヒーは?」
「淹れてくれ」
「うぃむっしゅ」


パンをトースターに入れて目玉焼きを焼いて、サラダも作った。その間新聞を読む仙蔵兄ちゃんを激写。タイトルは「憧れの風紀委員長〜ドキッ☆休日の朝〜」な。うはwwwwwwこれ売れるわwwwwwwwwwwwwwwww


「500円だ」
「高ェよ!!まぁ妥当だけど!!」

売り上げは俺のポケットマネーにしてやるわこの野郎。俺のケータイの高画質ナメんな。

トースターに卵を乗せ、サラダも持ってほいとカウンター越しに皿を渡すと仙蔵兄ちゃんは新聞を畳んで皿を受け取った。とりあえず他の兄ちゃんたちの分の卵焼きは今フライパンの中だ。起きたら勝手に食え。
私はオレンジジュースを失敬してテーブルについて、いただきますと手を合わせた。俺は果汁100%しか飲まない。さすが立花家。良く解ってらっしゃる。

「奈緒、」
「寝言は寝て言え」

またまるで夫婦のようだとか言おうとしたのだろう。チッと舌打ちした仙蔵兄ちゃんは学園では見れないほどのだらしない格好だ。まさかのTシャツにジャージて。っていうかwwwwww今気付いたけどwwwwwwwwww何着てんのそれwwwwwwwwwwwwwwwwwそれwwwwwwじんたんのwwww白ネギTシャツwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwおwwれwwのwwwやwwwwwwwwwwwwwwwww

正面に座ってからまさかの直下型爆弾。堪えきれずにブフォォオwwwwとかなっちゃった俺乙。

すると、ポケットに入れておいたケータイからメールの通知を知らせる音が鳴った。ほぼLINEで連絡してくるのに未だにガラケーでメールしてくるのは理沙一択。オレンジジュースを飲みながらケータイを開くと、予想通り送り主は理沙からで、『今日ちょっと遅れるンゴ』とふざけたメールが来たので『秀吉様に許可とれよハゲ』と速攻で返事した。カカカカと画面をタッチしてメールを送信。

送信完了画面が出て、すぐ受信ボックスへ画面が切り替わる。


其処に表示されるのは、過去のメールの情報で、

理沙の真下にあったのは差出人が『久々知くん』のメール。











……あ、










「アァーーッッ!!!!!!!!♂♂♂」

「ゴフッ!!なんだ!?どうした!?」
「kっくくくkっくくくkk」
「は!?」
「忘れてた!!!!」
「何をだ!?!??」


やべぇやべぇやべぇやべぇやべぇやべぇやべぇやべぇやべぇやべぇやべぇやべぇやべぇやべぇやべぇやべぇやべぇやべぇやべぇやべぇやべぇやべぇやべぇやべぇやべぇやべぇやべぇやべぇやべぇやべぇやべぇやべぇやべぇやべぇやべぇやべぇやべぇやべぇやべぇやべぇやべぇやべぇやべぇやべぇ!!!!!!すぅううううううううっかり忘れてた!!!!久々知くんとのあの事すっかり忘れてた!!!

私!!昨日!!久々知くんに!!kklここっこここっこkっこっこおっこここおkk告白をされ申したのだったでござる!!!!!!!!!


「あんぎゃぁぁああああああああああ!!!」
「奈緒ーーーッッ!!!」


思いっきり椅子の背もたれに体重をかけるとバッターン!と勢いよく体は床へと叩きつけられた。私のアッー!という叫び声に仙蔵兄ちゃんは心底びっくりしたのかコーヒーをゴフッと吐き出してしまい、私の(っていうか仙蔵兄ちゃんの)スウェットはコーヒーまみれになった。仙蔵兄ちゃんが吐き出したコーヒー(ブラック)がかかったスウェット!!はい1万円から落札開始!!!!

いらぬぇえええ!!


「なんだ!どうした奈緒!」

「やべぇ……どうしよう仙蔵兄ちゃん…」
「なんだ、本当になにがあったんだ」
「……ちょっと、相談があります…」


一度精神を落ち着かせ冷静になり、むくりと立ち上がって椅子を戻した。これほど騒いでも全く起きないその他兄ちゃんたちの爆睡度って一体。

椅子に座ってとりあえずオレンジジュースを飲んで一息ついた。仙蔵兄ちゃんは私の突然の暴走に驚いてはいたが、落ち着いてゆっくり話してみろと私を真剣に見つめた。……相談する相手間違えたかもしれないけれど、真美たちに話したところで絶対タメになるような返答くれないだろうし、むしろあいつら「爆発しろ」とか言いそうで嫌でござる。お付き合いした女の子はいないとはいってたけど、恋愛経験は仙蔵兄ちゃんの方が多いに決まってるよね。よし、相談しよう。

