「一時間目の斜堂先生が少々用事が会って本日はお休みされている。だから一時間目は自習にする」

HRが終わって、木下先生が出席簿を閉じた。一時間目の先生が休みだと告げると、わぁと教室中が騒ぎ出した。斜堂先生お休みか。


「どうする?席替えでもするか?」

木下先生が突然の席替えを提案し、教室中が賛成の声を上げる。夏休みもあけたし、俺も新しい席になりたい。正直前後左右を囲まれているこの席ちょっとツラい。うっかり中身とか見られたら死ぬ。首つって死ぬ。ゆっくりラノベも読めやしない。ニャル子さん可愛い。

っていうか、是非とも鶴谷さんの隣席になりたいです。切実に。

だって一学期は鶴谷さんの席、俺より後ろの席にあったから授業中に鶴谷さんを見れやしない。
ノートとるときにあの髪耳にかけてたりしたらどうしよう。多分俺死ぬかもしれない。


っていうか今日鶴谷さん来てなくね?また遅刻なのか?



「よーし、じゃぁお前ら早い者順でクジ引きに来い」

そうこうしている間に木下先生が即興でクジをつくり、黒板に書いた座席表に番号を書き込んだ。
クジを空いてる箱に用紙を入れ、のそのそと教室中のやつらが教壇の方へ向かう。別に俺が先だ俺が先だという暴動もなく、ゆっくり静かにクジはどんどん減っていった。

うおおお運命の女神様よこの僕に微笑んで一度だけでMO


「兵助と近くになるといいなぁ」
「そうだな。そしたら楽しいのだ」


勘ちゃんに肩を叩かれ、俺もクジを引きにいった。

21番。21番て何処だよ。


「俺8番だった」
「本当か?俺21なんだけど。何処だ?」

番号はランダムに振り分けられているので何処が何処だか解らない。


あぁ、一番後ろの窓側から2番目か。これはツイてるな。一番後ろなら俺より後ろには席は無い。後ろから覗かれる心配も無い。これなら授業中に本読める。




「じゃぁ余ったこれが鶴谷の席だな。えーっと……、おい尾浜。鶴谷の席を移動しろ」
「何処です?」

「あー、窓側一番後ろだ。久々知の隣だな。移動させとけ」

「!了解です!」







木下先生!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

今なんて言いましたか!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


鶴谷さんの席が俺の隣と言いませんでしたか!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!!?







「全く、あいつは教壇の目の前に置いておきたかったよ…」
「ははは、まぁまぁ先生そう言わずに」

「頼んだぞ尾浜。よし、お前らも席移動させろ!」


ガタガタと騒音が教室中に流れる中、俺は自分の席を移動させた。

そして勘ちゃんが、鶴谷さんの机を持って、本当に俺の横に置いた。ここ?窓側の一番後ろ?ここまじで鶴谷さんの席なの?運命の女神様爆笑した?まじで?これ現実?


よかったな兵助 と勘ちゃんが耳打ちしてきて、俺は現実だということを実感した。







マンマミィイイヤァアアアアアアアアアア!!!!!!!!











皆が席を移動させ終え、椅子に座る。すると、教室の前のドアがすっ、と開き、




「あれだよ木下先生、たとえばシンデレラがお義姉さまにいじめられてる日々に快感を覚えるようになったとするじゃん?」

「なるほどな。お前のことはもう知らん」
「ごめんなさい」




鶴谷さんがまたスタイリッシュに登校してきた。
今日はwwwwwwシンデレラかよwwwwwwwwwwwwwwww遅刻の言い訳レパートリー多いなwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww


また教室中が笑いにつつまれ、木下先生の遠い目が更に笑えた。



「…ん?なんでお前私の席座ってんの?」
「あぁ、奈緒が遅刻してる間に席替えしたの」
「えー、席替えしてたのか。私の席どこ」
「あっちー」

「まじかー!私特等席じゃん!やったね!」

「あんたの席最後に残った場所だったんだけど」
「まじかよ福ありすぎじゃね?」


鶴谷さんが、俺の横の誰も居ない席を見てふわっと笑った。何今の笑顔凄く可愛かった食べたい。

目に見えるほどの上機嫌で鶴谷さんは隣の席について、




「お、久々知くん隣の席なんだ」

そう、俺に話しかけた。



「うん。おはよう鶴谷さん」

「おはよー。よろしくね!」
「あぁ、よろしく」


本当に宜しくお願いしますね!?!?!?!?!?
俺もう毎日隙あらば鶴谷さんのこと見つめてるかもしれませんけど!!!!気にしないでください!!!!!!!!!!!!!




