まぁ、聞けないよね。昨日八左ヱ門と帰ってたよね?なんて。

気にはなるけど、そりゃぁだって俺と鶴谷さんはただの友達。そんなの聞ける資格なんてないわけだし。
付き合ってるのかなんてもっと聞けない。何故って、俺は……関係ないことだし。


「久々知、久々知」

「は、はいっ!」
「どうしたボーッとして。珍しいな」
「あ、すいません…」
「まぁいい。25ページの五行目から読んでくれ」
「はい」


ガタガタと椅子を引き立ち上がって、古文の教科書を開いて指示されたところを音読した。
さすが五時間目、昼飯を食った後だからか、ほとんどのやつが机に伏せて寝ていた。立ち上がるとよく解る。


「月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人なり。舟の上に生涯をうかべ、馬の口とらへて老をむかふる者は、日々旅にして旅を栖とす。古人も多く旅に死せるあり」
「よし座れ。あー、奥の細道のこの文章は、……−」

寝息ばかりが聞こえる教室で椅子を引いてガタガタと音を立てると、起こさないようにしないとという意味の解らない感情に襲われるのは俺だけじゃないはず。いやお前ら起きろよ授業中だぞ。

机にひじをついて左に視線を向けると、机に突っ伏すように寝ている天使が目に入った。
あ、鶴谷さんかビックリした。天使かと思ったわ。


鶴谷さんの机の向こう側には尋常じゃないデカさのキャリーバッグが置いてある。あれのなかに衣装が入ってるんだって鶴谷さんが言ってた。まじで放課後が待ち遠しい。鶴谷さんも俺も、勘ちゃんも接客担当だし。鶴谷さん何着るんだろうなぁ。

先生の文章の解説が完全に子守唄状態で、俺はゆっくりと目を閉じた。


まじで。まじでどうすればいいんだろう。
たとえば鶴谷さんと八左ヱ門が付き合ってて、八左ヱ門が俺にそれを秘密にしてるとしたら?
いや、そんなことはないと、信じたい。だって八左ヱ門は俺を応援してくれると言ったのだから。ぬけがけなんてするわけがない。
もし最悪そうなっても、なんらかの報告はしてくれる、はずだ…。

文化祭に告白できたらいい、なんて考えているけど、そんな文化祭マジックでどうにかなるなんて期待してない。

あー、まじしんどい。今すぐ告れる度胸さえあればこんなに悩んでいないのになぁ。



諦めるっていうのも、一つの手かなぁ。


















「それじゃぁ今から奈緒が持ってきてくれた衣装決めます。まだ帰らないでねー」

放課後になりHRが終わって、文化祭の衣装決めする時間が来た。
クラス中がはーいと返事をして、鶴谷さんは持ってきた特大のキャリーバッグを、椅子、机を後ろに下げて広々とした教室のど真ん中に持って行った。

「うわ!凄ぇデカ!」
「こ、これ中身全部奈緒の友達のやつなのー!?」

「うん、あいつこの筋じゃめっちゃ有名な方だから」


まじなのか鶴谷さんそれちょっとご友人さん文化祭にいらっしゃいますか是非紹介していただきたいんですけど。

バチンと音を立ててキャリーバッグを開けると、みんなうわぁああ!ともらした。
それはそうだ。所狭しと衣装という衣装が詰め込まれているのだから。そういう俺もめっちゃ興奮してるところです。

勘ちゃんもよくはわかんないとは思うけど衣装の数の多さに「わーお!」と声を漏らした。






だが、ここで問題が起こった。






「奈緒、これって何のアニメー?」
「これ?これは鬼徹って漫画の」

「こっちはー?」
「…これはONE PIECEだよ」

「えー!この制服可愛い!これもアニメー?」
「…それはホスト部の…」

「なぁ鶴谷これは?」
「……それは…」



鶴谷さん、絶対怒ってるwwwwwwwwwwwwwwww

多分あの顔は「こんなに知識無いとかありえなくね?」とか思ってる顔だwwwwwwwwwあれはまずいwwwwwwwwwwwwwwwwww




「…え、ちょ、ちょっと待って。…それ、も、…知らないの?」


「えー、だってアニメとか解んないもーん」
「アニメ知らないし」

「鶴谷結構詳しいんだなー!」
「そりゃこんな友達いりゃ当たり前かー!」


ヤバイあれ絶対キレてるwwwwww俺にはわかるwwwwwwwwwwwwあの手の発言は鶴谷さんレベルのガチ勢には頭にくるワードだwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww


っていうかまぁ、俺もキレそうですけど。
(迫真)


大体、アニメのコスするってことになったんだから予習復習するもんじゃないの?え?この思考おかしいの?俺だけ?
だってじゃないとどのキャラのコスしてもそのキャラになりきれないじゃないか。女子にいたっては服が可愛いとか言い始めてるけど違うわその服を着たあの子が可愛いんだわ。

おいにわかと一般人は引っ込んでろよ。っていうか同士は鶴谷さん以外にいないのかよ。

他にも見つかると思ってたのに…。期待しただけダメなのだろうか…。

鶴谷さんもまだ何も言わないって事は、きっと鶴谷さんがオタクだってことを隠し通すんだろうなぁ…。ツラいよなぁそれ…。
俺が同士だって知った瞬間目ぇキラッキラさせてたからなぁ…。可愛かった。


それにしてもさぁ、




「おー!これあのアニメじゃね!俺これ知ってるわ!」
「まじかよ俺知らねぇわ!お前まじオタクだわー」
「俺まじオタクだから、これ超知ってる」





…さっきからさぁ…





「この服可愛いー!これなんてキャラー?」
「えー!露出度高ーい!」
「私これ着たーい!めっちゃ可愛いー!」







…お前らさぁ……!!!!



















「じゃぁ、奈緒ありがとう。

接客担当になった人は好きな衣装試しに着てみてくださーい」
















あ、その適当にあしらっちゃいます感の発言は危ないぞ。




「ファッキン!!!!!!!!!!!」
「ぐはっ!?」



ほら言わんこっちゃない!!!!鶴谷さんあれブチぎれてるぞ!!!!!

殴った!!今鶴谷さん文化祭実行委員会の腹に一発かました!!!!ボディーブローかました!!!!




「テメェら一旦衣装全部置け!!!テメェらアニオタガチ勢をなんだと思ってやがんだこのやろォオオオ!!!」


鶴谷さんは案の定我慢の限界をむかえてしまったらしく、力の限り黒板を平手で叩いた。
ビックリするほどの大きい音が鳴り、教室にいたクラスの全員がビックリした顔をして鶴谷さんのほうを見た。



「何が『俺まじオタク』だ!!!!テメェ如きをオタクなんて呼ぶわけねぇだろファッキンデブ!!!!」
「え、ちょ、」

ファッキンデブwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwヒル魔さんktkrwwwwwwwwwwwwwwww
そしてあいつ乙wwwwwwwwwwwwwwwwwwwww


「ONE PIECEとドラゴンボールかじってりゃアニオタ名乗れると思ったら大間違いなんだよ!!!」



木下先生の私物である竹刀を肩に担いで、鶴谷さんは文化祭実行委員会に先を向け



「テメェ教壇から降りろ!!お前ダメ!!文化祭実行委員会クビ!!!」
「えぇ!?」


と、戦力外通知を出したのであった。


「全員注目!!!お前らがここまでアニメ及び漫画の知識がないとは思わなかったわ!!!まじでガッカリ!!!!!!

もう我慢ならん!!!今日からこのクラスの文化祭実行委員会はこの私!!このクラスの出し物はこの私が取り仕切る!!」


…鶴谷さん、まさか、今まで隠してきたというのに
こんなところでオタクだということをカミングアウトしてしまうのか…!?

だ、大丈夫なの!?俺ですら文化祭も秘密守り通そうとか思ってたのに……!!





「鶴谷って、……オタクなの?」







き、聞いた!!ついに禁断の質問を鶴谷さんにしてしまったなこいつ!!

しかし、鶴谷さんは



「私がオタクでテメェに迷惑かけたかよ!!二次元好きで何が悪ィんだよ!!!
アニメ好きがキモイって偏見野郎は今ここで殺す!!!

