「え!?あの立花先輩と!?」
「…うん」
「あっちゃー…そりゃ、なんとも……」

おじさん(勘ちゃん)を連れて開セレ前に連れションと誘ってトイレに呼び出した。幸い今は誰もいないらしく、トイレには俺と勘ちゃんだけだった。
なんか話?と入ってすぐ勘ちゃんに聞かれた。凄いな勘ちゃんは。まだ何も言っていないのに。

勘ちゃんは俺が鶴谷さんにメイクをしてもらってるときに何か違和感を感じたと言った。いつもならもっと興奮を顔に表すだろってうるせぇよ余計なお世話だ。

実はと口を開いて、鶴谷さんを諦めることにしたという話をした。最初こそは「は?」と完全にヤンキーのような反応をされたのだが、なんでと理由を聞かれてその全てを話した。

最初は八左ヱ門と付き合っていると思ったという話。一緒に帰ってるところを目撃して、そうだと思い込んでいた話をした。
そして今度はその八左ヱ門から鶴谷さんが立花先輩と付き合っているんじゃないかという話を聞かされたこと。此れにいたっては確実な証拠を聞いたのでどう自分を慰めることも出来ないという話。

途中で泣きそうになってしまったけど、せっかく鶴谷さんがしてくれたメイクを落としてしまうわけにはいかない。俺はぐっと涙腺をしめなおした。


「…でも、諦めるっつっても、多分、まだ好きだから、完全には諦められないと思う」
「…うん、そっか」
「鶴谷さんが今それで幸せなら俺別に、それを奪うようなことしようとか思ってないし」
「うんうん」
「……でもやっぱり、ちょっと期待してたとこあった。一緒に文化祭実行委員やれたし」
「うんうん」
「文化祭終わったらまた元通りになっちゃうのかと思うと、かなり寂しいけど」
「うん」

「…でも俺それで満足できると思う。ちょっとの間だけだけど、こうして二人で何か出来たし、前よりは距離縮められたと思うし!」

「…そっか!よーし!よく言ったぞ兵助ぇ!」


ガバッと勘ちゃんに抱きしめられてうーと変な声が漏れた。うん、後悔だらけだけど、今は此れで満足だよ勘ちゃん。

そうと解れば早く開セレ行こう!と勘ちゃんに手を掴まれトイレのドアを開けると、丁度其処には戸塚さんと浅水さんが歩いてきていた。勢い良くあけてしまったからか「ウホッ」と声を声を上げて驚いていた。


「久々知くんと尾浜くん、奈緒を見みませんでした?」
「え?鶴谷さん?」

「もうそろ開セレ始まるのになんか姿見えなくて」
「久々知くんと打ち合わせもしてんのかと」

「いや、俺は見てないのだ」
「もしかしたらもう体育館行ってるかもよ?実行委員だから何かしてもるかも!」

「あ、そっか。ごめんねありがとうございます」


戸塚さんと浅水さんはダッシュで体育館へ向かって走っていった。勘ちゃんも鶴谷さんを探してみるかと言ってた。でももしかしたら本当に体育館に行ってるかも。

「じゃぁ俺教室付近捜してみるから勘ちゃん先体育館行っててよ。鶴谷さんが先に行ってたら連絡して」
「おっけー!」


俺は一旦勘ちゃんと別れて教室の方向へと向かった。教室を空けると誰もいず、むしろこの階にはもう誰もいないのかもしれない。

足音も聞こえないし、此処にはもういないかな。
ガラと音をたてて教室のドアを閉めて、俺はゆっくり体育館へ向かうために階段へと足をすすめた。


「よぅ久々知!オシャレだな!それサンジか!?」
「惜しい!バニーちゃんです!!」

中の人が一緒なのは先に体育館に行っちゃいました。そういうと多分よくわかってない七松先輩はそうかと返事を返した。いや絶対意味解ってない。
階段の上から降りてきたのは七松先輩だった。何故屋上へ通じる階段から。サボリか?


「なんだ、体育館に行かんのか?もう開セレ始まるぞ?」
「いえ、人を探していて。クラスメイトがいないっていうんで」
「?それは奈緒か?」
「!鶴谷さんと知り合いですか?」

「知り合いも何も昔から良く知った仲だからな!奈緒ならこの階段の上にいるぞー!」


じゃぁな!と肩を叩かれて七松先輩は階段をジャンプして下っていった。叩かれた肩がヒリヒリと痛む。

……いやちょっと待て、彼氏が立花先輩で七松先輩も知り合い…!?鶴谷さんてどんな権力の持ち主なんだ!?その二人と仲が良いってことは必然的に潮江先輩と中在家先輩とも仲良くなるだろ!?そして食満先輩と善法寺先輩とも仲がいいはずだ!!

ど、どうなってんだ鶴谷さんの交友関係は!!む、昔から!?昔からあんな無茶苦茶な先輩方と仲がいい、だと!?

