「ゲームセット!3対0で久々知の勝ち!」

「兵助手加減しろよ…」
「八左ヱ門…悪いけど、俺はもっと上にいくよ」
「これ以上目指してどうすんだよ!」

ネタにマジレスしてきやがった。八左ヱ門テニプリも知らないのか。滅びてしまえ。


「兵助、次俺とペア組んで雷蔵と三郎潰そうぜ!この間のリベンジだって言ってきたけど」
「勘ちゃん。いいのだ」

「ハチ審判やってくんね?」
「おう、任せとけ」


一旦コートから出て別のやつらと代わる。ネットにガシャンと背を預けると、ネットの向こうでは女子がソフトボールをやっていた。もちろん其処には鶴谷さんの姿もある。

そういえば前に鶴谷さんは中学時代はソフト部に打ち込んでいたという話を聞いたことがあるのだ。経験者がいるだけて相当強くなるんだろうなぁ。2組にはソフト経験者とかいなさそうだし、きっと鶴谷さんの一人勝ちなのだ。






昨日は本当に信じられないことがあった。そう。鶴谷さんが腐っていたという衝撃の事実を知ってしまったことだ。

あの後1時間近く教室で腐トークを鶴谷さんと繰り広げていた。どうせ家に帰っても用事なんて無いし、なにより鶴谷さんとこんなに熱くなれる共通の話題があったことがなにより嬉しかったのだ。
俺が一番熱く語れる話題ですよこれ。英単語口から出すよりペラペラ出てきますよこれ。

夢みたいだった。鶴谷さんと向かい合って座ってあんなに喋り続けられたということが。

なんというかもう鶴谷さんにベタ惚れだ。更に惚れてしまった。男の俺が腐っているというのに拒否しないし、受け入れてくれるし、あまつさえこんなに盛り上がって話をしてくれるだなんて。
今までの女子は一体なんだったんだ。


「あ、そうだ久々知くん、この話題で是非紹介したいヤツらがいるんだけど、いいですか!」
「え?うん、大丈夫だけど」

教室で喋っていて突然ガタンと立ち上がった鶴谷さんはバッグを担いでこっちこっちと手招きをした。

たどり着いた先は、美術室だった。確か此処は、漫研が活動している場所ではなかろうか。


鶴谷さんは


「私は貴様を許しはしない!!!!」


と叫んで美術室の扉を足蹴した。



「それではダメなんだ奈緒!!憎しみ、で…は……」
「……く、…あれ?く、久々知くん…?」



鶴谷さんはととと、と駆け寄り、美術室にいた二人の女子の肩を抱いた。あれ、同じクラスの…。


「久々知くん、これ、同じクラスの戸塚真美と、浅水京子」

「……あぁ、なるほど」


なになになんなの、と、戸塚さんと浅水さんが動揺する。それはそうだ。全くと言っていいほどに俺と戸塚さんと浅水さんは喋ったことが無い。でも俺、前々からこの二人とは絶対意気投合すると思っていた。思っていたというか確信していた。

何故鶴谷さんが俺を此処へ連れてきたのか、全部理解した。教室でのあの生活態度、そしてさっきの鶴谷さんへの絆発言。そして教室では「鶴谷さん」呼びなのにさっき「奈緒」と呼んだこと。全てを考え、きっとこの二人と鶴谷さんはかなり仲がいいということだ。

つまり、


「あのね浅水さん、戸塚さん。俺、劇場版の瀬戸内は完全に関ヶ原の合戦とか関係なくいちゃいちゃを見せつけに来ただけだと思うんだ」

「久々知くん早くここ座って」
「つまり久々知くんは瀬戸内推しだというんだな?」


戸塚さんと浅水さんは態度を一変して、美術室の木椅子を足蹴して俺に座るように言った。

そしてお邪魔しますと椅子に座ると、脳内整理が出来たのか、「ゑっ」と声を漏らして二人は俺と鶴谷さんを交互に見た。

「…えっ、久々知くんが……」
「腐ってんの…かよ……!?」

「さっきTo LOVEるが起こって私が腐ってることバレちゃったンゴwwwwwwww」
「それでまぁ俺も同族だって事をバラしたので」
「仲間が増えたということをご紹介しようかと思いまして」

「まじかよwwwwwwwwヒィーーーーーー予想外の伏兵すぎクソワロリンヌwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
「久々知くん腐ってるとかヤバスwwwwwwwwww」
「ぜ、是非おとももちになってくださいwwwwwwwwwwww」

「いやむしろこっちからお願いしたいっていうか!!!」

「わーーーーい!!!人生初の男友達だーーーいい!!!!!!」
「尼〜ず脱退だーい!!!!!」


【いつでも美術室に遊びに来ていいですよパスポート】と書かれた小さなメモを貰った。どうやらこれを漫研の部長に見せれば入れるらしい。ここここんなレアな物を貰っていいのだろうか。つまり俺はいつでも学校内で腐った会話を出来るということだろ。

漫研は男子禁制らしく、別名『腐女子部』と化してしまっているらしい。なるほど、そりゃ男子禁制だわ。これ雷蔵羨ましがるだろうなー。

あ、そうだ。鶴谷さんに雷蔵も紹介したい。


「鶴谷さん、この後時間ある?」
「ん?別に何もないよ?」
「ちょっと、ついてきて欲しいところがあるんだけど」
「うん、いいよ。じゃ、真美京子バイバイ。また明日ね」

