「よし、遅刻の理由を話してみろ。今日は何の童話がどうなった」

「ポスター案を徹夜で描いておりましたらばまさかの六時間仮眠をしてしまい先程起きた次第にございます」

「……お、おぅ…」


今日の鶴谷さんの遅刻の理由はなんだろうと少しわくわくしてしまっていたのは内緒だ。絶対に内緒だ。

また鶴谷さんは遅刻なのかな、と机に眼をやりそのまま窓を見た。こんな季節なのにパラパラと小ぶりな雨にふぅとタメ息が出る。やっぱり教室蒸すなあ。

完全に個人的ジンクスの話しなのだが、雨が降ると時々驚くほどに良いことが待ってたりする。
前は雨の日割のゲーセンで三郎達と遊んでたら欲しかったフィギュア一発で取れたし、その前は好きなサークルさんの本が出たと聞いてカゴに入れた瞬間完売表示になったし。

ま、たまたまだと思うけどね。この歳になってジンクスとか、そこそこにしか信じてないし。嫌な雨男だな俺。


教室に鶴谷さんが入っていて「制服透けてねぇ」とか残念なこと考えたのは俺です是非インペルダウンに連れて行ってください。Lv.5でいいです。

鶴谷さんは偉いな。命じられたからとはいえ徹夜でポスターやってるだなんて。何度も言うが俺には出来ない。


「おはよう久々知くん」
「おはよう鶴谷さん」


担任の次に挨拶するのが俺か。どんだけ幸せなんだ隣の席って。ちょっと濡れてる鶴谷さんエロすぎワロタ。写メ撮りたい。

鶴谷さんが席についた瞬間、授業終了のチャイムが鳴った。鶴谷さんはバッグを机の上に置いて頭を拭きながら机の横に掛かっていた可愛らしい紙袋を不思議な顔をして見つめた。あ、やっぱりそれ鶴谷さんのじゃないよね。見たことないと思ったんだ。
中を覗いて小さな手紙を取り出して、鶴谷さんはふふふと可愛く小さく笑った。何今の…。録音したかった…。

椅子に座って机の中でメールを打ち、満足そうに紙袋の中をもう一度見つめ、また机の横に引っ掛けた。何が入っていたんだろう。お菓子とかかな。可愛い。

俺はふぅと息を吐いて教科書を机の中にぶち込んだ。勘ちゃんはまだ寝ている。起きろよ。お前1時間目から寝てるぞ。


「久々知くん久々知くん」
「ん?」


丁度眼鏡を外した時、ふと、鶴谷さんに話しかけられた。


「ポスター、出来上がったよ」
「!」


待ってました!

昨日モデルになってくれないかとか言われたとき夢かと思ったわ鶴谷さんが俺を描くとか好きなサークルさんにスケブOK貰った時並に嬉しいわ。とんでもねぇわ。

鶴谷さんは白いプラスチックバッグを開けて、こっちこっちと窓の前に来るように手招きした。なにそれ三次元でそんな可愛いことする人いるんですか。まだ誰にも見せられないから、と鶴谷さんは俺に窓に背を向けて見るように指示した。
うわ、こんな至近距離で隣に立たれるとかツラい死ぬ抱きしめたいごめんなさい。

手渡されたコピー用紙を見て、驚愕した。


なにこれ。


「え、す、凄いね…!?何これ!?」

「き、気に入っていただけましたでしょうか…!」
「いやいやいや、鶴谷さん絵上手すぎじゃないの…!?」

上手すぎるとか、そういうレベルじゃない。何これ、どういうセンスの持ち主なの。っていうか鶴谷さん何者!?!?!?


「……や、ヤバイね」
「ほ、本当?大丈夫?ダメなとことかない?」

所狭しと描かれている楽しそうな雰囲気をかもし出す絵。これか、此れ勘ちゃんか。で、これが三郎でこれが雷蔵?こっちが八左ヱ門で、俺が此れ!?!?
なにこれ、上手すぎじゃないの!?!?!?


「そっくり、とか、そういうレベルじゃない」
「え!」
「…ははは、この俺、さすがに美化しすぎじゃないの?」

モデルになってくれと言われたからてっきり似顔絵、みたいな感じで来るのかと思いきや、完全オリジナルキャラクターみたいになっている。いやそれでも俺たちの特徴捉えてる。パッと見ればすぐ解る。

こ、これで行くのか。此れが街中に張り出されるのか。
今年お客さん凄いんじゃないの。覚悟しておいた方がいいかもしれないよ。


「いやいやいや、久々知くんはとても美形でございますともそれがこれに表現しきれているのかどうかが問題でございます」
「…!て、テレるからやめて」
「いや本当まじで。でも一応まだOK出てないので、これは私と久々知くんの秘密ね」
「うん解った。秘密ね」


秘密ねだって。今鶴谷さんしーってやりやがった。何今の。

鶴谷さんて出身地何処?エロゲ?


っていうか美形とか言われた。鶴谷さんに美形とか言われた。めちゃめちゃ嬉しい。これでご飯三杯はいける。

予想以上に鶴谷さんの画力やばかった。なんかもうなんかのキャラ描いて欲しい。知らないだろうけど。







……それにしても、


「……」



「…な、なにか不適切な表現でも」
「あ、いや、別に、」


こんな発言はちょっとアレかもしれないけど、その、



鶴谷さんの絵が、何処かで見たことあるような気がした。



別にパクりを疑っているわけじゃない。こんな構図の絵見たことないし。問題は絵柄だ。なんの絵柄だっけな。


まぁいいか。



「あ、あのさ、これってコピーでもいいから貰うこと出来ないかな」
「あ、まだ風紀委員からGOサイン出てないからまだちょっと…」
「そっか…。じゃぁポスターになったら一枚譲ってもらおうかな」

そして家に貼ります!!!!!!!!!!!!!!!


