「…ハァ……」
「どうした兵助?また随分と深い溜息ついてんなぁ」
「…」
「あぁ、また鶴谷サンのこと考えてんのか」
「……あぁ、その通りだよ」
親友の八左ヱ門に肩を叩かれ、俺は食堂のテーブルに顔を伏せた。
高校一年生の時。俺は初恋をした。
今年から同じクラスになった鶴谷奈緒さんである。
いつもニコニコ明るく笑ってクラスのムードメーカーで、いつだって体育の時間は女子のコートで輝いている。得意なスポーツはバスケとソフトボールだとこの間話をしているのを聞いた。どうやら中学の3年間はソフトボール部にうちこんでいたらしい。
中学を卒業してから伸ばしているという髪の毛。やっとここまで伸びたよー!とこの間クラスの女子と話しをしているのを耳にした。
今日は弁当じゃなくて食堂なんだ。何食べてんのかな。
いつから彼女を目で追う様になったのか。もう全然覚えていない。
気づいたら好きになっていて、あの頬に、髪に、触れたいと思い始めたのだ。
なんか俺…ストーカーみたいなのだ……。
「もう告っちまえよ。お前結構モテるんだからイケるって」
「無理に決まってんだろ…。あの鶴谷さんに……俺が腐男子だなんて知られたくないのだ………」
「…あぁ……お前を悩ませているのはそれだったな…」
俺は腐男子だということを知ってるのは、八左ヱ門の他には勘ちゃんと雷蔵と三郎だけ。
よく「お前はモテるから羨ましい」とか言われるけど、そんなのちっとも嬉しくない。どうせ好いてくれても、俺のこの趣味を知れば逃げていくのは目に見えている。
そうなる前に予防線として、俺は学校にいる間は何処からどう見ても優等生の雰囲気を作り出しているのだ。
教室にいるときは本を読んだり。まぁブックカバーしてるけど中身はラノベだ。
黒ぶち眼鏡に黒髪。勉強してよかった。成績が一位のおかげで俺はガリ勉キャラに見られているだろう。
誰がこんな俺を腐男子だと思えるだろうか。
きっと鶴谷さんは一般人だ。この歳になってアニメなんて見ているわけがない。
勉強は苦手らしいが、「元気」が歩いているような人だ。あんなみんなの人気者が俺なんかと趣味が一緒なわけがない。
望みは極薄なのだ。
ケータイに徳川家康の兜のキーホルダーのが付いていた時は発狂しそうになった。
もしかして彼女は関ヶ原好きか俺は蒼紅ももちろん好きだよ。
が、きっとあれはゲームなどの徳川家康ではなく普通の徳川家康だ。友達にでも貰ったのであろう。
鶴谷さんが戦国BASARAを知ってるわけないもんな。
嗚呼、話すきっかけが出来たと思ったのに…。
「………鶴谷さんに俺が腐男子だんて知られたら……生きていけないのだ…」
「……重症だな…元気出せよ。…豆腐奢ってやっから…。」
まさか俺が、ビビ以外に恋に落ちるだなんて思いもしなかった。
まじ鶴谷さんとウォーターセブンに観光に行きたい。
鶴谷奈緒さん。
僕はあなたのことが大好きなんです。