相談せねば、多分先へは進めないと思う。


「……じ、実はですね」
「あぁ」

「………あの……いやその…仙蔵兄ちゃんはさ」
「ん?」



「…今まで、普通の友人だと思っていた人に、こ、ここkっこk告白されたら、どうする、の………」



そういうと、仙蔵兄ちゃんはコーヒーを飲む手を止めた。いつもなら「相手は誰だ殺す」とか言うのだけれど、さすがに私が真剣に相談しているのが珍しいからか、暴れず、そうだなぁと考え始めてくれた。


「お前は、異性から告白されたんだな?」
「……は、はい」

「先に言っておくが、誰であろうと私はお前の交際を認めはしない」
「ウィッス」

あ、ここは通常営業か。


「……まぁ真剣に返していいのなら、そのような相談をすること自体が相手に失礼であると考えた方がいい」
「どうして?」


「私が「付き合え」と言ったら、お前はそいつと付き合うのか?」
「いや、それは」

「逆に、「絶対に付き合うな」といえば、お前はそいつをフるわけではないのだろう?」
「…はい」

「愛の告白というのは本気でお前を好きでなければすることなど出来ない。それがお前は、自分の意志で返事をするのではなく、私にどうするべきかと相談した。お前と向き合ったそいつの真剣な告白に、他人を介入するなど……言語道断だ」
「…」


カチャリと置かれたコーヒーカップの中身は空になっていて、おかわりと入れようと席を立つと、仙蔵兄ちゃんは空のカップを突き出した。


「なんと告白されたのか、聞いていいか?」
「…ずっと前から……と…」

「ふむ。そのずっと前がどれほどの期間かは知らんが、そいつは少なくともお前を好いていた時期が長かったのだろう。その間、そいつはずっとお前をみていた。お前が忘れられなかった日もあっただろう。お前だけを想っていた時期もあったはずだ」


ふぇぇ。そんなこと言われると本気で恥ずかしくなる。


「そこに、関係のない私が入ってみろ。それこそ、相手に失礼だと思わないか?」
「……そ、う………ですよね……」


「お前が、例えば、…そうだな、文次郎を幼いころからずっと好きだったとしよう」
「うん」

「誰にも相談できず、ずっとその想いは心に秘めていた。そしてもう我慢が出来んと、ついに文次郎に好きだと告白をした」
「うん」

「だが文次郎は、その告白の返事を私に相談してきた。今まで妹だと思っていたのに、どう返事をすればいいんだろう、と」
「……」

「相談された私が文次郎に、「奈緒を幸せにしてやれ」と言ったから文次郎と付き合えたとする道もあるだろう。だが、私が「妹のままでいさせろ」と言ったから交際できなかったという道もあるやもしれんのだ。お前はたった一人でずっと文次郎を想い続けていたのに、私という関係のない存在に愛の告白の邪魔をされたのだ。そう考えてみろ」
「……嫌だ」

「そうだろう。それはおそらく、お前に想いを告げたそいつも同じ気持ちだろう。大事なのは他人に相談して心を決めるのではなく、今のお前の気持ちだ」
「…」


「お前がそいつを好いていたのならいい返事を。嫌いなやつなら残念だがと言えばいいだけだ。簡単な事じゃないか。私に相談すべきことではない」


ズズとコーヒーを啜った仙蔵兄ちゃんは珍しく真面目な顔をしていて、私はそれを正論ですねと心で受け止めた。

さすがに「久々知くんはホモだと思っていたから返事をどう返せばいいのか解んないんですよテヘペロォ」とは相談できないけれど、仙蔵兄ちゃんの意見を聞いて思ったのは、やはり私の気持ちを正直に話すべきだということだ。まぁ正直、私も邪な考えから久々知くんに興味を持ち始めたとはいえ、文化祭のあの一件以来、「恋愛対象」として久々知くんを見てしまった時があったのは事実だ。王子様のようであり漫画の登場人物のようであると感じてしまった私の心は見事にあの時久々知くんに持って行かれたのだから。好きですよ。久々知くんのこと。

ただあの時素直に「俺もwww」と返事を返せなかったのは、恋愛対象として見ていたとはいえそれ以前に「ホモとカミングアウトされる」と勝手に心の中で思っていたからだ。そう思っていたのに久々知くんが私に言ったのは、「私が好き」という衝撃の事実。脳内処理が追い付けずに、私はとっさに逃げてきてしまった。

…あぁ、これ今思うとかなり失礼な行動をとってしまったのではないか。久々知くんの告白をあの場で返さなかっただなんて、久々知くんどんな思いで昨晩過ごしたんだろ。「死ねよ鶴谷」とか思ってたらどうしようううううわあああああああああああああああああ。


