『では発表する！！第四十五回、大川祭、総合優勝は！！！……―
「我らが二年一組出店"AnimeIzm"の！大川祭総合優勝を祝してーーーーーーーー！！！！かんぱぁぁあああああいいッッッ！！！！」
かんぱーーーーーい！！
クラスの連中がジュースの入ったコップを高々と突き上げ、二年一組の文化祭の打ち上げは始まった。
椅子に立ちテーブルに足をかけ鶴谷さんが乾杯の音頭をとると、皆笑顔で、うちのクラスの総合優勝を祝った。鶴谷さんが椅子から下りて同じテーブルに座る連中、隣のテーブルの連中たちをおっさんの飲み会のようにコップをぶつけ、俺の豆乳もちょっとこぼれた。致し方あるまい。皆テンションあがってんだから。
「それからそれからー！！有志団体優勝を飾った勘ちゃんバンドのみんなにも！！かんぱーい！！！」
「ありがとー！俺歌頑張ったよー！」
「まさか優勝できるなんて思わなかったよー！」
「いやぁこれも鶴谷のポスターのおかげだよ」
「いや本当に、それかなり大きいよな」
「ありがとうね鶴谷さん」
「やめてよー！テレちゃうじゃーん！！」
うちのクラスの売り上げに、ふざけてたとはいえコスプレして店を手伝い写真撮影まで応じてくれていたということで、三郎たちも一緒に打ち上げに参加することになった。バンドの方でも打ち上げやりたいという話をしていたし、ちょうどよかったのだ。
すると勘ちゃんは飲み物を口に運ぶと、「あ、そうだ」と小さくいい、椅子の上に立ち上がった。
「はいはい！それからこれもこれも！！我らが文化祭実行委員長、鶴谷さんの、ミスコン優勝を祝して！！！もう一度かんぱーーーい！！」
「ハーーーッハッハッハッ！！！ひれ伏せ愚民ども！！この私こそNo,1だーーーーーーーーッッッッ！！！！！」
「おめでとー奈緒ちゃん！！」
「鶴谷さんおめでとう！！」
「ありがとう不破くん久々知くん！！三河の小さな子がここまで育ったように、人よ！！絆を浴びて大きくなれッッ！！！！！！」
「世を統べるのは！！！」
「絆の力ＤＡＡＡＡＡＡＡＡＡＡ！！！！」
夢だと思った。俺の天使がミスコンで優勝してしまうなんて。鶴谷さんの頭上で光り輝くそのティアラは、間違いなく、本年度のミスコン優勝の証拠となっていた。
閉会式はそれはそれは大変盛り上がった。クラス総合優勝を獲得するし、うちのクラスからミスコンの優勝者が出るしで、このクラスは最初から最後まで騒ぎっぱなしだった。
ミスコンの優勝者発表で鶴谷さんの名前が呼ばれたときは、鶴谷さんと同じぐらい俺もビックリしていたに違いない。俺の天使が、学園公認の天使になってしまったのだから。うおおおおおおおお俺だけの天使だったのにそんな学園中に認められてくぁｗせｄｆｒｔｇｙふじこｌｐ＠；「：」
ミスター部門で優勝した食満先輩に横抱きにされ舞台上に掻っ攫われたときは本気で其処かわりやがれくださいと土下座しようかと思った。食満先輩もイケメンだけどあれは俺もやりたかった…。
だが舞台上で立花先輩たちが鶴谷さんのことで喧嘩をはじめた瞬間、あ、やっぱり気持ち悪ィなと思った。あの人たちやべぇよ。どんだけ鶴谷さんのこと愛してんだよ。
「鶴谷さんのあの先輩への中指ファックやばかったのだｗｗｗｗｗｗｗ」
「ちょっとやめて久々知くんｗｗｗｗｗ忘れて忘れてｗｗｗｗｗｗｗｗｗ勝ち誇ったってだけで調子に乗っただけだからｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ」
「それにしても奈緒の中指ファックは痺れたｗｗｗヒュゥーーカックィーーーーｗｗｗｗｗｗｗｗ」
「お前まじよくあんなこと舞台上でやったなｗｗｗｗｗｗ会場が湧いたぞｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ」
「女狐顔真っ赤だったﾝｺﾞｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ」
「お頭さんこいつに一番いい肉を頼む！！」
「今日の主役奈緒だから！！」
「おぉー！奈緒がミスコン優勝したのか！おめでとう！」
「有難うお頭ー！お肉美味しいいいいい」
「何？！奈緒がミスコンで優勝！？よーし！こいつは腕を奮わなきゃなんねぇな！」
「じゃぁこれはサービスだ！海鮮特大盛！みんなで食ってくんな！」
「ンギャァァァアアア鬼蜘蛛さん蜻蛉さん好きぃいいいい！！！！」
店員さんから運ばれてきた刺身を頬張る鶴谷さんまじぐうかわ。そりゃミスコン一位にもなるわなこんだけ可愛かったら。