図にのるんじゃあないッ!このアメ公がッ!」



何の迷いもなく、そう答えた。

ジョジョをぶち込んでも誰も反応しない。いやそんなことに驚いている場合じゃない。
鶴谷さんが、自らオタっているということをカミングアウトした。

めっちゃ堂々としてる。何を恥じるわけでもなく。






あぁ、やっぱり俺、鶴谷さんのこと好きだわ。

諦めるとか、そういうの、ないわ。





「えー、じゃぁ鶴谷ってワンピ好き?ゾロとサンジどっち派?」

「鬼斬り!!!!」
「痛ァアア!!!」

「ONE PIECEのにわかは俺に近寄るな!!!ファッション感覚でONE PIECE読んでるやつがこの世で一番嫌いなんだよォオオオ!!!!!!ガチ勢ナメんな!!!!!

あー、もうだめだ。お前らに任せること出来ない。衣装は私が決める。そしてこのクラスの出し物を全て私が取り仕切る。そして私がこのクラスを優勝へ導く。文句があるヤツは帰ってよろしい!!!!」


痛がる男子をほっといて、鶴谷さんは広げたキャリーバッグの所へ歩み寄った。





「誰も帰らないということは、もういいですね。引き返すことは出来ません。

なぜならお前らは今から新しい道を開こうとしているのですから!!!!」





鶴谷さんがバッ!と手を広げて宗教団体の頭のような発言をすると、

教室中がドッ!とわいた。



「任せたぞ新文化祭実行委員!!」
「優勝に導いてくれよー!」
「奈緒頑張れー!!」
「応援するぞー!!!」

「黙れカスども!!!この奈緒がいる限りこのクラスに敗北という文字はないッッッ!!!」


その後、鶴谷さんの支持の下、接客担当になった女子たちの衣装を鶴谷さんが決め、隣の部屋で試着をさせ部屋に戻ってきた。いや、うちのクラスのコスの完成度の高さは異常だと思う。これメイクすれば完璧じゃないのかな。

俺は興味ないけど顔面偏差値高い方だと思うからなぁ。勘ちゃんも随分あっちこっちで遊んでるみたいだし。


「いいなぁ兵助!あの露出感!目の保養だわー」
「勘ちゃんおっさんみたいなのだ」

「あれは?あれなんてキャラ?」
「あれはタイバニのブルーローズだよ。あいつあれ着るのか」
「タイバニってお前の大好きなヤツじゃないか。…出来れば鶴谷さんに着て欲しかっt痛ッ!」
「勘ちゃん黙ろうか」


スパンッ!と勘ちゃんのほっぺを平手し、その先に出てくるであろう言葉を防いだ。
いやその先は言っちゃいけない。その先を言ったら多分俺が爆発する。

そういえばさっきバッグの中にランカちゃんの衣装入ってたな…。鶴谷さん着ないかなとwktkしてる俺がいるわけなんだけど…。


その後男子も女子と同じように衣装を持ってたたされて、あーでもにこーでもないと鶴谷さんはずっと悩みながら衣装チェンジを始めた。






「…鶴谷さん、俺これでいいの?本当に?」


だって、俺が持ってるのバニーちゃんだぞ……!!!!


「………。いや、やっぱり久々知くんと尾浜くんには常に着替えてもらいたいです。ちょっと何着せていいのか解んなくなってきた。迷う。どうしようぅぅうう。いい?それでもいい?」
「お、俺は別にかまわないけど」
「俺もいいよ!」

「ありがとう!!やっぱりイケメンは違ぇわ!!」

「おい鶴谷差別かよ」
「俺らはー?」

「クソDQNは黙ってろテメェらは着せてもらえるだけありがたいと思え」


ヒデェwwwwwとDQNが騒ぐ。

勘ちゃんはおじさんか。あ、俺と勘ちゃんセット?そういうあれか。





「なぁ奈緒?」
「あ?」
「俺のこれって何?マントみたいなのあるしマスクもあるけど」

「…お前まじで言ってんの…?なんで…?タイバニも知らないの?」
「知らねぇよそんなの…」


………そんなの?今、俺の愛するアニメを「そんなの」って言った?


