「……この度はうちのバカ娘がご迷惑をおかけしてしまいまして……」
「…いや、うちのバカも鶴谷さんにご迷惑をおかけして……」

まるで成績が悪いのに東大に行きたいと言い出したバカ息子のいる三者面談のようである。

勘ちゃんは、なんと鶴谷さんのご友人であるノリコ?さんをナンパしてそのままホイホイ遊びに行ってしまったのだという。まぁ勘ちゃんからのLINEに大塚紀子さんという名前が出てきていないから確実とは言えないけど、ここまで同時に二人が失踪して同じ理由じゃ、相手が俺の連れと鶴谷さんの連れということはほぼ確定だろう。

突然の緊急事態に、俺は勘ちゃんとまわるはずだったのに鶴谷さんに謝罪をしつつお茶をしています。まさかの、鶴谷さんは、娘々ランカの格好で…。


「……あんまこっち見んといてください…」
「鶴谷さんそれ似合ってるよ」
「やめてよー!!今の私をいじめて何が楽しいのー!!」

「いや、割とマジでその格好似合ってるから。可愛いから。あとで写真撮らせてください」
「お前のその優しさが心に痛いんじゃァァアアーーーーッッ!!!」

うわぁぁあんと鶴谷さんは目に手を当て泣く真似をしたけど今の俺からしたらそんな鶴谷さんも可愛くて仕方ないです。もうこの際変態だろうがなんだろうが、どうと言われても構わない。鶴谷さんまじぐうかわ。どうすればいいのか解らないレベルには可愛い。なんでチャイナで出歩いてるのに誘拐されなかったんだろう。危ない危ない。こんな格好でウロついてたら絶対にどこぞのエロ野郎に誘拐されちゃう。あ、誰もいないですか。では俺が遠慮なくペロリ。

邪な考えが頭をよぎっていると、目の前のテーブルにズダンッ!!と勢いよくお茶が置かれた。猛烈に親指入ってる…。さすが俺が遣隋使に選んだ男…露骨に地味な………いや誰だ。




「…貴様、何故奈緒を泣かしている…?」




「ギャァァアアアアアアアアアア!!!すいませんすいませんすいません!!」
「いやぁぁああやめて長次さんやめてやめて!!!久々知くんが悪いわけじゃないから!!ほら!!奈緒ちゃんの嘘泣きだよ〜〜〜!!!」

「嘘か…」
「よく見りゃ解んだろふざけんなハゲ!!!!!」

「おっ!奈緒来てたのか!ん!?お前は久々知か!?なんでお前ら二人でいるんだ!?付き合ってんのか?!」

「な、七松先輩、こ、こんにちは」
「出、出た〜〜wwwww文化祭だからって汚ェ女装しちゃう七松奴〜〜〜wwwwwwwwwwww」


猛烈にコップに親指を入れるという嫌がらせをする中在家先輩に続いて登場したのは、汚ェ脛毛丸出しのメイドに変装した(もはや隠す気もない)七松先輩が現れた。なんだこのカオス喫茶エラいこっちゃ。

中在家先輩はどうやら今の鶴谷さんの泣き真似を本当に泣いているのかと思い心配して飛び出し、七松先輩はそんな中在家先輩の後を追って出て来たらしい。
そして急に七松先輩に鶴谷さんと付き合っているのかと聞かれて正直心臓とびはねた。間違えて「はい」とか言いそうになったけど、多分言った瞬間俺の首は胴体についていないであろう。いとおそろしや。

今何故鶴谷さんと二人で行動をとっているかという説明を1からして、ようやくお二方から理解を得られたみたいだ。っていうかあんな中在家先輩の目見たことない。狩られるかとおもった。

勘ちゃんと鶴谷さんのご友人の情報を二人から無事掴むことが出来て一安心なのだ。どうやらあの二人は一緒に行動しているらしい。まぁそれはそれでいいけど。鶴谷さんの友人なら信用できるし、何より勘ちゃんは見た目と違っていい奴なのだ。初対面の女子を泣かすようなことはないだろう。安心していられるのだ。