鶴谷さんのバックには恐ろしい人たちがついていたのだ……。


何故鶴谷さんが屋上へ通じる階段に今いるのかはちょっと不明だ。それに七松先輩がそっち方向から下りてきたってことは、今鶴谷さんは七松先輩と二人きりだったってこと?え?どうなってんの?立花先輩は?う、浮気?屋上でなにしてたの?

七松先輩に叩かれた肩を抑えながら階段を上がると、其処で待っていたのは、


















「…鶴谷、さん?」


「あれ久々知くん!?どしたの!?まだ残ってたの!?」


鶴谷さんが、ななななななな中在家先輩に抱きついているところだった。


えええええええええええええええ全然意味解んないんですけど!!!!!!!!立花先輩は!?!?!?!?!?鶴谷さん立花先輩と付き合ってたんじゃないの!?!?!?!
もう別れたの!?!?!?!そして中在家先輩と付き合ってんの!?!?!?!え!?!?じゃぁ七松先輩は!?!?!?!?ささっさっさささssっさ三股!?!?!?!?!?!?


「いや、その、姿が見えなかったから…じゃ、邪魔だった?」
「いやそんなことない!じゃああとでね!お店遊びに行くからね!」
「…もそ……」

良く見ると鶴谷さんは大きな本を持っていた。中在家先輩が抱き上げていた鶴谷さんをおろすと鶴谷さんは行こうと俺に声をかけて階段を下った。中在家先輩も後をついてきたが、鶴谷さんは一旦その本を置くために教室へ戻ると言ったので、中在家先輩は先に体育館へ向かって階段を下り始めた。

「久々知くん私ちょっと教室よるから先行ってていいよ?」
「いや、どうせだから一緒に行こうよ。もうみんな行っちゃったのだ」
「あ、そっかごめんねわざわざー」


一旦教室へ戻り、鶴谷さんはロッカーを空けて荷物を奥に詰めながら本をロッカーにぶち込んだ。あ、ケータイと声をもらして鶴谷さんは制服のポケットをあさり始めた。

いや、ほんと、まじで、鶴谷さん、どうなってんの?誰なの?誰と付き合ってるの?本命は誰?????




「…あ、あのさぁ、鶴谷さん」
「んー?」

八左ヱ門のときは聞かなかった。だって、俺には関係ないから聞いちゃいけないと思って。

駄菓子菓子!!!!!!今回ばかりはまじで気になる!!!!!!!!!!!!!!!どうなってんですかそこんとこ!!!!!!!!!!!!!!


「…鶴谷さんてさぁ、…た、立花先輩と付き合ってたんじゃないの…?」
「それ何処情報なんです?」

「…こ、この間八左ヱ門が、鶴谷さんが…立花先輩と一緒に帰ってたとこ、見たって……」


ビクビクしながら俺はケータイを探し続ける鶴谷さんにそう問いかけた。

あれはもう二週間ほど前のことだったと思う。それから俺は貴女を諦めたのですから。









すると鶴谷さんは、予想外にも、感情を一切崩さずに



「あーそれね、違う違う。私と仙蔵兄ちゃんただの親戚だから」



と、おっしゃった。





「そうなんd…へ!?」









は!?!?!?!?!??!?!?






「母方の親戚が仙蔵兄ちゃんなの。私の母の旧姓立花。今の鶴谷は父方の苗字だから」




し、親戚……?!?!?!?!?!??!鶴谷さんと、立花先輩が!?!?!?!?!??!


け、計算してないぞ!!!!!!!!!!!!!




「じゃ、じゃぁさっき、中在家先輩に、」
「抱きついてたのは、私が欲しいって言ってた本を長次兄ちゃんが譲ってくれたの。あ、長次兄ちゃんは仙蔵兄ちゃんの友達で、昔は仙蔵兄ちゃんにずっとくっついてたから仲良いんだ。それで長次兄ちゃん呼びなの。別に付き合ってたりとかそういうんじゃないよ」


カチカチとケータイを打ちそうツラツラと鶴谷さんは言葉を続けた。

つ、つまり、鶴谷さんは立花先輩と付き合ってはいないと!?!?そう言うんですか!?!?!?
で!?!?中在家先輩と七松先輩とも、ただの知り合いですか!?!?!?!さっきのはただのスキンシップってことですあsfdじsdfjk!?!?!?!?!?!





つまり、この混沌は、


八 左 ヱ 門 の 勘 違 い 。























あいつ、殺す。




「うわもうまじで時間無い!!久々知くん行こう!!」
「っ、うわ、!」

バッグを引っつかみ、ついでに俺の手首も掴んで鶴谷さんは勢い良く教室を飛び出して体育館に向かって階段を下り始めた。

ギャァアアアアアアアアアアアアアアア俺今鶴谷さんに手首を霊ジョイ肺ウィほくぁwせdrftgyふじこl;p!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



つまり、もっと早く鶴谷さんに真相を聞けば、もっと早くこの胸のすっきりが味わえたんだ。もっと早くこの関係を楽しむことが出来たんだ!!!!!!!!!!!!