「いやいや、こんなもんいらないでしょう」
「いや、本当に欲しいよ。鶴谷さんが描いたんだから」


本当に欲しいんだよ!!!!!!!出来れば原画が欲しいところだけどそんな我侭言わないよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

鶴谷さんは絵がめちゃめちゃ上手いっと。メモメモ。



























「お、この曲俺知ってるよ!これなら歌える!」
「俺も解る。良い曲持ってきたな兵助!」

「その曲の各楽器の楽譜がこちらなのだ」

「準備良すぎワロタwwwwwwwww」
「俺もこれがいいな。これなら知らない人いても盛り上がりそうだし」


本日も軽音が使わないらしので視聴覚室にて会議中です。
未だに曲が決まっていない。スピーカーに俺のiPodを差し込んで、だめもとで俺は出来ればこれがやりたいと曲を流した。

少し難しいかもしれないけどと付け足して曲を流すと、意外と皆知っていてまさかのOKが出た。

まじか。俄然やる気出てきたわ。


「じゃぁとりあえずあわせてみるか」
「待て、ちょっと眼を通す時間くれ」
「あぁそうか、じゃぁちょっと時間とるか」

各々が俺が用意した譜面を眺めて楽器をいじり始めた。勘ちゃんはそのまま俺のiPodに自分のヘッドフォンを差し込んで楽譜を見ながら歌い始め、俺もキーボードのスイッチを入れた。
勘ちゃんの声域広いなぁ。

暫く各々が自分勝手に楽器をかき鳴らして、勘ちゃんがゴクリと水を飲み込んだ。


「じゃー間違えてもいいから一回最後までやりきってみるかー」

「うぃー」
「ああ」
「あいよ」
「いいよー」


八左ヱ門がスティックを三回叩いて、勘ちゃんは大きく息を吸い込んだ。
っていうか俺は好きだからこの曲弾けるけどお前ら今楽譜見ただけだろ。なんで弾けるんだよ。

































「じゃぁ次はスタジオでも予約して練習するか」
「駅前のスタジオでいいなら、俺店員と顔見知りだけど」
「凄いな三郎意味わからん」
「僕も知り合いだよ。買いに行ったとき話して仲良くなってね」
「じゃぁ三郎予約しておいてよ。明日とか皆どうだ?」

いいよーとみんなが返事をして、今日はこのまま解散ということになった。
雨も強まってきたし、何処かに寄るのも面倒だもんな。


「…あ、悪い、電子辞書忘れてきた」
「じゃぁ玄関で待ってるぞ」
「あー、いや、いい。どうせ雨だからのんびり帰るのだ。先に帰っててくれ」


じゃぁなと視聴覚室を出て、土砂降りになっている外を眺めながら、俺は教室へと続く階段を降りた。今のうちにこんだけ降っておいてくれれば文化祭の日に雨が降ることはなさそうだな。さすがに晴天でやりたいしな。

後ろの扉から教室に入ると、教室は真っ暗だった。さすがに誰も残っていないか。
机の横にバッグを置いて椅子を引く。机の中をあさり、目的の辞書を見つけた。とっとと帰ろう。とっとと帰って宿題終わらせてサイト巡りしよう。

バッグに辞書をぶち込んで勢い良く掴んで肩にかけた。




− バサササッ!




何か落とした。

後ろを見ると、鶴谷さんの机の横に引っかかっていたあの女子らしい紙袋が吹っ飛んでいた。うわ、やっちまった。何かが散乱している。

これはまずい。とっとと証拠隠滅を………




















なんだこれ。


これってあれですよね。


同人誌、ですよね。


R-18の、同人誌、ですねこれ。






俺も持ってますよこれ。

面白いですよね。























いやちょっと待て。



ん?なんで?



なんで鶴谷さんの机に引っかかってたの?




これ今朝、鶴谷さんが微笑みかけてた紙袋、の、中身、だよね?










え?



なんで?




























嘘だろ?

















動け久々知兵助の頭。

つまり、つ、つまり、

















鶴谷さんは、











「お、久々知くんまだ残ってたの」
「……鶴谷、さん…」


ガラリと、教室の前の扉が開いた。其処から聞こえた声は、間違いなく、鶴谷さん。



パチッと教室の電気がつけられて、

目の前に広がるものが鮮明に眼に映った。




「く、久々知くんどうしたの、顔、まっ…………」







俺の心は澄み渡る青天だった。



俺の近くに来た瞬間、


目の前に散乱している鶴谷さんの隠したかったであろう物を見て、

鶴谷さんは顔面蒼白になった。

















「ご、ごめん、に、…荷物……ぶつかって、その、ひ、ひっくり返しちゃって………」












それから、一つ聞きたいことがあるんですけど。























「こ、これ、…………鶴谷、さん、の……?」

















きっとずっと隠し通してきたであろう鶴谷の正体を知ってしまった。

なるほど正体を知るとこんな気持ちになるのか。

楓ちゃんはこんな気持ちで父親の正体を知ったのだろうか。

俺今凄く天井突き破って叫びたい気分。

打ち上げバーナビーやりたい気分。













まさかよりによってこの鶴谷さんが、



俺と同じだっただなんて。






鶴谷さんが、




















腐女子だっただなんて。


























「い、…い…、イヤァアアァァァアアアアアアアアアアアアアアアアァァァアアァァア!!!!!!!!!」




























俺のターンだこれ。

























完全に俺のターンだあぁぁぁあああぁぁぁあああああ!!!!!!!!!!!!!




















【久々知と鶴谷さんと、ときどき竹谷】の始まりだ!!!!!!!!!!!!!!

これ新連載開始のお知らせだ!!!!!!!!!!!!!!!!!!

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