「鉢屋先輩!文化祭でバンドやるって本当ですか!?」
「あぁ、私はギターだよ。応援しててくれ」

「不和せんぱぁい、先輩は何やるんですかぁ?」
「んー?僕はベースだよ。是非応援してね?」

「ハチ先輩ってドラム出来るんですか!?す、凄い!」
「つってもほとんどゲームで鍛えたんだけどな!」

「勘ちゃん先輩!お、応援してますね!頑張ってください!」
「ありがとう!人気投票入れてくれると嬉しいなぁー。なんてね!」


きゃー!と黄色い声が上がって、俺の視線は遠くを向いていた。

こいつらの後輩からの人気は本当に凄い。まるでアイドルグループみたいだ。

ギターやらなんやらを背負っているのが目立ったのか、校門をくぐろうとすると凄い人数の女子に囲まれて自転車を進めようにも進めることは出来なかった。どうすりゃいいんだ。早く帰りたいんだけど。


「あ、あの!久々知先輩も、バンド、やられるんですか?」
「?あぁ、キーボードだけどね。」
「が、頑張ってください!その…私、応援してますから!」
「うん、ありがとう」

「そ、それから…!よ、よかったらこれ、受け取ってください…!」
「うん、ありがとう」


可愛い子だなぁ。あんな子後輩にいたのか。

だけど、お前化粧濃すぎ。あと香水臭い。それからそのぶりっ子だか純情キャラだか作ってんのバレバレ。見苦しい。
受け取った小さいメモにはメールアドレスと電話番号とTwitterの垢が書かれていた。なんで自分から垢晒してんだお前。死にたいのか。

言っとくけど俺の垢はそう簡単には晒さないぞ。鍵かけてるしほぼbotと遊んでるだけだし。

あと俺こういうのきかないから。メールアドレスとか渡されても困るんだよね。
勘ちゃんに教わった「困ったときの営業スマイル」で適当にあしらっておいたが、受け取ったメモはグシャリと丸めて制服のワイシャツのポケットにしまった。これ洗濯してぼろぼろになっちゃうパターンのやつね。間違えてーとか言えばこの子もそれなら仕方ないとか思うだろ。

三郎たちは女の子達の対応に慣れてるのが一目でわかる。よくもまぁあんな歯の浮くような台詞を囁けるもんだ。

あー、近頃の女の子はこういうの面倒で鬱陶しい。


…それに比べて鶴谷さんはなんて天使なんだろうか。

化粧もそんな濃くないし煩くないし男が欲しいみたいなオーラ出してないしいつも笑顔だしスポーツ万能だし。しかもオタクの腐女子ときたもんだ。なんだただの天使か。


「兵助、行こうぜ」
「あ、悪い。行く行く」


勘ちゃんがじゃぁねーと女の子達に手を振り校門をくぐって自転車をこぎはじめた。

近くのコンビニによって飲み物を買い、コンビニのゴミ箱にぽいぽいと笑顔で小さいメモを捨てていく皆を見て「女の子たち乙wwwwwwww」と内心爆笑していたのは内緒。あ、俺も捨てよう。


俺なんて最近やっと鶴谷さんとメール出来る様になったんだぞ。一年以上も想い続けてやっとメールにありついたんだぞ。
そう簡単に想い人とメール出来ると思うな!!!!人生そんな甘くねぇんだよ!!!!!!







送信者:鶴谷奈緒
  件名:Re:
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わかるー!私もそれ大好き!
(*`ω´)

久々知くんと話あいすぎて
ツラいんですけどwwwwww


----END---------









「…はぁん…」

「兵助キモいけどどうしたの?」
「幸せ噛み締めてんの…」

その枕言葉はいらねぇよという反抗すらも出来ないほどに昨日のこのメールは破壊力がデカかった。

ただ好きな漫画について話し合っていただけ。それでマイナーかもしれないけどこれが好きなんだと出したタイトルに対して鶴谷さんもそれを知っていて好きなんだというメール。ただのそういうメール。

いや、音速で保護したよね。

なのに文面に『好き』という単語があるだけなのに心臓は「あ、死んだな」と勘違いするほどにすげぇ跳ね上がった。


「あれだな雷蔵、これは恋の病ってやつだな」
「恋はいつでも!!!」
「ハリケーーンッッッ!!!!!!」


この顔文字とか…可愛すぎだろ……ふざけんなよ…。

デコメ使ってこないところとか絵文字使ってこないところとか全部が全部俺のツボ…。

俺は絵文字とか使わないけど怒ってるわけじゃないからね、と最初に言っておいたら「私もだから安心してー」と返信着てベッドに倒れこんだ。
まじで、まじで鶴谷さん可愛い。ツラい。


…電話はまだしたことないです……。耳元で鶴谷さんの声がするとか……。



「絶対今変態なこと考えただろ」
「黙れ三郎此れぐらい許せ」

「まじキメェんだけど大丈夫かお前」
「割とマジで大丈夫だから人間って不思議だよな」
「って言ってる側から鼻血出してんじゃねぇよ」


メール画面を閉じてコンビニで買った豆乳にストローをさしてジュルルと吸う。

すると勘ちゃんが予約していたスタジオから留守電が入っていたと言った。内容は緊急の用で店長が休みで今日は店を閉めなきゃいけないことになったから予約していた分は後日に埋め合わせさせて欲しいという内容だった。

