授業が終わり、いつものように教科書を机の中にしまいこんで本を開く。
さっきの授業のおさらいでもしたいところだけど此処最近は隣の席に鶴谷さんがいるのでもうそれどころじゃないです。復習は家でやることにします。一分一秒が惜しい。
少し視線を鶴谷さんの方へと向けると、彼女は此処最近ずっと頑張っているポスター案のデザインを必死で描いていた。凄いなー。よくそんなに集中して描けるな。俺なんかうさぎ描いても「カエルか?」とか言われるレベルにはヘタクソだからな。
「へーいすけっ」
「八左ヱ門」
「なぁ古典の教科書貸してくんね?家に忘れた」
「あぁ、ロッカーの中にあるから持って行っていいよ」
「さんきゅー」
ビリッ!と鶴谷さんの方から紙を破いてしまう音が聞こえる。あぁ、消しゴム強くやりすぎるとそうなるよね。あるある。
後ろにあるロッカーに古典の教科書は入っている。今日は古典がないから。八左ヱ門は何度も俺に教科書を貸してもらいに来るのでもうロッカーの場所は覚えているみたいだ。っていうか置き勉しろよ。なんで律儀に持って帰ってんだよ。お前宿題やるようなやつじゃないだろ。
借りたぜーと教科書を持って、八左ヱ門はまた俺の席の近くに戻ってきた。少し視線を上げ、俺を挟んだ向こう側にいる鶴谷さんをみつけて、目を丸くする。席替えしたのかよかったなってて耳打ちいらねぇよ。鶴谷さんに聞こえたらどうすんだ殺すぞ。
「お!鶴谷が兵助の隣の席になったのか」
八左ヱ門が声をかけると、鶴谷さんは机から視線を外しこっちを向いて、シャーペンの芯をしまった。
「そうなんだー。特等席いいでしょ」
「羨ましいな。寝放題じゃねぇか!」
うわあああああああああああ笑顔がまぶしいです「いいでしょ」って台詞の言い方可愛かったです録音させてください。
「ははは、学年1位の久々知くんが隣で居眠りなんか出来ないよ」
「俺に気にしないで、寝てていいんだよ」
「普通注意するところだよ?」
最近は鶴谷さんに急に声をかけてこられても心拍数10しか上がらなくなった。なんとか耐えてる。
「いいだろハチ、兵助の前の席俺なんだ」
「なんだよ勘ちゃんまでいい席じゃねぇか」
「八左ヱ門は基本前の方の席なのだ」
「うるせぇな!アレ絶対ハメられてんだって!!」
身内トークが始まって、鶴谷さんは再び目線を机へとうつした。
あー、出来上がりが楽しみ。本当に久々知くんに一番に見せてくれるんですか?本当ですか?嬉しいです好きです。
勘ちゃんがトイレにいくらしく、ちょっと小走りで教室を出て行った。
八左ヱ門はいなくなった勘ちゃんの席に座って、ぺらぺらを古典の教科書を捲りながら俺に話しかけた。お前落書きしたら殺すからな。
「なぁ、今日兵助んち行っていい?」
「また?お前そろそろ飽きたら?」
「いやー、一回はまるとやめらんねぇな」
八左ヱ門は夏休みに俺の家でやったゲームに絶賛ハマり中だ。夏休みがあけても暇さえあれば俺の家に来る。
まぁ別に近所だし迷惑でもないし楽しいからいいんだけど。
「自分で買ったらどうだ?」
「いや、三郎の家で特訓した!」
「は?三郎買ったのか?」
「ちょっと前にな。三郎と特訓した!」
嘘だろなんで三郎買ってんだよ。なんで教えてくれなかったんだクソッ。
きっとあれだろう。三郎もBASARAだけは俺に勝てないって八左ヱ門が言ったからムキになって買ったんだろう。
三郎はゲームに関しては凄い負けず嫌いだ。とことん極めるまでは俺に教えないつもりだったんだろうな。
八左ヱ門がぷよぷよにハマって俺に勝てないって言ったときもそのパターンだったし。
「教えてくれてもよかったじゃないか。俺も混ぜてくれよ」
「お前がいたら意味ねぇんだよ!でな、俺思ったんだよ。俺が上なら絶対いけるって!」
あのゲームは2P以上だと画面が上下に分かれる。
そして下だとついうっかり上だと思い込んでいつの間にか勝手に上を見ていて討ち死にしているパターンが何度も起きる。
八左ヱ門が典型的なそのハマりかたをしてすぐ死ぬのだ。だから画面から目を離すなとあれほど。
「下でも上でも俺には勝てないのだ」
「今度は違ェ!絶対兵助泣かす!!」
「じゃぁ今日俺んちくるか?絶対に八左ヱ門に負けるわけがないのだ」
「絶対に泣かす!覚悟しとけよ!」
八左ヱ門はピクミンしか得意なゲームないのかな。
ガッターンッッッ!!!
「え!?鶴谷どうした!?」
「鶴谷さん!?」
そんなことを考えていたら、突然左から大きな音が。驚いて視線を向けると鶴谷さんがひっくり返っていた。
え!?なんで!?
「あー、ごめん、ちょっと暇を持て余すあまり椅子後ろに傾けて遊んでたら勢い余って転倒した」
「す、凄い説明口調なのだ!」
「だ、大丈夫か!?」
「大丈夫大丈夫。心配かけてごめんね」
あー、椅子の後ろの二本でバランスとってたら倒れるパターンね。あるある。鶴谷さん可愛いな。でもパンツ見えなかったのが残念。
誰か俺の煩悩を殺してください。
チャイムが鳴って、八左ヱ門は慌てたように教室から出て行った。
斜堂先生の授業で使う教科書を出して、俺は眼鏡をかけて先生を待った。
「ね、ねぇ、久々知くん?」
「ん?」
すると、急に鶴谷さんが声をかけてきた。
「く、久々知くんてさ」
「うん?」
「た、竹谷くんと………凄く…仲、良いよね」
「…八左ヱ門?」
八左ヱ門て、さっきの八左ヱ門?
「あぁ、八左ヱ門とは幼馴染なのだ」
「そう、なんだ」
…………凄く、その返しにもやっとする。
え、まさか……。
…嘘だよね?
「……なんで?急にどうしたの?」
「…あ、いや、その、………」
え……?なんでテレてんの…?
なんでどもってんの…?
「…鶴谷…さん……?」
「な、なんでもないよ!ごめんね!変なこと聞いてごめん!」
なんで、顔、赤くしてんの?
「兵助ー、今日放課後練習しようって三郎から……兵助?」
「…あぁ、……解った………」
「…どした?」
「……い、いや…」
嘘だろ、鶴谷さんて、
もしかして、
八左ヱ門のこと、好きなの?