文化祭初日の開セレの日に一般のお客さんは来ない。今日は学園内の生徒だけで楽しむ日なのだ。開セレの服装は決められていないので、クラスTシャツを着ていたり、制服だったり、俺のようにコスプレしていても怒られない。あ、そうそう、うちのクラスのクラスTシャツは戸塚さんがデザインしました。戸塚さんのデザインしたあのシャツかっこよすぎ。普通に商品として出せるレベル。
壇上に出て宣伝するクラスメイト以外はみんなクラスTシャツを着て、きり丸が売っていたペンライトを持って楽しんでいた。

舞台袖にて今待機しているメンバーはこれから宣伝するクラスメイトだ。

鶴谷さんは宣伝中にかけてもらうBGMを三年の食満先輩に指示して、自身のiPodを渡していた。

鶴谷さんは、やっぱり立花先輩と親戚だからという理由だろうが、三年の先輩方とかなり仲良さげに話をしていた。食満先輩に頭を撫でられていたし、それを立花先輩が阻止するし。


「やかましい!!何がめちゃめちゃ可愛いだ食満ち悪い!!!奈緒が可愛い事なぞ私は17年前から既に知っていたわ!!!!」

……立花先輩が、あんな険しい顔をしながらあんな台詞を言うだなんて…。立花先輩ってあぁいう人だったのか…。意外すぎる…。



「気持ち悪ィぞ仙蔵」
「気持ち悪いよ仙蔵兄ちゃん」

「奈緒ーーーッッ!!!」


……気持ち悪ィ…。

鶴谷さんは食満先輩にiPodを手渡しこっちに戻ってきた。クラスメイトがどういうことだと問いかけると、鶴谷さんは目をパチクリさせて苦笑いした。

「あー…あれ、あれっていうか、立花仙蔵は私の母方の親戚だから…」
「嘘ー!?」
「知らなかったー!!!」

「…まじか…おい兵助」
「…俺もさっき知ったのだ…」
「…じゃぁ…」
「…多分、八左ヱ門の勘違い……」
「殺しとくか?」
「夜露死苦」

勘ちゃんがバキリと手を鳴らした。それにしてもこの光景はカオスすぎる。鶴谷さんがあの地獄の会計委員長と恐れられている潮江先輩に抱きしめられ、不運委員長と言われた善法寺先輩と会話している横で戦う用具委員長の食満先輩と大川のラスボス立花先輩が喧嘩……あ、潮江先輩と立花先輩が喧嘩はじめた。この場に七松先輩と中在家先輩がいなくて本当に良かったと思う。怖すぎる。あの二人がいたら大変なことになっていたと思う。

鶴谷さんの好かれようが凄いと改めて思う。この学園の要注意人物達をこんなに丸くさせるだなんて…。


「奈緒、お前のクラスの番だ!行け!頑張れよ!」
「だんけ!行ってきまーす!」


潮江先輩を締め上げている立花先輩がそうおっしゃったので、鶴谷さんはクラスメイトに行くぞー!と声をかけて舞台上に上がった。



舞台に上がると、やはりこの学園の生徒の数は尋常では無いほどの多さなのだと実感した。BGMがかかり、生徒の席がざわざわと騒ぎ始めた。それはそうだ、突然こんなクオリティの高いコスプレ集団が出てきては何事か理解できるまで時間がかかるだろう。
そしてなんとか脳内整理が出来てきこの完成度に興奮しているのか、オタクや自称オタクたちは舞台上に居るコスプレをしている俺たちのキャラの名前を大声で叫び始めた。
多分今呆然としているやつらは一般人か。アニメとか知らないやつらだろうな。パッと見る限り反応しているやつと呆然としているヤツの比率が、確実に反応している奴らのほうが多い。なんだよ以外とこの学園同士多いじゃねぇか。なんで黙ってたんだよ。友達になろうぜ。

鶴谷さんがマイクを掴んで大きく息を吸い込んだ。



《 みんな!抱きしめて!銀河の〜〜〜? 》


\はちぇまれぇー!/


ちょwwwwwwwwwwwwwwwww何このよく訓練された生徒たちwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

鶴谷さんがマイクを持ってそう挨拶すると、ランカ・リーというキャラを知っている生徒がウォオオオ!と野太い声を出しペンライトをブンブンと振り回した。ライブみたいでワロタwwwwwwwwwwww


《 えー、改めましてこんにちは!高等部二年一組、"喫茶AnimeIzm"でーす!これでも喫茶店を経営する予定のクラスです!私たちのクラスは皆さんに、此処にいるコスプレしてる私たちが美味しいお菓子やお茶を提供しながら、二次元の話に華を咲かせたりして、さらに新入生の皆さんには学校案内もしてしまおうという色々ぶちこみすぎたクラスでーす! 》

じゃぁうちのクラスのコスプレ代表者に御挨拶願います! 》

クルリと後ろを振り向く鶴谷さんは、俺を指差して言った。


《 あの人の名前呼んでみましょー!せーの! 》



\バニーちゃーん!!/


そう、生徒席が一体となって叫んだ。女率が高い。
お前ら全員腐女子だろ!!!!!!!!!!!!!絶対そうだろ!!!!!!!!!!後で絶対店来いよ!!!!!!!今顔覚えたからな!!!!!!!!!!!!友達になろうぜ!!!!


