「文化祭早く終わってほしい」
「あっちでいちゃいちゃこっちでいちゃいちゃ」
「もう耐えられないでござる」
早めに学校に来てエプロンに着替え、先生に頼んで使用許可をもらった家庭科室に来ている。予定の時間よりはるかに早い時間だったのだが京子と真美はもう既に準備に取り掛かっていた。
今朝から準備をしておかないと間に合わないかもしれないという話を昨日の夜三人でLINEを飛ばしあっていたら「じゃぁ手伝うよ」と二人が言ってくれたのでお言葉に甘えて手伝ってもらうことにした。連絡網とか回すのも面倒なので、来れる人だけ来てねとアドレスを知っている人だけに送ったのだ。それより早い時間なのに来るとか。こいつら頭おかしい。
ポクテの丸焼き(ポクテ型パン)をオーブンから取り出して真美はラッピングにかかった。京子はぼっちゃんの好きなガトーショコラを製作中である。いや本当にこいつら何時からいたんだろう出来てる物の量多すぎない???
髪を一つに結わいて手を洗い、私も料理に取り掛かった。
「そういやさ、昨日久々知くんとスタバいってとび森やってたんだけど」
「なにそれ羨ましい」
「村めっちゃ綺麗だったよ。特産物はオレンジだった」
「へー、村長イケメンすぎて村民は気が気じゃないね」
「久々知くんはローン一括で払いそう」
真骨頂を作るため私は準備室に入りボールを探した。
今日は一般のお客さん来るから絶対すれ違い通信の数稼げると思ってしっかり3DS持ってきた。充電もばっちり。まぁ昨日も普通に持ってきてたけどね。
「んでね、まぁいろいろお詫びとお礼を込めてコーヒーを奢ってあげたわけよ」
「ksk」
「…そしたら久々知くん、奢ってもらったお礼にって私にシナモンロール奢ってくれたのね…」
「なにそれ素敵ィイイイ!!!!!」
「完璧な王子すぎワロタロス!!!!!」
ハァァ…とふかーいため息をついて卵を割り小麦粉を入れてシャカシャカとかきまぜ始める。
「その後も久々知くんてば私と仲良くなれた気がして嬉しいだの言ってくるしで普通に心臓持たなかった」
「なにそれなんでお前らそんなにイチャついてんの????」
「王子と天下のスタバさんのお店でそんなにイチャついたの????」
「帰るときになったら家まで送ってくれるって言うしさぁ…」
「やめて!!私たちのライフはもう0よ!!」
まぁバイト先行くんだったからその場で別れたんだけどねと言うとなんでだよとツッコむように卵の殻を投げつけられた。
「久々知くん、的確に私のツボついてくるからまじで困るんだよね……」
そう。久々知くんは私のツボというツボをかなり的確についてくるのだ。頭いいし紳士的だしたまに眼鏡だから知的かと思いきや水着だったときのあの腹筋。二次元にどっぷりはまっている私の男性像はかなり高いはずなのに、久々知くんはそれにほとんど当てはまってるんじゃないかというほどにモロ好みの男性像だ。
そんなイケメンに優しくされてみろ。心拍数が大変なことになってしょうがないわ。
「……奈緒もしかして久々知くんにk「恋なんてしてないッッッ!!!!!!」だよね!!!!!!」
確かに久々知くんは理想の男性像だよ!?!?!?!だけどね!?!?!?恋なんてしてないからね!?!?!?断じて!!!!!
何故かってそりゃ彼氏がいるからだよ!!!!!私なんて爪の先にも及ばないほど素敵な彼氏がなァアアアーーーッッッ!!!