「『奈緒にもしものことがあったらパソコンのデータは全て消して同人誌からグッズまで全て焼却して無き物にするよだから付き合ってくれ』と言われたらお前はコンマ1秒で返事を返していたんだろうがな」
「なにそれクッッッッッソイケメン!!誰だよそんな腐女子の味方してくれるようなイケメン男子は!!!」


「…私だ……」
「お前だったのか」


「ヒェェェwwww長次兄ちゃんなら言いそうwwwwwwww」

「…おはよう……」

「おはよう長次、朝飯はどうする?」
「…頂く……」


「はやいね長次兄ちゃん。まだ寝てていいのに。仙蔵兄ちゃんたち今日なんかあるの?」
「家を打ち上げの場として提供する代わりに、今日は各地に張ったポスターの回収に向かわせる事になっている」

「えっ、私も行く」
「予定があるのだろう?お前はそっちへ行っていい。気にするんじゃない。喜八郎たちも来るしな」
「うーん、じゃぁそうさせてもらうね。てかポスター記念に一枚とっといて」
「案ずるな。未使用の新品が風紀委員室に残っている。後日取りに来い」
「おー、ありがとー」


食パンを焼き目玉焼きを乗せ長次兄ちゃんに渡すと、いただきますと手を合わせて皿を受け取った。次いで伊作兄ちゃんが降りてきて、小平太兄ちゃんを担いで潮江先輩が降りてきて、留兄ちゃんがなぜか半裸で降りてきた。この野郎ミスター一位が調子に乗りやがって。いいボクサー体系でいやがって。触らせろ。

「仙蔵兄ちゃん」
「なんだ」
「着替えに下着まで入っている件について」

「期待を裏切るようで悪いが、下着を選んだのは伊作だ」
「可愛いでしょー!絶対奈緒に似合うと思ったんだよねー!どうこのヒラヒラ!可愛いでしょ!」

「期待とかしてねぇし通報した」


仙蔵兄ちゃんが私が泊まりに来た時用にと買っておいたのだと言った洋服一式。さすがというかキモイというか、サイズはぴったりだし好みは私にピッタリだし。うわぁいこれ欲しかったロングスカートだ此処まで把握してるとかまじ通報するべきかもしれない怖い怖い。

バッグに入れていた申し訳程度のメイク道具での顔面工事(を、仙蔵兄ちゃんにやられ)終わらせ、とりあえずオタブスをなんとか隠すことは出来た。仙蔵兄ちゃんに化粧されると好評なのが毎度の事腹立つ。仙蔵兄ちゃんて何者なの。なんなのこいつ。ただのイケメンで終わらせられないの。神様はどうしてこんなの作ったの。

二日酔いでグロッキーになってるこへ兄ちゃんを踏み潰して玄関へ向かい、私は立花家を後にした。チャリに跨りあの路地に差し掛かったところで昨日のゲロ甘いシーンが脳内で再び再生されて自転車から落下しそうになった。危ない。まじ危ない。


道中、私は明日どんな顔をして久々知くんに逢えばいいのだろうという事だけを考えていた。移動にはいつも音楽を聞いているのだが、今はその音楽すら頭に入って来やしない。
だって、明日は月曜。学校。久々知くんは隣の席だし、嫌でも挨拶ぐらいするだろうに。っていうか、告白の返事もしてないのに「おはようwww」とかふざけていいのだろうか…。なんなら今から有紀たちとのお茶を断って久々知くんへ返事を返しに行った方がいいのだろうか……。

っていうか、返事を返すうんぬんより先に、恐らく私は久々知くんと竹谷くんに謝った方がいいのだと思う。「ホモだと思ってましたごめんなさい」と。

私もその、そのですね、ほら、久々知くんと同じっききっきkっきっき気持ちであります。その、あれですよ、久々知くんに対して、sすすksskskっすっすsきsskし好きというお気持ちでございますので、その、ほら、まだ、まだ久々知くんが、その、私の事を慕ってくださっておるのであらば、お、お、お、お、お、おつつうtっつ付き合いをさせていただくことになるわけでございますし、その、そんな彼をホモだと思っていただなんて…………ねぇ…。いくら私の中で勝手に盛り上がっていたこととはいえ……あ、謝らせていただければと、思う次第でございますし……。


うん、そうしよ。明日久々知くんに謝ろ。そんでもってそれでも私でよければとお返事しよ。

あと竹谷くんには久々知くんへの誕プレの本受け渡す時に謝ろ。うん、そうしよそうしよ。よし、決定。千本桜でも聞kうわこれ勘ちゃんバンドで歌ってたやつじゃん久々知くんのピアノあああああああああああああああああああああああああああああああ。