俺と鶴谷さんは会計を済ませ教室を出た。出るときに持って行けと中在家先輩のお手製ケーキをいただいた。かなり嬉しい。中在家先輩の手作り菓子はかなりうまいと聞いたことがあったからこれは嬉しい手土産なのだ。


「さてー……どうしようか久々知くん…」
「うーん、まぁ、もう少ししたら有志バンドの時間だし、体育館行けば大丈夫だと思うけど…」
「あぁそっか、もうそんな時間か。そろそろ行く?」

「…鶴谷さん、見に来てくれる?」
「行かない理由がないからね?????」
「はは、鶴谷さんが見に来てくれるなら俺また間違えないで演奏できるよ」
「頑張れ!!」

鶴谷さんはンギャワィイ笑顔でグッと拳を作り前に突き出してきた。俺も思わずつられて笑い、その拳にこつんと拳をぶつけた。

うわーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!!何今の鶴谷さんめっちゃ可愛いぃいぃいいいいーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!
青春なのだ鶴谷さん!!!!!!多分これ運動部のマネとキャプテンがやる行動なんだろうけど!!!!!!!なんかいいな!!!!!!!
今の鶴谷さんめっちゃ可愛かったなおい!!!!!!!!ふざけんなよクラッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!








「殺すぞ」








「ッ!?」
「出、出〜wwww立花奴〜〜〜〜〜wwwwwww」

「おい久々知、何私の可愛い奈緒となんかいい感じになってる。殺されたいのか」
「いいいいいいえそそそそんな滅相もない…!!」

「やめてよ仙蔵兄ちゃん、そうやって誰彼構わずからんじゃうキャラ。まじでキモいから」

「何を言う!!貴様らが私のクラスの前でイチャつかなければこんなことしなかった!!!」

「仙蔵兄ちゃんのクラス?」


突如出没した立花先輩。その手が俺の肩を握りミシミシと鳴らす横で、鶴谷さんは教室の方を向いた。俺も追うように顔をそちら側に向けると、そこには筆記体で書かれた『Last Chance』という文字。あ、此処は立花先輩のいる三年一組のクラスか。

「仙蔵兄ちゃんのクラスって何?」
「コインカジノだ。現金をチップに変えてから、中にいる我々と勝負する。溜まったコインの総数に応じて欲しい景品と交換できるぞ。違法賭博ではないので安心しろ」

まぁ入れ、と背を押され教室の中にはいると、ひんやりとした冷気に包まれる感覚に襲われた。なんだ此処。ここ学園内だよな?なんでこんなラブホみたいな照明なの?え?どっかのホテル?それともホストクラブとかに瞬間移動?この扉どこでもドア?三年となると文化祭への思いもこんなに違うもんなのか。すげぇな。

景品は其処だと指差されるその先には、綺麗に飾り付けられた黒板の前に並ぶ数々の景品。そこにはここで稼げたコインの枚数ごとに交換できる景品が並んでいた。1000枚まで集めるとこのクラスの好きな先輩とデート出来る券が手に入るらしい。900でゲームソフト、800でゲーム機、700で多分ブランド物のバッグやらなんやら。なるほどなるほど、数が多ければ多いほど景品は高くなるな。
どうやら一度コインを買ったらそのコインを持ち出すことは出来ず、必ず、ドロップアウトしコインを全て返却するか景品と交換することになっているらしい。確かに、何回も出たり入ったりでコイン稼いでたら意味ないもんな。

三郎と雷蔵と八左ヱ門もここへ来たらしく、お目当ての景品を持って帰ったのだという。あいつらこういうの得意そうだもんなぁ。勘ちゃんと三郎はイカサマが得意そう。手先器用そうだし。