今日はこの後練習だったのにな。そうなると突然の暇。

とりあえず予定もなくなったことだし、と勘ちゃんはケータイを閉じて、ゲーセン行くかとチャリに跨った。
本当に飽きねぇなこいつら。

大型ショッピングモールの中の大きいゲーセンに行き、飽きるまで遊ぶことにした。


その間に、俺はちょっと本屋に行きたいと集団から離れた。探したい物があるんだと言えば、八左ヱ門は俺もついていくと俺の横を歩いた。

あっちこっちで「ハチせんぱーい」とか「久々知せんぱーい!」と呼ばれてちょっとやめて欲しい。八左ヱ門はいいだろうけど俺は迷惑だ。静かにしてくれ。


本屋にたどり着き、目当ての本の作者を、名前の順に並んでいる棚で探した。


「何探してんだ?」
「世界の歴史と豆腐の話・料理」

「は?」
「世界の歴史と豆腐の話・料理。世界の豆腐料理と歴史について書いてある結構前の本」
「へぇ」
「なかなか見つからないんだ。図書室にはあったから本屋にもあると思ったんだけど…」


ハチはケータイを開いてカチカチと何かを打ち始めた。どうせメールだろ。メール打ってんじゃねぇよ。人の話きけよ。

指で並んだ本をなぞりながら探すが、目当ての名前は見つからなかった。
此処にも無いのか。ガッカリ。


「落ち込むなって。何処かで見つかるって」
「そうだな。もうちょっと探してみよう」

ポンと肩を叩かれて、俺は八左ヱ門とバカどもが騒いでいるであろうゲーセンへと戻った。




























薄い本を読み終えベッドにゴロリと横になって、俺は天井を見上げてボーっとした。
イヤホンから流れる音楽も止めて、本棚へと本を戻し枕に顔を埋めて深く深くため息を吐いた。


そういえば、鶴谷さんは、本当に八左ヱ門の事をどう思っているのだろうか。


ちょっと前のあの時の鶴谷さんのあせったような顔がたまにふっと思い出されてツラい。
それに前は八左ヱ門とジュースを運んできてくれたこともあった。顔を赤くして。

あれは二人でいたから緊張したってことなんだろうか。いや、暑さにやられてって線も捨てられない。……それはほぼ無に近いけど…。


「あ"ぁ"ー……」


上向きになって目の上に腕をあて、太い声を吐き出した。

まじで俺はどうすればいいのかさっぱり解らん。この間立てたスレでも「当たって砕けろ」とか「>>1の告白の台詞安価」とか言われてVIPも当てになんないし。まぁ最初から期待はしてなかったけどな。

あれだよな。鶴谷さんと会話してるときに鶴谷さんの下に選択肢の画面出ればいいのにな。そしたら事は順調に進むのにな。


…ゲームのやりすぎだ俺…。冷静になれ……。



待ち受けに設定しっぱなしのプールの集合写真(センターは鶴谷さんの水着)を見つめてちょっと悲しくなるレベルにはツラい。
なんでこの時みたいに普通に可愛い可愛い思うだけじゃなくなってんだ。なんで八左ヱ門まで出てきてんだ。

いや、別に八左ヱ門が悪いわけじゃねぇんだけど。八左ヱ門じゃない。


…まぁ悪いのは俺だよな。いつまでも片思いで満足しているだけみたいな考えだったわけだし。

いざ気持ちを伝えるべきなのか、と腹をくくろうとしても、フラれた後の事を考えて中々行動に起こせない。
だってフラれたら、せっかく隣の席なんて美味しいポジションにいるのにもう前のようには話せなくなっちゃうわけじゃん。

それってかなりツラいよね。此処まで積み上げてやっと仲良くなってきたってのに。



「……八左ヱ門に負けるかもしれないって、思ってるってことかな…」


八左ヱ門は親友だ。あいつと争いたくない。しかも争いの原因が鶴谷さんだなんて、絶対に嫌だ。

八左ヱ門も俺が鶴谷さんを好きだって言うのは知ってるはずだ。そんな、…その、言い方悪いかもしれないけど、横取りなんてする奴じゃない。


…仮に八左ヱ門が鶴谷さんの事を好きになったんだとしたら、多分、勝ち目とか、ないんじゃないのかな。
あの鶴谷さんの態度じゃ、どう見ても八左ヱ門の事好き、って感じがする。

俺はただのオタク友達。多分雷蔵と同じラインにいる人間。

ここから先に進むには、どう考えても俺が何かアクションをするしかないんだろうか。



……三次元の恋って難しいのだ。




「…ハーゲンダッツ食べたい……」


抹茶。抹茶が食いたい。
突然何かが食べたくなる病は急に発症するから困る。全くこんな時に腹が減るとは。ついでに杏仁豆腐でも買うか。あと豆乳も飲みたい。

のそりとベッドから起き上がりチャリと鍵を手にとって家を出た。あぁもうこんな時間だったのか。
財布をポケットに突っ込み、少し遠くのコンビニへ向かった。近所のところよりあっちのほうが客が少ないのかこんな時間でも結構品が揃っている。



一番近い道を選んで来たが、

俺は途中で進路を変更した。














なんでって、



八左ヱ門みたいなやつが、
鶴谷さんみたいな子と

並んで歩いているようなところを目撃してしまったから。




楽しそうに話しているところを

こんなタイミングで目撃してしまったから。



















ここで何か行動を起こせないから、

俺はただただ変な感情を抱え込むだけで終わるんだよ。







何で俺はこんなところであの二人に

壁を作ってしまっているんだろうか。





話しかければいいのに。

こんな壁突き破れば良いのに。





遠慮してんのか?何で?


邪魔しちゃ悪いとでも思ってんのか?













なんでこんな壁勝手に作って勝手に落ち込んでんだろ。

誰も壊さないよなこんなの。俺が作ったんだから。







なんだ、悪いのは俺じゃん。

行動起こせてない俺が悪いんじゃん。



















ああ、もう、なんか、

本当にどうすりゃいいだこの壁。

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