「んー!アディオス!」
「久々知くんもバイバイ!」
「うん、バイバイ!」

「ヒィイイーーーーwwwwww同級生のイケメン男子にバイバイとか言われたーーーwwwwwwwwwwwwww」
「きっとこれは夢でござるーーーーwwwwwwww」

「キモすぎだろお前らwwwwwwww一旦静かにしろwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」


浅水さんも戸塚さんも文化祭に向けて何かを描いているらしい。今日の分が終わるまで帰らないと意気込んでいたので、あまり長居はしないほうがいいだろうな。

っていうか、鶴谷さんと下校とか、出で出ゑデデデデデエデdッデエデエdッデデートみたいですね。いやいやいや落ち着けよ久々知兵助平常心を取り戻せよ。

丁度雨も上がって帰りやすくなっていた。自転車の濡れたサドルをタオルでふき取り、俺と鶴谷さんは雷蔵の家へと向かった。

何も知らせずに雷蔵の家に連れてきたので、鶴谷さんは雷蔵も腐っていると伝えたときエレベーターの中なのに大声で驚いていた。
そりゃそうだ。俺も雷蔵も学校でそんな発言微塵もしていない。っていうか鶴谷さんが腐ってるって知ったときも俺できればそれぐらい大声で叫びたかったからね?鶴谷さんだけじゃないからね?驚いてるの。

雷蔵の家にて鶴谷さんを改めて紹介し、雷蔵も仲間が出来たと喜んだ。あ、そういえば浅水さんと戸塚さんに雷蔵のこと教えてなかったけど……まぁいいか。雷蔵に黙って教えるわけにもいかないしな。


鶴谷さんに薦められて読んだ本で、雷蔵はR18への道を開いたし、まさかの鶴谷さんの手料理がまた食えるし。昨日はまじで濃い一日だった。多分俺が漫画家だったらネームぐらいしっかりまとめて来いって言われるレベルには濃いことばっかりだった。









「あぁ!?空振りだけで2アウトだァ!?ナメてんのかお前ら!!」


昨日のことを思い出していると、背後から鶴谷さんの怒鳴り声が。どうやら危ない状況らしい。でもたしか鶴谷さんソフト経験者だったはずなのだ。2アウトでも鶴谷さんならなんとかするはず。


「奈緒落ち着けー」
「経験者はいいよねぇそんな事言えて!」

「黙れクズども!この奈緒ちゃんの華麗なるバッティング見てろよ!3年間5番でパワーバッターを勤めたこの私の実力を!!今こそ発揮するとき!!」
「頑張れ奈緒ー!!」

日向先生が「ちょっとタイムなー」と手を振ったので、2組女子はコートから出た。鶴谷さんはテニスコートに背を向けてバットをスイングし始めた。カッコよすぎる。


「か、勘ちゃん」
「どうした兵助?」
「鶴谷さんの打順みたいなのだ」
「え!まじで!?」

「鶴谷さん!」
「お?久々知くん?」


うっかり声が出てしまって、鶴谷さんに呼びかけてしまった。アァーーーーッ!!!このネットが憎い!!!!ソフトコートとテニスコートを遮るこのネットが憎いッッ!!!!!!!!!



「次鶴谷さんの打順?」
「そう!私元々ソフト部だからさ」

うん!知ってる!なんて言えないけどね!!!!!!!


「…鶴谷さん、2アウトだけど…」

ネットに手を当てそう呟くと、鶴谷さんは、



「このままじゃ、試合にならねぇんだよ…」




と呟いてバッターボックスに入った。思わずブハッと吐き出してしまう。まさかwwwここでタッチを持ってくるとはwwwwwwwwwwww
「コート使えるってよー」と雷蔵が来たので「鶴谷さんが打つみたい」と言うと、鶴谷さんが元ソフト部だということを知っている雷蔵は(っていうか俺が漏らした)「え!」と言い近寄った。


「奈緒ちゃんが打つの!?どこどこ!?」
「不破くーん!応援してね!」
「あ、奈緒ちゃん!頑張れ!しっかり見てるからね!」

雷蔵は昨日から鶴谷さんのことを下の名前で呼ぶようになった。俺は呼べない。呼べるわけが無い。



「おー、鶴谷さんが打つのか。頑張れー!」
「頑張って鶴谷さん!」
「ありがとう鉢屋くん尾浜くん!」

「鶴谷頑張れー!応援してるぞー!」
「ありがとう竹谷くん!!」


「ちょっと三郎も雷蔵もハチもうちのクラス応援しなさいよ!」
「今鶴谷さんのせいで負けてるんだからね!」

「いやぁ経験者相手じゃ勝てねぇだろ」
「諦めろって」
「奈緒ちゃんじゃ無理だろうねー」


わらわらと集まってきたこいつらの応援を受けて、鶴谷さんは高らかにバットを高く持ち上げた。
3組の女子がわいわい言ってきているが、俺は別にそんなの聞いてない。今は鶴谷さんのバッティングが見たい。邪魔だちょっと端に寄れ。

ネット越しじゃよく見えないんだよッッッッ!!!!!!


経験者しかやらないであろうベースにバットを当てて「来い!」と構える姿がカッコよすぎて俺の心臓がやばい。

中学時代の鶴谷さん見てみたいなー。絶対にカッコイイだろうなー。しかもショートだったんだろ?うわそれ絶対ヤバいって。

ホームランが見たい。鶴谷さんのホームランが見たい!




「……が…」



2組の女子がボールを投げ



「…で……」



鶴谷さんが何かを呟き





「打つのを…!!」







ド真ん中に叩き込みと、








「やめないッッッ!!!」











予想通り、ボールはセンターの頭上を越えて


グラウンドの端へと飛んでいった。











「ボラボラボラボラボラボラボラボラボラーレ・ヴィーアァァアア!!!」


「さすが鶴谷さん!俺たちにできない事を平然とやってのけるッ!!」
「そこにシビれる!あこがれるゥ!!」


「WRYYY!!」

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