「立花先輩は何をされているのですか?」
「私か?私はディーラーだ。指名されればもちろんゲームの相手もするがな」

「何があるの?」

「色々あるぞ。何せ我々のクラスは勉学に特化した精鋭クラスと言っても過言ではない。このようなゲーム頭を使えば勝算はこちらの物だ。トランプゲームならポーカー、バカラ、ブラックシャック、トラントエカラント、それから花札。ボードゲームならチェス、将棋、囲碁。ダイスゲームは、丁半、クラップス。集団が望みならキノ、ビンゴ、などなどだ。あとはダーツもあるぞ。……ちなみに、」


立花先輩は教室の奥へ進み右奥のカーテンをしゃっと開き、中を見せた。


「文次郎は丁半賭博の名人だ。こいつの確率計算は外れたことがない」


中では、深い緑の着物に身を包み設置された畳の上で胡坐をかく潮江先輩と、中等部の団蔵、左吉、そしてふられたサイの籠。それが開くと団蔵と左吉は崩れ落ち、潮江先輩は二人のコインを全て手前に寄せた。さすが理系トップクラスの成績上位者。確率計算なんてお手の物か。

それにしても潮江先輩の丁半似合うなぁ。きっと前世で悪人だったに違いない。


「おっ、奈緒来てたのか」

「潮江先輩なんで着物なんですか素敵すぎます脱がせてください!!!!!」
「いいぞ来い!!!!……あ?久々知か?珍しい組み合わせだな」
「こんにちは、いえ、少しこの教室の前を通ったものですから」
「そうか、まぁゆっくりしていけ」


今日は珍しく潮江先輩の機嫌がよさそうだ。よし、鶴谷さんとやましい理由で二人行動をとっていたという誤解はなさそうで安心しt「それがそうもいかんのだ文次郎、こやつが可愛い可愛い奈緒を誘惑していたのでな、私が声をかけた」

「……何?」

「アッー!!潮江先輩の殺気だッッ!!!」


ゆらりと立ち上がる盗賊(あ、幻覚か)は力いっぱい、俺の胸ぐらを掴んだ。胸ぐら掴まれるの今日で二回目ェ……。

っていうか立花先輩もそういう誤解が生まれるような言い方やめてくださいよ!!!!やっぱり予想通りの結果になっちまったじゃないですか!!!!!!!!


「久々知テメェ本当に奈緒でもてあそんでるのか…!」

「も、弄ぶだなんてそんな違いますよ!!お、俺はただ、」
「ほう、言い訳するか…!貴様らなぞ信用に値せん!全く二年は鉢屋といい尾浜といいろくでもねぇやつばっかりだな!!!奈緒はやらんぞ!!」

「やめてー!!!潮江先輩やめてー!!!!」


何故いきなりこんな喧嘩腰になってしまったのか、さっぱり解らない。もしかしたらさっき負けてたのかもしれない。後輩の前だからって余裕な顔してたのか。もしかしたらそうkいやそれはないな。潮江先輩が確率計算を外すわけがない。

何故か胸ぐらを掴まれ次の行動を迷っていると、騒ぎを聞きつけた食満先輩が潮江先輩の腕を沈め、善法寺先輩は鶴谷さんと遠ざけたはずなのに尻を触ったらしく腹部にアッパーをくらっていた。善法寺先輩ちょっと握手してください。
教室内はざわざわし始め、なぜか他のゲームが止まりギャラリーが集まってきてしまった。なんなんだこの状況は。だいたい潮江先輩が俺の話をちゃんと聞いてくださればこんなことには!!!!