「僕はバニーじゃない!バーナビーです!」


反射的にそう俺が答えると、鶴谷さんは口を押さえてブホッと噴出し、さっきバニーちゃんと叫んだ女子がキャアアアと黄色い声を上げた。隣のいるのおじさんですよ。今立ち位置的に俺が左です。
はい、と鶴谷さんにマイクを渡されて、俺は一歩だけ前に出た。


《 タイガー&バニーの、文化祭実行委員の方、バーナビーです!……こんにちは。…えっと、是非、遊びに来てください  》

…正直無茶振りだったので何言っていいかわからん。どうしよう。まぁこんなもんでいいかな。
ありがとうございましたと鶴谷さんが頭を下げて、うちのクラスは退場した。のだが、他のクラスが終わったら次に待っているのは有志の発表だ。俺と勘ちゃんは残念だけど急いで着替えなきゃいけない。勘ちゃんはそれを思い出したのか鶴谷さんの腕を掴んで退場とは反対方向に連れてきた。


「ごめん鶴谷さん!これどうやって外すの!?」
「あ!そっか着替えなきゃだもんね!ちょっとそのへん座って!」
「鶴谷さん俺も!」
「おk!久々知くんも其処座ってて!」

鶴谷さんが勘ちゃんのウィッグを外して俺の頭にも手を伸ばした。はいとポケットから小さい櫛を出して、俺はネットでペタッとしてしまっていた髪を戻した。鶴谷さんがもう大丈夫?と勘ちゃんと俺に言って、ありがとうと声をかけると、鶴谷さんは後ろから立花先輩に抱きつかれたが肘打ちを追い返していた。あ、そんな扱いなんだ。


「ねぇ鶴谷さん!」
「お!なぁに久々知くん!」

「応援しててね!俺絶対間違えないから!」

「もちろんだとも!!めっちゃペンライト振るから!!頑張ってね!!」

鶴谷さんはグッとおおおおお俺のてってててtってて手を握った!!!握られた!!!!!あったかい!!!!!!!ウワァァアアア俺頑張るよ鶴谷さん!!!!!!!!!!!!!!!!


「鶴谷さん俺も俺も!」
「うおおお尾浜くんももちろん頑張れ!!!」

勘ちゃんはいぇーい!と鶴谷さんとハイタッチを交わす。鶴谷さんはそのまま舞台袖から出て行って、多分自分の席に戻ったんだと思う。
鶴谷さんが応援してくれるなら俺完璧に演奏できると思う。もう鶴谷さんのことしか考えてない俺キモすぎ。


「勘ちゃん、俺間違えないで演奏できたら鶴谷さんに想いを告げるんだ」
「死ぬな!そなたは美しい!」

ちょっと前にもやった会話をすると、舞台袖に紙袋を持った八左ヱ門と雷蔵と三郎が来た。あっちで着替えろと立花先輩に指差され、俺達は奥へ入っていった。

各々がばさりと紙袋をひっくり返して、あらかじめ用意するように言っていた着物だか浴衣だかに着替え始めた。衣装の提案をしたのは三郎だ。曲にあわせた衣装のほうがいいと言ったのだ。帯の結び方とか解らんが、雷蔵がこうだよこうと教えてくれたおかげで無事に着替えることが出来た。本当は軍服とかの方が似合うけど、まぁそんなの用意することも出来ないしな。

あ、そういえば鶴谷さんにこの曲をやると教えるのを忘れていた。知ってるかな。いや知ってるか。


席に戻ることの出来ない俺達は舞台袖から他の有志グループの発表を見ていた。コントだったり漫才だったりが終わり、バンドやユニットのグループ集団へと突入していった。

そこへ伝七が駆け足で俺達のほうへ来た。


「せ、先輩方!バンド名が書いてありませんが決まってますか!?」
「…!」

勘ちゃんがサッと顔を青くした。そういえばバンド名決めるのを忘れてた。出場すると書類を出したとき、"まだ決まって無いです"と書いておいたのだ。

「おい大事なの忘れてたぞ!!」
「ど、どうするの!?」
「今更考える時間なんかねぇよ!」
「勘ちゃん!!」

「かかかっかかかっかkkっか"勘ちゃんバンド"で!!」
「「「「ねーよ!!!!」」」」


総スカンだったのにまじめな伝七はそれで決定だと思い込み紙に書き込んでMCをやってる藤内のもとへ走っていってしまった。とんでもなくダサい名前になってしまったので全員で勘ちゃんへガスガスとキックを食らわせた。痛い痛いと勘ちゃんが文句を言う中、兵太夫に出番ですよー!といわれたので、俺達は三郎と雷蔵は慌ててベースとギターを担いで舞台へあがった。



