ついにやってまいりました、大川祭1日目。

此処何日も準備とか準備とか準備でめっちゃめちゃ忙しかったのだ。でもクラス中の助けもあって、俺も鶴谷さんもかなり負担が減っていた。だってこうして無事に問題なく当日を迎えられたんだから。

目指すは優勝のみ。



鶴谷さんの前に座る勘ちゃんがおじさんのキャップを被って立ち上がってくるりとまわった。勘ちゃん腰細いし背高いから何着ても似合うと思ったけど、本当に何着ても似合うなぁ。
まさかコスプレまでさまになるだなんて。勘ちゃんすげぇなぁ。

「はい尾浜くん終了!素敵!カッコイイ!最高!さすが私!はい笑って!はいチーズ!」
「いぇーい☆」

鶴谷さんがケータイを取り出してピースする勘ちゃんをパシャリと撮影し、満足そうに微笑んでケータイをしまった。


「はい尾浜くん終了!最後はー?」
「俺。よろしくね」
「久々知くんか!じゃー、これ首に巻いて!んで目ぇつぶって上向いてて!」
「わかった」

渡されたタオルを首に巻いて後ろで結ぶと、鶴谷さんが俺の髪をまとめて後ろにもっていきピンで止めた。勘ちゃんは制服をしまった紙袋をロッカーの上に置きに席を外した。

っていうか、ヤバイ。めっちゃ鶴谷さん近い。明らかにおかしいぐらいに近い。鶴谷さんと一番近くにいたのってプールで隣に座ったときぐらいだと思う。あんときも30cmは距離あった。この近さはおかしい。鶴谷さんが鶴谷さんが鶴谷さんがおおおおお俺の髪とか顔触ってる興奮する死ぬ殺して欲s死ぬ。

鶴谷さんは時間に追われるようにガチャガチャとメイクボックスをひっくり返してあれでもないこれでもないと色々机に並べはじめた。そのメイクボックスがでかいのなんのって超デケェよ。何に使ってるものなのかと聞いたら、元々家にあるものだと言ってた。デカすぎだろ。すげぇな。普段からコスプレの友達のメイクとか手伝ってたりしてんだって。すげぇ。


「京子後何分!?」
「人間の寿命はどうせ短い。死に急ぐ必要もなかろう」
「テメェわりとまじで殺すぞ」


開催セレモニーでクラス別に1クラスずつ壇上の上で宣伝をするというのが恒例行事だったのをすっかり忘れていた。こういうメイクが出来るのは鶴谷さんと戸塚さんだけらしく、開セレの話を聴いた瞬間顔を真っ青にしてメイク道具をひっくり返して全員に衣装を着るように指示した。
今日は開セレが終わったら学校内だけの人間で楽しむような日程になっているので、メイクは開セレが終わったらやろうとしていたのだ。

とりあえず今は宣伝のため壇上に上がるヤツだけ衣装に着替えて鶴谷さんと戸塚さんにメイクをしてもらっている状態だ。もうそろそろ開セレ始まるけど、大丈夫だろうか。


「アッー!久々知くんちょっと今動かないで目つぶってて上向いてて動かないで!!」
「は、はい」

チラリと時計を目に入れると、ラインを引こうとしていた鶴谷さんに怒られた。ごめんなさい。あとお顔近いです。ドキドキで壊れそうです。


っていうか、良く考えたら、目瞑って顔上げてるとかこれ、なんか、完全に、キキキキキキスする直前の顔晒してしまっているわけだろこれdッどどっどっどっどおおおどっどどどどうしよう恥ずかしい顔赤くなる恥ずかしい恥ずかしい鶴谷さん申し訳ありませんが早めにメイクを終わらせていただけないでしょうか心臓が持ちそうにありません。

っていうかさっきちょっと目を開いて思ったんだけど、やっぱり鶴谷さん肌綺麗だったのだ。睫毛長いし、髪さらさらだし。最高に変態なこと言います。めっちゃいい匂いしました。


はい終わり!と鶴谷さんが言って、俺はパチッと目を開けた。鶴谷さんが髪につけていたピンを全てはずして逆立つ髪をブラシでふわふわと直していった。衣装を運んできてくれた勘ちゃんが横から鶴谷さんの手鏡を出したので覗きこむと、すげぇと小声でつぶやいてしまうほどに、完全なコス用メイクが出来上がっていた。

失礼、と声をかけて鶴谷さんは再び俺の頭をいじり、ネットのようなものをかぶせ、かぽりとウィッグをかぶせた。



すると鶴谷さんは俺の顔をじっと見て、


「久々知くんってさぁ、改めて見ると本当に女の子の憧れ!って顔してるよねぇ」


と、つぶやいた。


「…えっ」
「あ、別に悪口じゃなくてね?肌綺麗だし睫毛長いし髪ふわふわだし、凄い羨ましい」
「…そう、かな…」
「うん、めっちゃ綺麗。あ!気ぃ悪くしたらごめんね…!?」

メイク道具をポイポイとボックスに投げ込みながら、鶴谷さんは申し訳なさそうな顔をむけて俺に手をあわせた。

「いや、嬉しいよありがとう。でも鶴谷さんだって肌凄く綺麗だし、髪なんてサラサラじゃん。羨ましい」
「久々知くんそういうのは好きな女の子に言ってあげてwwwwwwww私そういうの免疫ないからドキドキするwwwwwwwwwwwwwwwwww」