「なんだ久々知、お前本当に奈緒を」
「違いますよ!本当にただいろいろあって人を探しているだけで…!」

「ほら聞いたろ文次郎、落ち着け!」
「二年の連中は信用できねぇんだよ!最近奈緒の周りをチョロついてると思ったらやっぱりか!」

「うるせー潮江先輩なんてギンギン♂♂♂しすぎてホモに走ればいいんだー!!!」
「奈緒……!?」


鶴谷さんはヤケクソになったのか潮江先輩に謎の罵声を飛ばす。

すると、ぽんと俺の肩に手が置かれた。誰だと振り返ると、そこで笑っていたのは立花先輩。視線を向けると、立花先輩はクイッと、近くのポーカー用のテーブルを顎で示した。


……あ、なるほどな。





「…では潮江先輩!折角ですから正々堂々、俺と一対一で勝負しませんか!」





































「なんでこんなことに…」

「とんでもないことになったな久々知」
「そう思うなら止めてくださいよ食満先輩」
「面白そうだ。文次郎負かせろよ」
「………任せておいてください」


何故か観客が多いこのテーブル。景品席に座らされた鶴谷さん。さて、何処からツッコめばいいのか。

「頑張ってね久々知くん…」
「大丈夫、勝つから」

バララララと軽い音を立て、手品師のようにトランプをきる立花先輩はそれはそれは楽しそうな顔をされていた。しかし鶴谷さん凄い辱められている気がする。チャイナで景品席って。凄い贅沢な者かけてるな俺。

「クローズドポーカーでいいな?」
「どうぞご自由に」
「五回勝負と行こうか」
「良いですよ」

トランプゲームはほとんど運任せなところあるけど。無理とわかっていても、やんなきゃなんねー時だってあるんだ!!悟空がそう言ってた!


「始めるぞ。オープンベット」

「俺が勝ったら奈緒と文化祭を回るのは諦めろ。ベット」
「では俺が勝ったら、俺が鶴谷さんを弄んでいるわけではないということを認め、今後も仲良くさせていただくことを許可してくださいね。ベットで」

「そりゃレイズだ」
「同等でしょう」

「やめてゅえ〜〜〜www私のために争わないでゅぇぇ〜wwwwwww」


鳥のAAは略。立花先輩の手によって配られたトランプ。要らないカードを捨てドロー。準備が完了した俺は潮江先輩に視線を向けた。あ、潮江先輩めっちゃ睨んでる超怖い。隈怖い。



「ショウダウン」

「ツーペア」
「フルハウス」


「文次郎ワンポイント」


「ついてますね潮江先輩」
「まだまだこれからだ」


うわ、鶴谷さんの手が組まれてる。なにそれ神に願ってくれてるの?可愛い死ぬ。


「ショウダウン」


「スリーカード」
「ストレート」


「文次郎、ワンポイント」


「アンダードックか?」
「まだまだですよ」



手札を覗き、少し気が高ぶる。俺は机を二回叩いた。



「いいだろう。ショウダウン」


「ツーペア」
「ストレート」


「ほぅ、久々知ワンポイント」


「あらやだ久々知くん素敵!!!」
「まかせて!」


ガタッと反応する鶴谷さんまじ可愛ぇえ……お持ち帰りしたい…。



「ショウダウン」


「…ノーペア」
「フラッシュ」


「久々知ワンポイント」







あと一戦。あと一勝。

俺は勝利を確信して、目線を潮江先輩へうつした。








「ラストゲームだ。ショウダウン」





「ストレートフラッシュ」






「……潮江先輩、」

「おう」

「…負けです」

「そうか、なら潔く諦めてくれ」


「いいえ。先輩の、負けです」


「何…?」




俺は立ち上がり、バンッ、と机にカードを叩きつけた。













「ロイヤルストレートフラッシュです。では約束通り、鶴谷さんはお借りいたします」











一瞬目を見開き俺を見て、潮江先輩はそのまま机に崩れ落ちた。慰める立花先輩の手が潮江先輩の肩に乗ると、教室はわっと盛り上がり、食満先輩と善法寺先輩は潮江先輩を指差して笑った。




「ほら、勝ったでしょ?」

「久々知くん、」




俺はその隙に鶴谷さんの手を掴み教室を飛び出した。そういえばもうそろそろ有志バンドの時間だった。危ない危ない。

それにしても勝ててよかったー。これで負けたら割とまじで鶴谷さんのこと諦めなきゃいけない感じになっちゃうところだったのだ。



いいですかみなさん!!!!!!!!!!!!!

必ず!!!!!!!!!最後に!!!!!愛は!!!!!!!!!!!!

勝のですッッッ!!!!!!!!!!!!!!

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