《 続きましては、高等部2年生の有志バンド、"勘ちゃんバンド"の登場です 》


いたたといいながらも勘ちゃんはやっほーと手を振りながら舞台に上がった。手前にキーボードがあったので、俺はスピーカーに繋がっていることを確認しつつキーボードを二、三個押して音が出ることを確認した。
俺の横に雷蔵がいて、その奥に八左ヱ門。あ、誤解だったって言うの忘れてた。反対側に三郎がいて、真ん中で勘ちゃんがマイクを持って挨拶をしている。


《 いぇーいこんちはー☆勘ちゃんでーす☆

えーっと、まずは、みんなもう知ってるかもしれないけど、今回の大川祭のポスター見たでしょ?実はあれ俺達がモデルに描かれているんですよ。あのポスター描いたのうちのクラスの鶴谷さんって子で……あ、ほら!さっきのランカちゃん!凄いでしょ!鶴谷さーん! 》


勘ちゃんが挨拶しながら、ポスターのことについて触れた。そして勘ちゃんがうちのクラスの方へ視線を向け手を振ると、ペンライトが六本勢い良く揺れていた。あれかwwwwww鶴谷さんwwwwwwwwwwwwwなんて解りやすいwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww


「尾浜くーん!!ヤバイよかっこいいよ!!!みんな頑張ってねー!!!イケメェェエエン!!!」

《 ありがとー!応援しててねー!! 》


鶴谷さんが応援してくれるなら俺一音も間違えないで演奏するよ!!!!!!!!!!!!!!絶対だよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


《 てなわけで、俺達も鶴谷さんのポスターに負けないぐらい気合入れてやりたいと思うのでー、応援よろしくねー!この歌知ってる人いたら一緒に歌ってね!俺歌詞間違えちゃうかもしれないから! 》


冗談交じりに勘ちゃんがそう言い、準備を終えた俺達にOKサインを出した。みんな準備が出来たらしく、小さくうなずいた。

八左ヱ門がいくぞーとスティックをくるりと回し、練習どおりに三回叩いて、俺達は演奏を始めた。


まぁ正直俺の趣味で俺の提案でススメてみた曲だけど、会場はかなり盛り上がった。わっと盛り上がり一気にペンライトが揺れた。
楽譜を完璧に頭に叩きこんだ俺達はもうあとは練習どおりに身体を動かすしかない。会場がどんな反応になるかとははぶちゃっけどうでもよかった。なんかもう俺達が楽しければいいかなって感じだったし。

でもこれだけ盛り上がってくれるのならやりがいがある。俺は前奏を一音も間違えることなく、勘ちゃんに全てを託した。


前奏の何秒かが始まったのと同時に、この曲を聞いたことのある連中が奇声をあげて立ち上がったのが解った。一瞬その声にビクッとしてキーボードを弾き間違いそうになったのだが、俺そんなヘマしないよ!!!!だってステージ下で鶴谷さんが!!!!鶴谷さんが!!!!!

ヲタ芸うってんだからwwwwwwwwwwwwwwwww

クッソwwwwなんで鶴谷さんヲタ芸うてるんだよwwwwwwwwwそれってアイドルのライブハウスのだろwwwwwwwボカロ用じゃねぇえwwwwwwwwwwwwwwwwwww

鶴谷さんたちがヲタ芸をうっていることに気付いたのか、八左ヱ門も雷蔵も三郎も勘ちゃんも一瞬ステージ下を見て笑いを堪える様に顔をそむけた。勘ちゃんに至ってはちょっと声裏返りそうになってるし勘弁してほしいwwwwwwww
鶴谷さんのヲタ芸につられてか他のクラスからも「あぁ、アイドル親衛隊なんだろうな」みたいなやつらがあのサイリウムはおそらく自前であろうという太さの物をぶんぶん振り回して踊り始めた。曲を知らずともリズムに身を任せればもうそっちのもんである。一部のぽかんとしていた生徒たちも、ステージ前が異様な盛り上がりを見せているからか解らずとも立ち上がり手を振りはじめていた。ちょwwwwなんなのこの統一感wwwwwwwwwww

間奏のピアノは少々不安だったのだが、難なくクリア。鶴谷さん見てる!?!?!?!?俺今間違えないで弾けたよ!!!!!!!!


最後の一小節に全てを込め、無事に演奏は終了。スタンディングオベーションを勝ち取った俺たちはステージ上で拳をぶつけ合いながら、そそくさと裏方へ戻って行ったのだった。


「お疲れ様です!!凄いかっこよかったです!!」
「ありがとー伝七!」

「庄ちゃんも惚れ直してくれるといいですね」
「それな……」

伝七と勘右衛門がいちゃついているよこで三郎が兵太夫から辛辣な一言をうけていたのにワロタ。


「あれっ!?!?兵助どうした!??!」
「兵助?!?!?」

「………もう…鶴谷さん可愛すぎて……」


五体投地のようにその場に倒れ伏す俺を、雷蔵と八左ヱ門が囲ったのだが、俺の脳裏には今ヲタ芸をうつめちゃくそかわいい笑顔の鶴谷さんがはりついていてとれなかった。


「…兵助には悪ィけど、ヲタ芸うつ女子を可愛いとは…普通思えねぇよ」
「兵助の恋は上級者向けだね」

「うぅうう…鶴谷さんまじ……」

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