「鶴谷さん鶴谷さん、兵助の前の席俺なんだ」
「おー、尾浜くん。よろしくよろしく」

「うん、よろしくね!」


前に座る勘ちゃんがそう挨拶をして、鶴谷さんはまたふわっと笑った。

うわもう本当に信じられない本当に俺の隣の席鶴谷さんなのこれどれほど願ったかまじかやっと願い叶ったかこれは幸せだわツラいな観察し放題だわこんなこと考えてる俺キモすぎ死にたい。



「とっとと席ついて自習しろよ鶴谷ー。」
「ういむっしゅー」



木下先生が教室から出て行き、居室はまた少し騒がしくなった。

自習をしろといっても特にプリントを預かってるわけでもなければワークをやってろと言われたわけでもない。言ってしまえば今は自由時間だ。各々が好きなことをやり始める。勘ちゃんは寝ちゃったし、俺もニャル子さんの続き読もう。

あぁ、本当に鶴谷さんが隣の席に居る。まじか。これまじか。ツラいな。少女漫画の好きな人が隣の席になったときに暴走する主人公の気持ち今ならすげぇ理解できるわ。あいつらこんなに心臓バクバクしてたのか。


バサリとファイルから何か紙を取り出し、鶴谷さんはそれをジッと見つめた。


アァーーーーーッ!!!今鶴谷さんが耳に髪の毛かけた!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

あっ、俺これ死ぬわ!!!確実に死ぬわ!!!!
これいつまでこの席なんだろ!!!!!!!心臓に悪すぎだろ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!




しかも今日眼鏡かよ…。鶴谷さんの眼鏡とかエロすぎだろ…。



「んーと、……どしたの?」

「あ、いや、その、」


見すぎてた。バレた。死んだ。


「そ、それ、何をしてたのかなと思って」
「あ、これ?」
「そう。自習用のプリント?」
「んなわけないじゃーん。絵を描いてただけ」

鶴谷さんがヒラヒラと手元にある紙を揺らす。

「絵?なんの絵?」
「これ?大川祭用のポスター案」

「え、なんで鶴谷さんが?」
「んー、まぁいろいろあって。"大川のラスボス"からの司令」

「あぁなるほど。昨日の呼び出しそれの用件?」
「そうそう」

鶴谷さんはイラストが上手いというのを他の女子が話をしていたのを聞いたことがある。鶴谷さん絵上手いんだ。
しかも、確か鶴谷さんは帰宅部だったはずだ。漫研じゃない。なのに立花先輩から直々に司令だなんて、相当上手いんだろうな。見たこと無いけど。


うわ、見てみたい。


「見せて…って、言ってもいい?」

「え、これ?…いやー、これはちょっと…まだ、下書き段階だから、ごちゃごちゃしてるよ?」
「でも見てみたいのだ」
「んー、こんなんでいいならいいけど。まじで汚くて見難いよ?」


はい、と手渡されたB5サイズの用紙には、所狭しとシャーペンが走った跡が刻まれていた。
「ここに日付」「全体的に暖色」「ペインティングの女の子」など、今の段階では何がなんだかわかんなかった。

でも下書きでもこんなにはっきり形が出来てるなんてすごいな。俺、絵だけは描けないから。尊敬する。


「すごいね、よくこんなデザイン思いつくよ」
「いやぁそういうの好きだったから」

「絵とか、よく描くの?」
「えっと…あぁ、うん、気儘に?」
「へぇ、鶴谷さんの意外な一面だ」
「テレるわ」


まじで意外な一面だった。超絵上手いのなら是非蒼紅描いて欲しい。知らないだろうけど。


「はい、ありがとう。出来上がりが楽しみなのだ」
「いやこっちこそ、お目汚しで。うん、じゃぁ出来たら一番に久々知くんに見せるね」
「本当か?嬉しいな」


思わず顔がにやけた。


今聞いた?一番に久々知くんに見せてくれるってよ?まじか?鶴谷さんまじか?

可愛すぎだろ?




用紙を渡して鶴谷さんはまた机に向かってガサガサとシャーペンを走らせた。






そっか。今日から俺は鶴谷さんの隣の席か。

眼福だわ。


いや、幸せだわ。

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