「久々知くん、本当にお疲れ様」
「鶴谷さんも、お疲れ様！」
「もう久々知くんの力無じゃいろいろ乗り切れなかったよー…。ミスコンの事もありお店の事も…」
「鶴谷さんもよく頑張ったね、っていうかミスコン優勝とか凄すぎるのだ」
「いやいや久々知くんだってバンド優勝おめでとー！」
再び小さくコップを合わせてキンと二人だけで乾杯をした。鶴谷さんのコップと俺のコップがまじりあった。…たった今このコップの中身は聖水にかわった………。
鶴谷さんは店の人と会話しながらもりもりご飯を口の中に運んでいった。まるでハムスターのように。まるでハムスターのように！！！！！！可愛い！！！！！！死ぬ！！！！！
しばらく時間がたち飲み食い、好き放題騒いでいると、鶴谷さんのケータイが鳴っていることを雷蔵が伝え羅。そして鶴谷さんはケータイを持って外へ出て行ってしまった。まぁここじゃ喋れないだろう。うるさくて電話は聞こえないだろうしね。戸塚さんと浅水さんも、苦手そうにしていた他の派手めの女子たちとすっかり仲良くなったのか、絡まれたりしてテーブルを離れてしまったので、このテーブルには勘ちゃんたちしかいない。
店の外をふと見てみると、窓の向こうで電話している鶴谷さんの姿が。電話の主は誰だろうなーなんて考えていると、戸塚さんが「久々知くん、」と声をかけてきた。
「そろそろ補導時間ギリギリなので、そろそろお開きにした方がよろしいかと」
「あ、もうそんな時間か」
「皆に伝えてきますゆえ、奈緒を呼んできてくだされ」
「解った」
そう戸塚さんに言われ、席を立つと、勘ちゃんたちがニヤニヤしながらこっちを見ていた。くそ、勘ちゃんたち氏ね。
「キモい。じゃぁ後でね」
その一言が耳に入った瞬間、ああ、電話の相手は立花先輩だろうなと察知した。
店の扉を開けると、ちょうど鶴谷さんも電話が終わったところだったようで、舌打ちをしながら電話を切っていた。
「鶴谷さん、」
「わおっ！？！？！？あ、久々知くん、」
「急にごめんね、そろそろお開きしようってみんな言ってるけど、大丈夫？」
「え！？あ、うん、あ、そっか、もうこんな時間かぁ。そうしよっか」
「じゃぁ戻ろう、みんな待ってるよ」
「はーい」
ひょえええええええええええええええい暗闇の鶴谷さんまじかうぃいいハッ倒したい。落ち着け兵助立花先輩に殺されるぞ。
店の中に戻るとみんなバッグを持ったりケータイをいじったり、皿をまとめやすいように重ねていたりしていた。俺も席に戻り荷物を背負った。
「兵助」
「勘ちゃん？」
「俺ら先帰るから、またな」
「え？」
「…今しかねぇだろ、邪魔はしないからさ」
「！」
勘ちゃんにバシッと背中を叩かれ、足は鶴谷さんの方へ。後ろを振り向くと、三郎も雷蔵も八左ヱ門も、にやにやとしながらこっちにむかってピースしていた。ありがとうよクソ野郎ども。ちょっと当たって砕けてくるわ。
「…っ、鶴谷さん、一緒に帰らない？」
「うん？久々知くんと？」
「ほら、この間の話……」
告白してぇんだよ言わせんな恥ずかしい！！！といえたらどれほど楽か。でも鶴谷さんはこの間の話、というので先日の出来事を思い出してくれたようで、「あーはいはい」と返事してくれた。
鶴谷さんは浅水さんたちやクラスのみんなとまたねと別れの挨拶をして、行こうとかと俺の横を歩いた。自転車に鍵をつけるのですら緊張で死にそうなほど手がぷるぷるしてやがる。しっかりしろ兵助！！！！！！！！！！！！！！！！！
「そういえば有志団体の優勝賞品なんだったの？」
「あー、あれ？クオカード一万円分だったよ」
「ふざけんなｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗなんだその豪華景品ｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ」
「え？ミスコンは？何貰ったの」
「ティアラだけだよｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ」
「うっそｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ」
「物をくれよ物をｗｗｗｗｗｗｗｗｗ」
「もしかしてティアラ宝石ついてんじゃない？」
「………おいまじか？」
「ちょっとｗｗｗｗｗｗ目がマジになってるよｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ」