鶴谷さんはまじガッカリだわ…と頭を抱えて教壇の机に腰掛けてうなだれた。










そ ん な の ?










「……刮目して己の全てを顧みろ」

「え、え?鶴谷」

「真の罪人を裁きの標に導く事こそ私の正義。翻って今貴様が偽りの正義の手に委ねられる事、それを看過するのは私の信条に反する…!」


鶴谷さんが、ポツリポツリとルナティックの台詞をつぶやきながら、竹刀を握り締めてゆらりと教壇から降りた。多分あいつをしないで殴るんだと思う。











ちょっと待ってください。


その役目は、俺の役目です。




















「鏑木虎徹、貴様の正義とはこんな所で潰えてしまうものなのか」







そう言い、机から降りて、俺は鶴谷さんの握り締める竹刀を奪った。



「く、久々知くん…!?」


「否。私はタナトスの声に、従うまで」




俺はさっきの鶴谷さんポーズを見よう見まねで決めて






「タナトスの声を聞けッッッ!!!!!」

「イッテェェエエエエ!?!?!?」



鶴谷さんが殴ろうとしていた野郎の腹に、思いっきり竹刀をフルスイングした。



「お前らまじで使えねぇな!!コスプレ喫茶に賛成したから少しでも同士増えると思ってた俺がバカみてぇじゃねぇか!!!見事に期待裏切ってくれやがって!!!にわかと一般人は引っ込んでろ!!

文化祭実行委員は俺と鶴谷さんが仕切る!!お前らみたいなにわかに解るほど浅い世界じゃねぇんだよ!!」


「へ、兵助…!?」
「お前もオタクだったのか!?」

「うるせぇな俺もオタクだよ見てわかんだろ。ガチ勢が一番嫌いなのは愛してる作品をにわかごときに語られることなんだよ。俺の前でタイバニ、ワンピ、BASARAを中途半端に語ったやつもしくはdisったヤツは容赦なく鉄拳制裁食らわす」


もちろんその他もろもろ。

知識もないくせに俺の好きなジャンルdisるにわか一般DQNは俺が全員殺す。




「いいよね鶴谷さん?」
「もちろんだとも!!このクラスは私と久々知くんで取り仕切る!!」




ウオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアア俺は今幸せを感じておりますゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!!!


感情に身を任せて前にしゃしゃり出てきてまじでよかったァァアアアアア!!!!俺鶴谷さんと一緒に文化祭実行委員(代理)できんだってよ!!!!!!まじこれ夢なのかね!?!?!?!?!?


「久々知くん書記よろしく」
「ぬかりなく」
「イケメンすぎワロタwwwwwwwww」


夢だけど!!!!!!!!!

夢じゃなかったァァアアアアアアアアアアア!!!!!!!!





この後、本当に鶴谷さんと俺を中心にこのクラスの出し物は次々と色々と決まっていった。

教室の内装だとか、会計方法だとか、メインメニューとか。あとは接客担当の午前担当と午後担当を決めたりだとか。
俺は午後に体育館で有志団体の発表があるから、出来れば二日目は午前に回して欲しいと交渉すると、接客担当の男子は快くOKしてくれた。あぁよかった。

鶴谷さんは一日中接客するらしい。で、暇が出来たら歩き回るって。
鶴谷さんのコス見たい…。写真撮影有料って事で話決まったけど…。ちょっと定期預金崩してくる……。

つまり一眼レフも買っといたほうがいいってこと????それから新しいアルバム本も買っておいたほうがいいってことだよね??????ん?????出費が凄いことになるね???????????



「兵助、俺この間なんとなく一眼買ったよ」
「貸してください勘右衛門さん」
「今度学食のラーメン奢って!」
「喜んでェェエエエ!!!」



文化祭までもう日数ないなぁ。

よし、今年も全力で頑張ろう。




















































『も、もしもし兵助!?』

「八左ヱ門か?どうした?」

『ちょ、おま、おい!!!!』

「日本語で喋れよ…」


『鶴谷って立花先輩と付き合ってるっぽいぞ!?!?!?』






「……はい?」







一難去って、また一難。


ぶっちゃけありえないッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!

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