……いや、好きな人に、言ってるんですよ…。





そういえば、結構目に八左ヱ門から「鶴谷さんが3年の立花先輩と付き合っている」という話を聞いた。

それが何処情報なのかとその時、電話で問い詰めたのだが、どうやらその日の学校の帰り道、八左ヱ門が駅の近くを自転車で通りかかったときに、手をつないでいる鶴谷さんと立花先輩が前方から歩いてきたという。
もし付き合っていてデート中なのだとして、相手はあの"大川のラスボス"立花仙蔵先輩。邪魔をしたら次の日ただでは済まないだろう。気づかれないようにこっそり自転車の方向進路を変えたのだが、鶴谷さんに見つかって声をかけられたという。

運のいいことにその日立花先輩は上機嫌だったらしくなんのお咎めもなかったらしいが、二人から聞こえてきた会話は「家に泊まる」というただならぬ関係だということを証拠づけるような会話だったという。


「その美肌の秘訣は何?」
「……豆腐かな…」
「あぁ、久々知くん大好きだもんねぇ」
「そりゃもう毎日食ってるよ」
「ふーん、私も食べようかな。近所に豆乳無料でくれる豆腐屋さんがあってさぁ」
「へぇ!」
「よし、私もこれから毎日豆腐を摂取することを決めた」


うちの近所の豆腐屋も豆乳ただでくれるんだよなぁ。案外近くに住んでたりして。





あ、そうだ。ここでハッリキ言っておこう。

俺は、鶴谷さんを諦めることにした。




いや、好きだよ。この気持ちはどうしても消せない。消そうと努力はしたんだ。でもやっぱり鶴谷さんのこと好きだった。何やってもやっぱり鶴谷さんのことは大好きだった。その気持ちは全くかわんなかった。

鶴谷さんのことは多分これから先もずっと好きだと思う。でも今鶴谷さんが幸せなら俺はそれを応援するし、横取りしようなんてそんなことも思わない。鶴谷さんが悲しむようなことはしたくないし、……相手は、あの立花先輩だし…。勝てる気がしないのだ。

後悔だらけ。立花先輩といつから付き合ってるとかわかんないけど、だったらとっとと告白して玉砕でも何でもしておけばよかったのだ。あー、キツいなぁ。

悪いのは、全部俺なのに。



「はい全員終了!!お疲れ様私!!!」
「あとは奈緒だけー?」
「That's right!其処をどけ!俺が着替えるスペースを寄越せ!!!!」

「俺がどくのは道にウンコが落ちている時だけだぜ。そういや奈緒って何着るの?」
「見てからのお楽しみだドゥワハハハ!!!」


鶴谷さんは雄雄しく笑って着替えスペース用にカーテンをつけた教室の奥へ入っていった。もう着替える人はあと鶴谷さんだけだ。

…そういえば鶴谷さんが何を着るのか聞いてない。何着るんだろう。場合によっては俺の理性が崩れる可能性大。


「勘ちゃん、」
「どうした兵助」
「俺が暴走したら止めてね」
「任せとけ!一眼は持ってきた!」
「GJ!!!!!」


勘ちゃんが一眼があると指差す先はロッカー。まじか勘ちゃん最高なのだ。

しばらくしてでーきた!とカーテンの向こうから声が聞こえた。wktk。












「私の歌を聴けぇぇぇえええ!!」




















……なん…だと…!?!?








「あばばばば!!奈緒の星間飛行が生で見れるだなんて感激でござる!!!!!!」
「我が生涯に一片の悔い無し!!!!」
「介錯いたす!!!!!!!!」
「メメタァ」

シャッとカーテンが開き、カーテンの向こうから差す太陽の光が完全に後光と化していた。鶴谷さんが、ランカちゃんの、星間飛行を、着ている……。



…なんだただの天使か…。
















ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!

本物の天使DAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!














「勘ちゃん、俺今日の開セレでキーボード間違えないで弾けたらビビと結婚するんだ」
「馬鹿野郎!無駄なフラグ立てんな!」

台詞からシェリルが来るのかと思ったのにまさかのランカだったそれなんてフェイント。

可愛すぎる。鶴谷さんが、可愛すぎる。太陽の光が後光となっている。羽が見える。完全に天使だ。




死ぬ。





「鶴谷さん…」

「?…ハッ!久々知くん!?ごごごごごめんねもしかしてマクロス大好きだった!?ランカちゃん派だった!?!?お目汚ししてごめんね!?!?!?」


フラリと鶴谷さんに近寄り声をかけると、鶴谷さんはどうやら俺が鶴谷さんがランカちゃんの格好をしていることに意義を唱えるつもりだと思っていたらしく、ひたすら謝り続けた。

違います。違うんです。







「鶴谷さん……」
「…!?」
















俺は、そっと、財布から、


千円札を取り出した。













「くwwwwくwwwwちwwwwくwwwwwんwwwwwwwww」

「写真を、写真を是非撮らせてください!!!!!!!」




―俺の理性終了のお知らせ―




「ちょwwwwwww久々知くんからお金はとれませぬwwwwwwwwクラス内の撮影はwwww無料でござるwwwwwwwwwwwwww」

開セレに向けて周りのヤツらが着々と準備を進めいてく中、俺は勘ちゃんにケータイを渡して一足早く写真撮影を頼んだ。
ツラい。嬉しすぎる。なんか勢いに任せて写真撮ってくださいとか頼んだけど、こんなに上手くいくもんなのか。なんというか、嬉しすぎる。


「鶴谷さんがランカちゃんとか感激…」
「いやこっちこそ久々知くんがバニーちゃんとか歓喜…」












「じゃぁ撮るよー!」







「久々知くん、さあ、ごいっしょに!さん、しー!」



「ハッピー!」

「うれピー!」



「「よろピくねー!」」






















「おい鶴谷」
「お、木下先生」
「楽しそうだな!私の分はないのか!」
「木下先生何着たいんスかwwwwwwwww」

「海軍の制服はないのか」
「…!?!?!?」



木下年生と語り合いたい。






開催セレモニー、推して参る。

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