「彼氏がいるからってあきらめるのか?じゃぁお前キーパーがいるゴールにはシュートしねぇのか」
「それとこれとは話が別だわアホンダラ」
「オヤジさんチッス」
「いや好きじゃないから。友達としては最高に好きだけど恋愛としてはダメだろ。竹谷くんいるし」
「だよな」
「勝てないよな」
昨日の久々知くんはまじやばかったー。イケメンすぎてもう一回結婚申し込むところだったもん。
骨の形の型抜きでクッキーを抜き取りながら、私は冗談はやめろを京子の背を蹴り飛ばした。だって真美ちゃんたらこの私が久々知くんに恋してるなんて恐れ多いこと言いそうになってたから。冗談じゃない。そんなことあるわけがない。仮に私が久々知くんに恋をしたところで久々知くんが私のようなブスオタを好きになるわけがない。かなわぬ恋よ。ホモだし。
オーブンに生地をぶち込み私は首をコキッと回して、焼きあがるまでラッピングをやってる真美を手伝うことにした。なんだもうこれしか数ないのか。
「いやそれにしても、ずっと可愛い可愛いと見守っていただけだった久々知くんたちとかと」
「よくここまで仲良くなれたよねー」
「ね、それ私も思った。ホモの充電させてもらってただけだったのに。不破くんとかに至っては私のこと名前で呼んでくるし」
「まじ裏山」
「しかもちゃん付けだろ」
「本当にもうあのホモ達素敵よねぇ………」
ラッピングをしながらケータイの電源を入れて画面を見る。メールした時間まであと少し。誰か来てくれるかなー。
「そういえばもう少しで久々知くん誕生日なわけよ」
「そりゃめでてぇ」
「おめでたいことですね」
「誕生日何が欲しい?って聞いたら私の一日をご所望されたンゴwwwwwwwwwwwwwwww」
「……え?」
「…なん、だって……?」
「ビックリしたわwwwwまさかそういわれると思ってなかったからwwwwwwwww久々知くんと思いもよらぬデートフラグ立ったでござるよwwwwフォカヌポォwwwwwwwwwwwwww」
「え、ちょ、ちょっと待たれい奈緒」
「おおお、お主一体それは、ど、どういう、」
「私も意図は解らんけど一日中趣味の話をしたいと言われたンゴwwwwすげぇ素敵wwwww今から楽しみwwwwwwwwww」
「え、ちょ、待て待て!!」
「それどう考えてもおかしいよね!?」
「は?おかしいって何が?」
私が久々知くんと無駄なデートフラグを立てたという話を聞いた瞬間、京子と真美は作業を中断して私の正面にズダン!!と座った。なにしてんだ仕事しろ。
お前正気か!!と二人は珍しく興奮したように私の肩を掴みブォンブォンゆすった。何の事だかさっぱりわからずに私は頭の上に「?」を表示させたまま固まってしまった。
「え、く、久々知くんとデート!?」
「デートっていうか、…遊びに行く?」
「二人でか!?」
「最初は竹谷くん誘おうと思ったんだけど、二人の方がいいと思ったし、久々知くんも二人のほうがいいっていうから」
ホモの話するならそうよね。
「二人を自ら望む…!?」
「王子と二人きり…!?」
「え、なんなの、別に普通でしょ友達なんだから」
「奈緒ちゃんたら珍しく冷静ねッッ!!!」
「バッッ…!!お前、明らかに違うだろ!!!」
「何が?」
「誕生日プレゼントだっつってんのに奈緒の一日が欲しいとか!!!」
「二人がいいとか!!!」
「今までお前に接してた態度総合的に見て!!!」
「友達とかそういうあれじゃないだろ!!!」
「……え、え?なんなの?つまり何が言いたいの?」
ラッピング中のポクテを手に持って袋に詰めながら、私は何故か興奮し続ける二人の目を交互に見た。
二人が何を言いたいのか全然わからない。普通のことじゃないの?出かけたりすんのも趣味(ホモ)の話するのも。
真美と京子はゴクリと唾をのんで、つまり、と口を開いた。
「……もしかして久々知くん、」
「奈緒のこと、好きなんじゃね…?」
「ハァァアアアアーーーーッッ?????」
それは、予想外の早とちりだった。
京子と真美は、あろうことか、あの王子が、私のことを好いているといったのだ。
何故。どういう思考回路でそうなった。
久々知くんが?????????????
私を??????????????????
好きだって?????????????????????