「あら、奈緒遅かったじゃない」
「先に始めてるでござる」


「天呼ぶ、地呼ぶ、海が呼ぶ……。ホモを増やせと我を呼ぶ!」


いつものカフェでいつもの席で、もう私の友人どもは集結していた。理沙も遅れるとは言っていたが、私が脳内を暴走させていて速度が遅かったのか、私が一番遅かった。めんぼくねぇめんぼくねぇ。


「大川の腐女子!奈緒!イズヒア!!」

「月に帰れ!」
「帰れー!」

「レッツロックベイビィ!!!」


カフェの店員さんとは完全に顔見知りで、もう集まってますよとまで言われた。このおばちゃんSUKI。案内された場所ではもう既に写真がテーブルの上にまき散らされており、京子と真美に至っては有紀と理沙と紀子からスケブ攻めにあっていた。頑張れyあ、私もですか。はい。

それにしてもちょっと前に私が南天であるということを知っているヤツに逢ってみたいというから京子と真美をこいつらに逢わせたのに、すっかり意気投合しやがって……。奈緒ちゃんは嬉しいよ…。お前らコミュ障だからな……。どうなるかと思ったけど…。

「紀子、衣装今週中に返すから。世話になったわ」
「えぇ、いつでもいいわよ。それよりこの写真見て!!!奈緒めちゃめちゃ可愛く撮れてない!?!?」
「撮れてない焼却決定」
「いやぁ!!やめなさいなにすんのよ!!」

店員にカフェラテを頼み席に座る。皆は昨日の文化祭での写真をブヒブヒしながら眺めていた。ほぼ私なのが解せないのだが、有紀と理沙は勘ちゃんバンドのメンバーの写真を買占めに取り掛かっていた。これストーカーになるパターンのやつや。

真美と京子に、久々知くんの話はしない方が良いよな…。どうせリア充爆発しろとか言われるんだろうな…。時が来るまでふせておこう……。

「そういえば紀子、尾浜くんとどうなったの?」
「別に何も?あの後遊んだだけよ?」
「なんだ付き合っちゃえば良かったのに」
「彼遊び激しそうだし、私の手には負えなさそうだわ」

さすが先生!!!良く解ってらっしゃる!!!


「あ!そうだそういえば南天先生!薄い本あざーーーッッ!!」
「さっそく引き取ってきたでござる!!!」

「いやだから言えば普通にあげるっていつも言ってるのに!!なんでわざわざ買うの!!」

「お前から無料でもらえる薄い本などない」
「金払わないと失礼なレベル」

真美と京子は、バッグの中から見覚えのある薄い本を取り出した。表紙の絵は確かに私が描いた薄い本の絵だった。言えば友人なんだから無料でいいと言ってるのに、真美と京子はいつだってわざわざ金を払って私の本を買う。なんというかありがてぇありがてぇ。

私も私もと有紀も理沙も紀子も取り出した。お前ら手に入れるの早すぎねぇか。この時間帯じゃほぼ開店と同時に店入りやがったな。そうか、今日それ発売日だったか。文化祭に追われててすっかり忘れてたわ。


「あ、ねぇところでさぁ、奈緒、今年の夏コミで、幸村に豆腐ちゃん持たせた絵、スケブに描いたの覚えてる?」

「あ?あぁ、覚えてるよー。やたらイケメンだった男の人ってやつでしょ?」
「うんそう、それがさぁ」


理沙はトンと写真を机の上に置いて























「あんたの学園に、その人いたよ」





















そう、爆弾を突き落してきた。






「…………………は……?」


「いたよね有紀?あれ誰だっけ?」
「あぁ誰だっけ、でも確かあんたと同じ学年だって言ってたよ」

「は!?!?!?!?!??!?!?」


私はカフェオレが入っていたカップを手から落とすように離し、ガタン!と席を立った。

これに関しては真美も京子も驚いて、驚いてというか、もう完全に、顔面蒼白。まさか、学園で、私の事を知っている人がいただなんて。いや、それは南天の方の顔だろうけど、嘘だ、えっ、なんで、誰だ、誰が、夏コミで、私の所へ、スケブなんか持って来たんだ。誰だ。誰だ。えっ、本当に誰?嘘でしょ??嘘だよね???嘘って言って?????????


「う、嘘でしょ!?冗談だよね!?だ、誰!?お、思い出して!!!」

「えー、名前なんだっけ、呼ばれてたよねぇ」
「あー、なんだっけ、すげぇカッコいい名前だったよね」


誰だ!!!誰だ!!!誰が私を知っている!!誰が南天の顔を知っている人物だ!!!!








「あ、」







理沙はテーブルの上に散らばる写真を見て













































「この人だよ」



指をさしたのは


















「そうだこの人!確かヘースケって呼ばれてた!」

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