自転車を走らせている途中で、十字路についた。電灯が一本光っているだけで、車も通らない。「家どっち？」と尋ねると、鶴谷さんはここで自転車を止めて、「今日はこっちだから」といった。どうやら家はこっちではないのだが、今日は立花先輩の家にお泊りするようだ。立花先輩羨ましけしからん。
「えーっと、それで、話って？」
あ、やばい。ついに来てしまったこの時が。
バクバクとやかましくはねはじめた心臓を押さえながら、俺は自転車から降りて鶴谷さんと向き合った。
「あ、うん、……えっと、その、」
「うん、」
「………鶴谷さんてさ、」
「うん？」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
八左ヱ門のこと、どう思ってるのって…………
聞かない方がいいよな！？！？！？！？！？！？！？！？！？！？！？！？
だったらいけよ俺！！！！！！！！！！！！！！頑張れ俺！！！！！！！！！！！！！！！！！！！
「…あのね、言いたいことがあって、」
「うん？」
「…そのー………」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
うわああああああああああああああああああこの沈黙はまずい鶴谷さんに不審がられちゃう頑張れよ俺！！！！勇気出せ俺！！！！！！！！！！
すると、鶴谷さんは、この沈黙に耐えられなかったか、「あのー」と、小さく口を開いた。
「……雰囲気ぶち壊すようで悪いんだけど、………そのー…言いたいこと………ほぼ、解るというか…………」
…………な、……なん、………！？！？！？
ﾅﾝﾀﾞｯﾃｰ！？！？！？！？！？！？
「き、気付いてた…！？」
「え、あ、うん、その…」
「い、…い、いつから…！？」
「……だ、だいぶ前…」
「うっそ………！」
なんと、どうやら俺のこの好意はだいぶ前から表に出てしまっていたらしい。鶴谷さんは大分前から俺が鶴谷の事を好きだと、気付いてしまっていたらしい…！！！なんという大失態……！！！
思わず俺は赤く熱くなる顔を押さえて「あ〜…！」と声を漏らしながらしゃがみこんでしまった。
「あ、ご、ごめんね、その、…」
「い、いやいや、…い、いいです大丈夫です……」
いやしかしこれはプラスに考えるべきではないか！？！？！？！？
鶴谷さんは俺が鶴谷さんことを好きだということを知っていてその話題を持ち出してくれたわけだろう！？！？！？！ちょっとは期待していいってことだよな！？！？！？少なくとも、ちょっとは期待していいんだよな？！！？！？
予想外のワンクッションが置かれたが致し方ない！！！！
「じゃぁ、言うね」
「う、うん、」
「あのね、」
「うん、」
男兵助、今此処で散ってやる！！！！！！！！！！
「…ずっと、………ずっと、前から、…ずっと前から鶴谷さんのこと、す、す、好きでした！お、俺と付き合ってください！！！」
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお！！！！！！！！！
言ったったぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお！！！！！！！！！！！！！！！！
「………は？」
「え？」
「えっと…………………え？」
「………す、好きでした…お、俺と、付き合ってください……！」
大事な事なので二回言いました！！！！！！！！！
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………私！？！？！？！？！？」
………あれ？……な、なんか…
思ってた反応と違う……。
え？よ、予想できてたんじゃないの？
何？これは何？演技？マジ驚き？
え？……え…？
鶴谷さんは徐々に顔を真っ赤にさせ、やっと、事の重大さを理解してくれたのか、
返事の代わりに、小さい声で、
「………タケククは？」
そう、答えた。
「え…？何？」
「え、あ！？あぁ！！えっと！！その、あ、わ、私、」
「あ、あの、鶴谷さん、」
「ちょ、あ！ごめん！あの！！ちょ、ちょっと、ちょっと考えさせてくださいぃいいいいいいいいいいいいいいいいい！！！！！！！」
「え！？ちょっと、鶴谷さん！？」
恐ろしいスピードで自転車にまたがり、顔を赤くさせた鶴谷さんは正面の路地に消えて行ってしまった。
街灯の下、ポツリと取り残された俺は、
「………タケククって…何……」
その言葉の意味を、考えるしかなかった。