「い、いやいや、……いやwwいやいやいやwwwwwwwwwねーーーよwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
「いやだってもうそんなの…」
「奈緒のこと完全に好きじゃん…」
「王子がwwwwwこんな凡人をwwwwwwwwファーーーーーーーーーーーーーwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
私は思わずそのまま台に突っ伏して大笑いしてしまった。
だってwwwwwwwあの王子が私のこと好いてるとかwwwwwwwwwwwww
ありえないにも程があるだろwwwwwwwwwwwwwwwその発想はwwwwwwwwwwなかったwwwwwwwwwwwwwwwwww
真美と京子はそれしか考えられないって!!と強く私の肩をガクガクと揺らしたが、そんなのありえないwwwwあるわけがないwwwwwwwwwwwwww
仲良くはしてるけどwwwwwwどう考えても久々知くんの私に対する態度はwwww久々知くんが自然に出してるwwwwww紳士的な部分でしょwwwwwwwwwwwwwwwwww
「だって奈緒がそういうゲームみたいに優しくされるのとかそういう台詞に弱いの知ってるじゃん!!」
「それなのにそういうこと言うとかやるとか完全にそうじゃないの!?」
「あれが久々知くんの自然体だろwwwwwwwww」
「…お前それまじで言ってんの…??」
「あの王子が、こんなに優しい態度とるか???」
「黙れ貴様らッッ!王子は紳士代表やぞッッッ!!!!気のない女にだってそれぐらいするわいッッッ!!!!!!!!!」
やいのやいの二人が言うので、私は顔をあげバンッ!と台を叩いた。と、同時にオーブンがチンッと可愛らしい音をたてたので、椅子から立ち上がりオーブンへ向かった。
いい匂いがしてる。焦がしてはいないでしょうね。
真美と京子が便所で作戦会議してくるっ!!!と家庭科室から出て行った。なんなんだよ本当に。落ち着けお前ら。
まったく二人は早とちりしすぎだ。久々知くんが私を???ありえないありあえない。ないない。絶対にない。あるわけがない。
だって……あの久々知くんだよ???イケメンホモ集団の一人の久々知兵助さんだよ????
そんな久々知くんが???趣味があうってだけで???私を????
あ り え な い 。
それに私は竹久々推しだと何度言えばわかる。鶴谷×久々知じゃねぇんだよ。竹谷×久々知なんだよ。俺じゃない。竹谷くんだ。
もし仮に私と久々知くんが恐れ多いながらお付き合いするとしたら、それはもう久々知くんがノンケだということになってしまう。それだけは許されることではない。断じて。
ノンケだということを証明してしまった私にも責任があるということで切腹せねばならない。介錯は戸部先生オナシャス。
御開帳〜とゆっくりオーブンをあけると、もわりと漂ういい香り。うおおおおお凄い綺麗に焼けとるがな!!!
「でーきたっ!」
「おはよう鶴谷さん」
「ウオワァァアア!!!!」
鍋掴みを手にはめてクッキーが乗っている台を中から取り出し立ち上がると、台の向こう側にいたのは、王子でした。
「おはおはおはよう久々知くんいいいいいつ来たの!?!?」
「おはよう。たった今。他の人は?」
「ま、まだ来てないみたい」
「そっか。俺も手伝うよ」
「ありがとう!」
まさか、話題の中心人物が突然現れるとは……!!!やべぇ心臓がバックバクしてる…!!!!
これは……!!!!死ぬ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
落ち着け奈緒!!!!断じてこれは恋のバクバクではない!!!!!真美と京子がふざけたこと言ったから!!!!!!それで余計緊張してるだけ!!!!!!
ただそれだけよ奈緒!!!!!!!目の前にいるのはホモなのよ!!!!!!!!!!
「鶴谷さんそれ、」
「これ?これ真骨頂wwwwwww」
「さすがwwwwww凄い骨型だwwwwwwwww」
アマ公まじきゃわたん。外伝なんてなかった。
「綺麗に焼けたでしょ!あ、久々知くん胃に余裕あったら味見する?」
「本当?もらっていいの?」
「是非!味見オナシャス!」
一応中まで火は通ってると思うけど、とりあえず味見だけはしておいてもらおうかしらね。
チョコと普通のと抹茶があるけど、というと久々知はチョコがいいなと答えてくれた。チョコセレクトか王子まじ可愛いツラい。
はいどうぞ、と、一つ掴み差し出すと、
久々知くんは、そのまま私の手から、パクリと、お食べになられた。
「ん、美味しい!さすが鶴谷さん!」
「本当?良かったー」
ふざけんなよ久々知兵助コラアァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!!!!!!!!
俺の心臓どうする気じゃボケェェェエエエエエェェエエエエエーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!