ああああああああ俺の馬鹿野郎!!!!!!こういう勇気がもっと早くあれば!!!!!!!!!!!!!!





いろいろ愉快なことを頭の中で考えていると、いつの間にか俺達は体育館前についた。
其処には大きな箱を抱えた中等部のきり丸が立っていた。


「あ!奈緒先輩と久々知先輩!」
「よう摂津のくん!……何売ってんの?」

「ペンライトッスよ!今回の有志団体がかなり盛り上がるグループばっかりだって聞いたんで!めっちゃ売れてますよ!奈緒先輩もどッスか!」
「この商売上手め!!よーしその作戦に乗ってやろう!!三本くれ!!!ゾロごっこするわ!!!!久々知くんも買う!?」
「買う!きり丸俺にも三本くれ!!」

「あざーーッス!!!」


「あ、摂津のくん、ルフィの物まねやって」
「海賊王に!俺はなる!」
「ヴァwwwwwwwwww似過ぎクソワロリンヌwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」


鶴谷さんが財布からお金を渡してペンライトを受け取ると、追加料金のように100円差出しきり丸に物まねを要求した。似過ぎワロタwwwwwww


「これ久々知くんのバンドのとき振りまくっていいですか!?」
「いいよ!ありがたい!もうそれだけで鶴谷さんだってすぐわかるわ!じゃぁ俺が出てるとき此れ渡すから奥州筆頭ごっこしてて!」
「どっちにしろ中井さぁぁああーーーーーん!!!!!!」


ガガガと体育館のドアを開けると其処はライブ会場の様な異様な盛り上がりになっていた。あっちこっちできり丸から買ったであろうペンライトがゆらゆらと揺れて、デカすぎる体育館は完全に東京ドームのようになっていた。去年もだったけど相変わらずすげぇな。

イベントみたいで楽しすぎワロタwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww


俺は「お願い!」と差し出された鶴谷さんの買ったペンライトをバキバキと折光らせて、自分達のクラスの椅子が設置されている場所に向かって走った。

途中で「ランカちゃんだ!」とか「バニーちゃんのコスしてるー!!」という声が聞こえたのでいい宣伝になっているしめしめとか思ってた俺はカス。もっと良く見ろ俺の前を走ってるのは本物の天使だぞ。うちのクラスの天使だ。手ぇ出すんじゃねぇぞ。









『黙れ愚民ども。私の声が聞こえないのか』






壇上の上を照らすスポットライトがパッとついた。其処には壇上に足を組み女王のように座る立花先輩がいた。立花先輩の声がマイクを通ると、ジャ忍ズのコンサートのようにキャアアアアアと黄色い歓声が体育館に響き渡った。
そういえば去年のミスコンのミスター立花先輩だったな。相変わらず凄い人気だ。








『貴様らがこの日をどれほど待ちわびたか私にもよーく解る。この学園の人間のほとんどはこの日のためだけに生きているといっても過言ではないだろうからな』









…その凄い人気者と付き合っているという噂が流れたのに喜びもしない鶴谷さんの方がもっと凄いか…。








『今日、そして明日は思いっきり羽目を外して暴れてくれて構わない。此れは風紀委員長である私が直々に許可をしてやろう』








ワッ!と会場が盛り上がり先生たちも待っていたと言わんばかりに笑顔を浮かべていた。
椅子に座ると二年生の座席は体育館の中央らへんであったため、舞台からは近すぎず遠すぎず。空いている席は綺麗に二つ並んでおり、俺は鶴谷さんと急いで座った。










そして立花先輩は大きく息を吸い、マイクを置いて、













「…これより!第四十五回大川学園文化祭"大川祭"を開催することを!!此処に宣言する!!盛り上がれない者は直ちにこの体育館から立ち去れ!!」









そう、叫んだ。

鶴谷さんもクラスメイトも他のクラスも学園中が立ち上がり、手を天井へ突き上げてイェーーーーイ!!と大きく叫んだ。






























「鶴谷さん、俺やっぱり、鶴谷さんのこと大好きです」













叫び声にかき消されるほどの小さい声で、俺は横に立つ鶴谷さんにそう言った。きっと大きな声で盛り上がる鶴谷さんには聞こえてない。

俺やっぱり諦められないよ。立花先輩と付き合ってようと中在家先輩と付き合ってようと、例え八左ヱ門と付き合ってようと、今度はもう諦めないよ。
そうであったとしても、俺絶対鶴谷さんに、次はちゃんと、大きな声で告白するから。





だから、もう少しだけこのままでいさせて。
















「ギャアァアアアアアアアアア」
「鶴谷さん!?」











ケータイを開いた鶴谷さんが突然大絶叫して椅子に倒れこんだ。














こうして、一年に一度の大規模祭り、"大川祭"が開催された。


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